第152話 出汁+うどん=
お出汁ができたとなれば、やる事は一つだ。
うどんをこねるしかねえ。
ブルストとパワースを呼び、三人でせっせとうどんをこねはじめた。
「ショート、本当に向こう側で食ったうどんになるんだな? あの不思議な旨さのスープができるんだな?」
「そうだ。既に出汁を取った! あとはうどんを茹でるだけだ!」
「いいだろう。ここからは全力……全力だあっ!!」
「なんだなんだ、パワースが燃えてるじゃねえか! じゃあ俺も気合い入れねえとな!」
よく分からないなりに、やる気を燃やすブルスト。
勇者村の力自慢が、気合を入れてこねてくれるのだ。
すげえコシのあるうどんになりそうだ。
そして俺の隣。
トコトコやって来たピアが、もちもちとうどんをこねている。
「赤ちゃん用うどんです! あんまりうどんが硬いと大変だと思って」
「気遣い!」
確かに、マドカやサーラ用のうどんはふやかせてやらねばならなかった。
今回は、最初から赤ちゃん用の柔らかうどんを作るわけだな!
こね終わってから、切り分けていくのだが……。
ピアの切り分けるうどんが太い。
大変太い!
日本でもなんか、こういうすごく太くてふにゃっとしたうどんを見たことがあるような気がする。
さて、うどんは大鍋と小鍋で、大人用、赤ちゃん用という感じで茹で分けていく。
基本はコシのあるうどんを食べてもらい、興味があればふにゃっとしたピアうどんも食べられるわけである。
「んまー」
うどんが茹で上がる匂いをかいで、マドカがよだれを垂らしている。
もうお腹が減ったか!
カトリナの膝の上で、手をぱたぱたさせて大変興奮しているではないか。
これを見て、ブルストが嬉しそうに笑う。
「マドカがあんなに楽しみにしてるんじゃあ、美味しく作るしかねえよな!」
「娘か……。子どもがいると、また楽しそうだな」
パワース!
何を意味深なことを言っているのだ!
いや、子どもはいいぞ。間違いなくいい。だがしかしパワースの子ども発言はなあ。うーむ。
「ショートさんが難しい顔してる」
ピアに指摘されてしまった。
うむ、今もの凄い葛藤に苛まれたぞ。
うどんは茹で上がり、既に作ってあった出汁に火をかけ、調理済みの野菜なんかをちょっと載せてお出しするのだ。
食堂では、村人一同が揃っていた。
勇者村パワー組が配膳を終え、ここで俺が宣言する。
「ここに、勇者村うどんは一つの完成を見た! ワールディアにおける新たな麺類のスタンダードとして、俺は勇者村うどんを広めて行きたい! これにはみんなの頑張りが……」
「何ぐだぐだ語ってんのよ! 食べるわよ!」
「お、おう」
ヒロイナが一喝して来て、俺の演説が中断された。
食事が始まる。
誰もが、未経験の味。
魚介出汁のスープの中に、コシのあるうどん。
戻した乾物は、ミーとスーリヤが味をつけて煮込み、副菜として出してある。
うーむ、美味い。
うどんはやっぱり出汁だな……!!
「至上の味わいです」
クロロックがうどんをつるつるっと飲み込みながら、目をキラキラさせている。
カエルの人は感動しているのだ。
彼にとって最高ののどごし料理、うどんに、お出汁が加わった。
「まさか生きている間に、これほどののどごしとコクを味わうことができるとは思いませんでした。感謝……」
瞬膜を閉じて、さらにまぶたを閉じて、口に含んだうどんを喉の奥に流し込んでいく。
後でクロロックに聞いたのだが、まぶたを閉じると目玉が内側に押し込まれて、口の中のものを喉奥へ運ぶ助けになるのだそうだ。
そんな構造してるんだなあ……。
勇者村子どもチームは、わいわいとはしゃぎながらうどんを食べる。
リタとアムトはかなり仲良くなったようで、食べながらお喋りなどしているではないか。
ピアはうどんを即座に一杯片付け、二杯目に入る。
健啖……!
ルアブは普通のうどんと赤ちゃん用うどんをどっちにするか悩んでいたが、半々で食べることにしたようだ。
欲張りさんめ。
そして赤ちゃん軍団。
ビンが柔らかいうどんを口いっぱいに頬張って、ニコニコしている。
「おーしーねー」
「そうだなあ、美味しいなあ」
「ビン、食べながら喋ったら、うどんがこぼれちゃうよ」
「んむー!」
フックとミーに挟まれて、ビンはもぐもぐと一生懸命うどんを咀嚼する。
心温まる光景である。
サーラはうどんをちょっとだけ食べると、んーと言いながら食器で遊び始めた。
大変赤ちゃんらしい赤ちゃんと言えよう。
普通はあんな感じで、食べ物とかで遊んだりしてなかなかご飯を食べてくれなかったりするらしい。
ちなみにうちのマドカ。
「んまー!!」
大きく口を開ける。
そこにカトリナが、短く切ったうどんを放り込む。
「んみゅみゅみゅ」
もぐもぐもぐもぐ食べる、飲み込む。
「んまー!!」
大きく口を開ける。
そこにカトリナが、またうどんを放り込む。
うーむ!
永久機関!
マドカのお腹がいっぱいになるまで、これは続くな!
「よしカトリナ、マドカを貸してくれ! 今のうちにうどんを食べちゃうのだ。マドカご飯は俺が担当しよう……!」
「ありがとー! じゃあ、いただいちゃうね!」
ということで、マドカにひたすらご飯を食べさせるのだ。
本当によく食うなあうちの子は。
このちっちゃい体のどこにそんなにうどんが入るんだ。
いや、確かに小さいが、間違いなくでかくなっていっているな?
食べれば食べたぶんだけ、栄養に変えてサイズアップしている。
マドカとサーラは半年近く年が違うのだが、もう大きさが変わらない。
オーガの血筋を差し引いても、マドカはもりもり成長しているな。
七ヶ月目に入り、最近では寝返りを連続で打てるようになった。
さらには、はいはいではないものの、にじるようにして床の上を移動できるようになったのだ。
「んまー!!」
「よし食え、たんと食え! この一口が、マドカをまた大きく強く成長させるのだ!」
「んみゅみゅみゅ」
もっちゃもっちゃとよく噛むマドカ。
これ、すぐに飲み込まないのは、味わっているのだろう。
結果として消化吸収がしやすい状態になる。
うーむ、我が子ながら末恐ろしい。
どんどんでかくなるが良い、マドカよ!
念動魔法で自分用のうどんを食べつつ、俺は強く思うのだった。
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