第151話 海鮮出汁!

 海の王国から帰還してきた俺。

 ハジメーノ、グンジツヨイ、砂漠の王国への連絡を済ませ、ハグ砂海連合の樹立を宣言した後、いそいそと自宅の調理場にやって来た。


 ここは拡張されており、村のご飯をみんなで作る、総合調理場になっているのである。

 調理担当の、勇者村奥様部隊を召集する。


 奥様筆頭のカトリナ、カトリナの右腕である、ハーブの魔術師ミー、屋台料理の専門家パメラ、砂漠の王国風料理で新風を巻き起こしたスーリヤ。

 この四人とともに、ある重要な作業をしていくのである。


「では、これから……しっかりとお出汁を取って、スープを作って行こうと思います!!」


 俺が宣言すると、おおおお、と奥様部隊がどよめいた。


「ショートと行った海の王国のスープがね、お塩でもハーブでもスパイスでも無くて、不思議な美味しさがあったの。お塩は美味しいけど、取りすぎると体に良くないでしょ。喉が乾いちゃう。ハーブとスパイスは、これだけ人数がいると消費も馬鹿にならないもんね。でも、海の王国のスープ、磯汁って言うそうなんだけど、これってね、スープの具からスープそのものの美味しさを引き出すの。これを覚えたら、料理の種類も増えるし、お塩も使いすぎなくて良くなるよ!」


「お料理革命だね」


 ミーがむむむ、と唸った。


「あたしは塩をばりばり使っちゃうからなあ。確かに、屋台やってる仲間の年寄は、しょっぱいもの食いすぎて病気になっちゃうのがいたなあ」


 パメラも自分の経験を思い返し、納得するところがあるようだ。


「ハーブもスパイスも高いですからね。具材の調理と味付けが同時にできるなら、それは素晴らしいことだと思います」


 さすがスーリヤ、奥様部隊年長者の貫禄である。

 言葉に説得力がある。


 ちなみに奥様部隊で、最年少がカトリナ、次にミー、パメラ、最年長がスーリヤ。

 ここ最近、スーリヤがおかずを作ることが増えているらしく、砂漠風のハーブたっぷり料理が多い。

 カトリナもレパートリーが増えたと言って喜んでいた。


「よし、じゃあやってみるか!」


 新しいことには、村長が率先して挑む。

 それがうちの村のルールである。


 奥様部隊の助言を受けつつ、俺は鍋に張った水に、海鮮の乾物をガッツリ入れた。


「入れすぎると戻りませんよ」


 スーリヤの言葉でハッとする。

 そう言えばそうだ。

 乾物を戻すのもあるのだった。


 ほどほどの量にして、火に掛けて煮込んでいく。

 俺がやっているのを見て、カトリナとパメラもチャレンジしてみるようだ。

 カトリナにはミーが補助として付いて、パメラはスーリヤとコンビ。


 いや、スーリヤは全体的に料理のできを見るため、俺とパメラのところを一緒にチェックしている。


 乾物が戻るまでの間、まったりする。

 吹きこぼれないようにだけ注意せねばな。


 食堂では、草を編んだレジャーシートみたいなのを広げて、勇者村の赤ちゃん軍団が遊んでいる。

 マドカ、ビン、サーラだ。

 これを、ルアブが緊張感に満ちた面持ちで見守っている。


 俺が守護らねばならぬ、とか思ってるんだろうな、あの五歳児。

 いいぞいいぞ、一番お兄ちゃんだという自覚。


 おっ、積み木を、マドカがもがーっと齧った!

 そして味がしないことを確認すると、ぽいっと捨てた。


 それを念動魔法でふわっと浮かせて元のところに戻すビン。

 サーラが、きゃっきゃっと喜んで笑った。


 いつもなら、トリマルやアリたろうもいるのだが、彼らはピアのところで一緒に何かしているようだ。


「まおか、ぽいしたら、めーよ」


「んま」


 ビンがマドカに注意しているが、うちの子は分かってるんだか分かってないんだが。

 まあ、まだ生後半年ちょいだからな。

 物を食うときだけ、知性の輝きを見せることがあるが。


 この赤ちゃんたちを、俺と奥様部隊でほんわかして眺めているのである。


「パメラさんはいつだっけ?」


「ええとね、多分、雨季に入って少ししたら生まれるかな」


 なるほど、勇者村四人目の赤ちゃんはそこで誕生か。

 ブルストとパメラの子どもだと、でかそうだな……!


 そしてじっとカトリナを見る。

 カトリナはオーガだけど、ちっちゃいんだよな。


「ん?」


「なあカトリナ。カトリナは生まれた頃は大きかったのか?」


「ああ、パメラさん見て思いついたでしょ。えーとね、オーガは生まれた時、人間の赤ちゃんと変わらないんだよ。成長する時に、男のオーガはぐーんと大きくなるの。成人してもしばらく成長し続けて、三十歳くらいまでは背が伸びるってお父さん言ってた。女のオーガはね、二十歳くらいまで伸びるの」


「ではカトリナも成長期……!?」


「私はもうあんまり伸びなくなったなあ……」


 ちょっとしょんぼりするカトリナである。

 やっぱり個人差があるらしい。


「ミノタウロスも変わらないよ。生まれる子どもは人間と一緒だからね。ただ、男は一生角が伸び続けるんで、その角の大きさとか色艶で格が決まるねえ」


 成人後のミノタウロスは、角の伸びがゆっくりになるそうだ。

 だから折れてしまうと、再生する、というほどは伸びない。

 それでも少しずつは伸びるから、これを折らず、維持していくことが男のおしゃれになるのだとか。


 ちなみに戦いで折れた跡や、戦いでついた傷はむしろモテる要素になるのだと。

 奥深い。


 とかお喋りしていたら、いい感じで乾物が戻った。

 お皿に取り出して、さて、汁の具合は……。

 おお、淡く褐色に色づいて、なんともいい香りがする。


「では皆さん」


 奥様部隊も、小さなお皿にお出汁をちょっと。

 このお皿、ブルストの薫陶を受けたピアが作ったものである。

 ざらざらした手触りと、妙に分厚い無骨さが味のある作りだ。


「お出汁を味わってみよう!」


 と、言うことで!

 口に含んだお出汁の味の、その豊かなこと!


「おお、うめえ……!! 出汁、こんなに美味かったのか……!!」


「あー、塩でもハーブでもなくて、こういう味が出るんだねえ。おもしろーい!」


「なんだか染み込んでくるみたいな味だよね?」


「お上品な味だねえ。塩をバカスカ入れたら消えちまいそうだ」


「お塩は控えるんでしょ?」


 スーリヤに突っ込まれて、そうだった、とパメラが舌を出した。

 ドッとみんな笑う。


 この様子を、赤ちゃんたちが不思議そうに眺めているのだった。


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