第146話 勇者村釣り大会!

 世界の裏側では大変なことになっているようだが、それはそれ。

 俺は万能の正義の味方ではなく、勇者村の味方なのだ。


 ということで。


「勇者村釣り大会を開催する!!」


 俺が高らかに宣言すると、参加者一同がわーっと盛り上がった。

 というか、村の人間が全員いる。

 ホロロッホー鳥軍団にヤギ三頭にアリクイまでいる。


 今回は、村の休暇ということにして、みんなで遊びに来たのだ。

 ここはいつか訪れたことがある渓谷。

 クロロックの家から、ちょっと川をさかのぼったところだ。


 こんなこともあろうかと、ブルストが作っていた大量の釣り竿がある。

 自分に合ったものを使い、めいめい釣りを始めた。


「釣りってどうやるんすかね」


 ニーゲルが困った顔をしている。

 グンジツヨイ帝国には川が無かったもんな。


「うちが教えたげる!」


 ピアが挙手し、そこにリタやアキムやルアブも集まってきた。

 ピアの釣りはブルスト直伝らしい。

 いつの間にか弟子が増えている……。


「ブルスト派閥が力を増しているな」


「ふっふっふ、釣りはできて損はしねえからな。よっと」


 当のブルストはマイペースで、川面に糸を放る。

 妻のパメラも、釣りはそれなりにできるらしい。

 川原の虫を捕まえて針に刺し、堂に入った仕草で水面に糸を垂らした。


 でかい夫婦が並んでのんびり釣りをしている。

 仲良しである。


 対して、ブルストの(釣りの)ライバルであるエンサーツ。

 今回は女王と王配の目付役で来たのだが、釣り大会となればそんな事をやっている場合ではない。

 正直どうかと思うが、真剣に釣りをするため、魚の様子を見ながらいいポジションを探しているのだ。


「おう、ショート、付き合え。釣るぞ!」


「えっ、俺には妻と子を見守る仕事が」


「私とマドカは大丈夫だよー。ほら、ちっちゃい子組でこっちで遊ばせてるから」


 カトリナが手を振る。

 そこには、スーリヤとサーラがいる。

 サーラはマドカよりちょっぴりお姉さんなので、何やら赤ちゃん言葉混じりに、妹分へぺちゃくちゃ語っている。


 口を半開きにしながら、サーラの話を聞いているマドカ。

 うーん! あそこにいて赤ちゃん同士の社会を覗いていたい……!


 だが、釣りもしたい。

 俺だって去年よりは腕を上げたのだ。

 ブルストに教わり、クロロックに心を動かさぬ秘訣を学んだからな。


「どれ、エンサーツ。俺が凄い釣師になったところを見せてやる」


「お、言うようになったな! じゃあここにしようぜ」


 川面に突き出した岩場で、ちょっと距離を取って座る。

 釣り糸を垂らして、まったりするのだ。


 本日も晴天なり。

 乾季の空は呆れるほど真っ青であり、しかし渓谷は常に日陰なので、ほどよく涼しい。

 川上からは気持ちのいい風が吹いてくる。


「ショート、乾季だってのに、なんで川が枯れないんだ?」


「それはな、川上が違う気候らしいんだ。熱帯雨林っていうの? 常に雨が振ってるような蒸し暑いところらしい」


「へえー。どうなってるんだこの辺りは。お前が住んでる勇者村が、既にハジメーノ王国最辺境なんだよ。その奥なんて、誰も入ったことがない場所だ。だけどな、一つの国の中で、こんなにころころ気候が変わるなんて他にはないぜ。この国には何か秘密があるのかもな」


「言われてみればそうだな……。もともと俺の故郷は雪が降るところでな。俺は寒さが大嫌いなので、ほぼ夏しか無い勇者村は最高の環境なのだ。あまりに自分好みの環境なので、追求する発想が無かった」


「雪か! 一度だけ見たことあるな。グンジツヨイ帝国は雪が降るんだろ? 一面、都が真っ白になるとよ。見てみてえなあ」


「じゃあ今度案内するよ」


 唐突にハナメデルが話に加わってきて、俺とエンサーツは飛び上がるほど驚いた。


「うわーっ、いつの間に!!」


 ハナメデルが、俺とエンサーツの間で釣りをしていた。


「二人が話に夢中になってる間にね。いやあ、釣りは楽しいねえ……のんびりと川面を眺めているだけで時間が過ぎていくよ。あ、引いた」


 早速ハナメデルの針に魚が掛かったらしい。

 彼は落ち着いた様子で立ち上がると、「それっ」と掛け声をあげ、見事に小さめの魚を釣り上げた。

 これを、ブルスト謹製の桶に入れる。


「ハナメデル、いつの間に釣りの技術を……!?」


「エンサーツに教えてもらったんだ」


「おうよ。王配殿下は俺の弟子だぜ」


「僕の腕前はどうだったかな師匠」


「悪くないんじゃないですかね。欲をかかないところがいい」


 なんてことだ!

 ライバルが増えていくではないか。

 俺も負けてはいられん。


「ぬおおお! かかれ、かかれーっ」


 念を込めて釣り竿を握る。

 すると、糸がぴくんと反応した。

 黒い影が、針を飲み込んでいる!


「来たアーッ!! フィーッシュ!! ツァーッ!」


 俺は満身の力を込めて、釣り竿を振り上げた。

 見よ、この速度! タイミング! 技の切れ!

 そして糸も切れ。


 釣り竿を振り上げるために使ったパワーの全てが俺に返ってきた!


「ウグワーッ!?」


 俺は吹っ飛んで壁に激突し、めり込んだ。


「……ショート、自爆芸が去年より派手になったな……」


「すごいねえ。でもショート、そんなに激しく竿を振ったら糸が切れても仕方ないよ」


「解せぬ……」


 岩から出てきた俺は首をかしげる他ない。


「ショートはな、こう、覇気みたいなのが満ちすぎてるんだよ。やる気になった瞬間に魚が怯えるんだな」


「つまり、俺が本気になり過ぎるから釣れないというのか」


 エンサーツの言うことももっともである。

 下手な戦争介入よりも、釣り上げる瞬間の方が気合が入るもんな。

 釣りは難しい……。


 そう言えば去年、カトリナの方が俺よりも上手かったな。

 ここは、奥さんに仇をとってもらおう。


「ちょっとカトリナ呼んでくる」


「おう、勇者夫婦連合軍だな。どんと来やがれ」


 エンサーツの挑発!

 今に見ていろよ!


 俺はサッとカトリナの元に戻ると、救援要請をした。


「私が釣りを? いいよいいよ! やったげる!」


「オナシャス! カトリナさんのすげえところをあのハゲマッチョに見せてやってください!」


「まっかせて! あ、マドカは見ててね」


「うま!」


「はっ!」


 元気にお返事するマドカを、預かる俺。

 そして俺たちの奮闘を見学すべく、スーリヤもサーラを連れてやって来た。


 かくして始まる、第二回戦。

 頼むぞカトリナ!



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