第145話 ハジメーノ王国首脳会議……と見せかけて勇者村バカンス

 ポリッコーレ共和国、周辺諸国を侵略開始!

 この報を受け、女王トラッピアが宣言した。


「状況への対策を講じるため、勇者ショートの意見を仰ぎます! ついては、勇者村にてハジメーノ王国首脳会議を行うわ!」


 なぜうちなんだ。


「いいじゃない」


 順番にコルセンターでお取り寄せされる、トラッピア、ハナメデル、エンサーツ。


「首脳会議とか言うくせに、見知った三人しかいないのだが?」


「うちの国なんて他はボンクラしかいないわよ。外交はわたし。内政はハナメデルで全部持ってるんだから」


「あー、まあ、皆さんには細々とした単純作業を割り振ってるよ」


 ハナメデルが微笑んだ。

 なるほど、能力差が大きすぎるらしい。

 魔王大戦で活躍した英雄みたいなのと比べると、一般人は文字通りレベルが全く違う。


 政治を行う能力にも差が凄いんだな。


「んで、うちで会議って何をするつもりだ」


「そうねえ。ショートの意見を聞かせてよ。それより久しぶりなんだから、あなた、村を案内なさいな」


「うおっ、トラッピア、腕を組んでくるのをやめろー」


 わいわいやっていると、カトリナもマドカを抱っこしてやって来た。


「お久しぶりですー」


「うまー」


「ハッ」


 マドカを見た瞬間、トラッピアがハッとして飛び下がった。


「うっ、あ、あれが噂のショートの子ども……!! 存在は知っていたけれど、こうして大きくなった本人を目の前にすると、ショックが大きいわね……」


 まだ俺に未練があったのか……!

 ちなみにハナメデルは、「あー、かわいいね。賢そうな顔だ」なんて言いながらマドカを抱っこさせてもらっている。


「うわあ、あったかい。大人しい子だねえ」


「抱っこした人の考えてることが分かるみたいで、いたずらっ子に抱っこされると暴れるんですよ」


「へえー」


 ハナメデルがマドカの顔を覗き込む。

 マドカは、目をまんまるにしながらハナメデルをじーっと見ていた。


「ぷ?」


「おう、そうだぞ。お父さんの友達だ」


「あぷ」


 よく分からんが、マドカは納得したらしい。

 しかし、抱っこした人の考えてることが分かるというの、文字通りの意味だろうな。


「で、ショートの意見」


「あー。えーとな、世界の裏側だろ? 絶対こっちに影響は来ると思うけど、放って追いたらどうだ? 影響が出てきたら叩き潰せばいい」


「単純明快ねえ……。ま、あなたのお陰でハジメーノ王国は、完全に自給自足が可能になってるのよね。だから別に、他国との関係が断絶しても国体を維持できる」


 ハジメーノ王国は、それなりに広大な国土と、割と肥沃な大地を持っている。

 海にだって面しているし、山があって鉱山もある。

 きちんと開発して、計画立てて資源を使えば、単独でやっていけるのだ。


「じゃあ、そういうことにしましょ。国家連合を作ってる他の国も、まだ被害がないみたいだし。エンサーツ、状況を説明なさい。ああ、ショートは村の中を案内して」


「女王様は人使いが荒いな」


 エンサーツの、世界の状況説明を受けながら勇者村を練り歩く。

 俺にとっては見慣れた村だが、トラッピアとハナメデルには新鮮らしい。


 緑の穂を揺らす、一面の水田を見ると、二人は感嘆の声を漏らした。


「きれい……」


「うん。空を映し出す水面に、鮮やかな緑が映える……。こんな美しい光景が、ハジメーノ王国にあるなんて……」


 田んぼが好評で、俺はニヤリと笑って胸を張った。


「見た目だけじゃない。ここから取れる米は美味いんだぞ。収穫したら、こんどごちそうしてやるよ」


「なるほどね。ショートが戦いに出たがらないわけが分かったよ。君は今、命を育てているんだね。戦って壊すよりも、遥かに大変で大切なことをしている」


「ハナメデル、いきなりいい事を言い出したな」


「トラッピア。僕らも彼をあまり頻繁に連れ出すべきじゃない。彼は守るものをたくさん持ってるんだ。僕たちだけでどうにかできなくなった時だけ、彼を呼ぼう」


「まあ、そうね。そこの赤ちゃんもいるんだし」


 トラッピアがチラチラとマドカを見る。

 ハナメデルの腕の中にいるマドカは、トラッピアをガン見である。


「んままー」


 お、カトリナに向けて腕をぶんぶん振り回し始めた。

 お母さんのところに戻りたくなったな。


 カトリナがマドカを受け取る。

 マドカはカトリナの大きな胸にむぎゅむぎゅ顔を沈めて、静かになった。

 あれは寝る体勢だ。


 場が、ほんわかした感じになる。

 そこで、小さくエンサーツが咳払いした。


「失礼。いいですかね。ポリッコーレ共和国は、今まで自国に賛同していた近隣国家を吸収し、拡大を続けています。ありえない速度の拡大ですな。間違いなく、内部ではまともな支配体制など作られていません。現にあちこちで反乱が起きているそうです。それでも、拡大をやめない。正気の沙汰ではないですな」


「そりゃあ、奴らは魔王を召喚したんだ。おかしくなっちまって当たり前だ」


 俺の言葉に、王国首脳の三人がギョッとした。


「魔王……!?」


「おう。次元に関する魔法を書き記した魔本が、消滅したそうだ。場所はポリッコーレ。俺は何も感じ取れなかったが、魔本一冊を使い潰して、あいつらは何かを呼んだ。俺に対抗するためなら、それは魔王だろ。あ、ちなみに遊牧民帝国には目を配っておいてくれ。あいつらも俺を恨んでいると思うから、絶対にポリッコーレと手を組むぞ。何か動きがあったら、トリマルを派遣する」


「あのホロロッホー鳥ね」


「遊牧民帝国相手なら、トリマル一羽で充分だからな。下位の魔将クラスまではトリマルで対処できる。トリマルがピンチになったら俺が来る」


 万全の態勢である。

 これにて、首脳会議は終了となった。


 さて、その後、首脳陣は全く帰る様子を見せない。


「せっかくだから、エンサーツが遊んだ釣りというものをやらせなさい」


「すまんなショート。女王陛下が、釣りの話を聞いてからやると言って聞かないんだ」


「マジか。よし、俺の釣りの腕が上がったところを見せてやるぞ! カトリナ、ブルストも連れて行こう。俺の釣りの師匠だ」


「はいはい。お父さん喜ぶと思うなー」


 かくして、勇者村釣り大会が始まるのである。

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