第144話 共和国、侵略・あるいはピアの新しいおうち

「大変なことになってるぞショート!」


 エンサーツがまた慌てて連絡をしてきたのである。

 今日は昼過ぎのことだ。

 俺とブルストで、ピアのための新しい家を作っているところだった。


 家ができあがる様子を、ワクワクしながら見ているピア。

 なぜかアリたろうを抱っこしている。


 そうか、アリたろうもここをねぐらにするのか!


 子どもと動物が集まる家になりそうだな。


「それでどうしたエンサーツ」


「おう。ポリッコーレ共和国だが、人道的理由がなんちゃらかんちゃらって言ってな、周囲の国に宣戦布告をしたんだ」


「えっ!? 平和を愛する的な国だったのに戦争仕掛けるのか」


 これはびっくりだ。

 聞けば、この情報が入ってきた時には、既に宣戦布告から三日くらい経っていたらしい。

 高速で情報を得られる機関がない世界だからなあ。

 伝書鳩で情報をやり取りしてるらしいぞ。


「じゃあ今頃、共和国の大きさは倍くらいになってるかも知れないな」


「どういうことだ?」


「ああ、多分、ポリッコーレ共和国は魔王を召喚した。あの国の中にいて、力を貸してるぞ」


「なんだって!?」


 エンサーツの顔色が青くなる。


「そりゃ一大事じゃねえか。ショート、なんとかしないのか」


「なんとかって言われてもな。俺も、息を潜めて気配すら感じ取らせないような魔王を探し出すのは骨だよ。何より、今はスローライフが忙しい。いや、ずっと忙しい。片手間で魔王と戦う感じになる……おっ、ブルスト、そっちを持てばいいんだな?」


 しばらく、トンカントンカンと建築にかかりきりになる。


「ポリッコーレ共和国はこの星の裏側だろ? まだまだ影響はこっちに来ないだろう。分かりやすい動きがあったら教えてくれ」


 自由で、人類という種を救うために魔王軍と戦っていた勇者時代とは違う。

 俺は俺で、勇者村という共同体の長なのだ。

 第一に守らなければならないのは、勇者村であり、村人たちのメンタルケアなんかが一番大事なのである。


 世界は元勇者に頼り切りになるのを控えて、自分でなんとかするようにしていただきたい。

 あと、俺を仮想敵にして魔王を召喚するとか、破滅フラグしかないような事は控えてほしいもんだ。


 俺がこれまで介入してきた戦争は、どれもこれもが俺の直接的利益に関わるところだ。

 つまり、俺は利害が絡まなければ動かない。


 魔王大戦は終わったのだ。

 元勇者にも生活がある。

 生活に関わらない限り、俺は勇者村でスローライフをするぞ……!


 なに?

 世界のどこかで戦争やらがあれば、回り回ってこちらの生活圏にも影響が?


 それが無いように、友好的な国家には完全自給自足ができるように援助しているのだ!

 ぶっちゃけ友好国しかない世界になっても問題ないぞ。


 ということで、俺はこの件についてはしばらく寝かせておくことにした。

 グンジツヨイ帝国は自力でなんとでもするだろうし、砂漠の王国はピンチなら、アブカリフがヘルプコールをしてくるだろう。

 ハジメーノ王国のトラッピアも同様だ。


 ということで。

 柱に壁をくっつけて、窓を作って補強し、虫が入ってこないように蚊帳を貼り付け、そして屋根を載せる!!

 ピアのおうちが完成である。


「やったー!!」


 ピアがアリたろうを高い高いして喜んだ。

 コアリクイとは言え、アリたろうはそれなりに重いはず。

 これを軽々持ち上げるとは、なかなかのパワーだな、ピア!


 ちなみに、日々農作業に動物の世話、屠畜でお肉を作り、俺たちが狩ってきた獣をせっせと解体したりと体を使っているピア。

 村に来たばかりの頃は、リタよりも背が低かったのだが、今ではリタよりも大きい。

 縦も横も。


 脂肪の多くは筋肉に変わり、白くてぷにぷにしていた肌は、小麦色に焼けて健康的に輝いている。

 よく食い、よく働き、よく寝る。

 勇者村での日々がピアを変えたのだ!


 割と女子プロレスラー体型になってるよな?


「うわあー、うちの家だー! 一人用の家をもらっちゃって、嬉しいー! どうしようかなー、どこに食べ物置こうかなー。あ、壁にラックがある! ここに解体用の道具をぶら下げて……」


「もがー」


 下ろされたアリたろうが、ドテドテとピアのおうちを走り回る。

 大きさは大したことはない。

 六畳間程度のワンルームだ。

 ベッドが用意されており、これで部屋の半分近くが埋まっている。


 それでも、ピアにとって初めての自分だけの城なのだ。

 今日を持って、彼女は侍祭を辞め、勇者村のお肉加工職人ピアとして独り立ちするのである。

 ピアハウスは、俺とブルストからのはなむけであった。


「ピア、こいつが、手前村で買って来たお前専用の道具だ。よく手入れをして大事に使えよ!」


 ブルストが、お肉加工道具一式を手渡す。

 ずっしりと重い。

 ピアがキラキラ目を輝かせる。


「はい、ししょー!」


 ブルストとピアも、師弟関係なのだ!

 なんか最近では、暇を見つけて焼き物も教えているらしいな。

 ピアがちっちゃいブルストみたいになりそうだ。


 そうこうしていたら、森に狩りに出かけていたパワースが戻ってきたようだ。


「おーい! イノシシが獲れたぞ! 解体を頼む!」


 仕事である。

 ブルストとピアが立ち上がる。


「よし、いっちょやるか! 新しい道具を早速試さないとな!」


「はい、ししょー! 腕が鳴ります!」


 本日のところは、勇者村は平和なり。

 この平和が脅かされぬよう、アンテナを張っていかねばならんのだ。


 それはそうと、俺もイノシシのお肉加工現場を見物に行こう。


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