第141話 勇者村近況

 長粒種も短粒種も、それなりに穂が伸びてきて熟しつつある。

 何もしなくていいというわけではないが、それなりに余裕ができた。

 遊牧民帝国も静かだしな。


 ということで、勇者村の中を歩き回って色々話を聞くことにした。


「んまー」


「おっ、マドカもお父さんと一緒にいくかー」


「あー」


「ではカトリナ、マドカは預かっていくぞ……!」


「ありがとー! 助かるー」


 奥さんとハイタッチした後、マドカを抱っこして村の中を歩き回る。

 そろそろ、マドカも生後六ヶ月にならんとする辺りである。

 自分で寝返りも打てるようになり、さらにはなんと、ちょびっと歯が生えてきた。


 寝返りを打って腹ばいになった後、じたばた動いていることがあるので、この様子ではすぐにはいはいを始めるであろう。

 赤ちゃんの成長は早い……!!


 ちなみに、最近勇者村にて爆誕したヨーグルト。

 マドカは口にするなり「うぇー」と言ってペッしたので、酸っぱいのはダメらしい。

 なんでも食うと思ったが、好き嫌いがあるのだな。


 久々に教会に足を運んで見る。

 日差し強めのこの時間帯は、学校の時間だ。

 一時間くらい、ヒロイナが教鞭をとる。


 今日は、計算の授業だな。

 ブルストやパメラ、フックとミーが真剣な顔で指を折りながら数を数えている。

 うんうん、大事な授業だ。


 アムトはこの辺りの内容は、砂漠の王国でマスターしているらしい。

 リタとマンツーマンで、神学の授業を受けている。

 にやけているぞ。


「あ、ショートさん!」


 俺が覗いていることに気付いて、フォスが寄ってきた。

 今日も目をキラキラさせている。


「調子はどうだ、フォス」


「いいですよ。勇者村に来てから、毎日やることに意味があるんだってよく分かって。農作業も楽しいです! あとは、ヒロイナさんが教会の仕事に集中できるように、僕が家事をやってるんですよ」


「ヒロイナにやらせると仕事が増えるだろう」


 俺の言葉に、フォスは笑って返した。

 リタもピアも、自ら動いて学んでいく時期に入っている。

 雑務等は、それが得意なフォスがサッサと片付けるようになっているそうだ。


 だから最近、ピアもしょっちゅう外で見かけるんだな。

 うちの母親と一緒に料理してたり、クロロックやニーゲルに混じって肥溜めを掻き混ぜたり、ブルストに誘われて釣りに行ったり、朝や夕方は畑や田んぼに入って農作業をしている。


 あれ? ピア、教会にほとんどいなくないか?


「ピアはですね、ヒロイナさんが言うには、魔法の才能が全く無いんだそうです」


「ほう。確かに、魔力が弱いから安心して地球に送り出せるんだが」


「ええ。ですから侍祭から司祭になるにしても、あくまで役職上そうなるだけだと。むしろ、勇者村の暮らしは彼女によく合っているようですから、そのうち侍祭をやめてもらって、村の一員として暮らしてもらったほうが……という話になっています」


「なるほどなあ。そうなると、ピアのための家がいるか? いや、子ども一人では心配だな。どうしたものか……」


 新しい思案の種が増えた。

 ……と思ったが、外をホロホロ鳴く鳥たちと、鼻歌をうたうピアが歩いていく。


 鳥舎の近くに寝泊まりできるところを作ればいいか!

 トリマルが遊びに行くだろう。


 フォスに別れを告げて、村の中を歩く。

 日陰を縫っていく形だが、村のあちこちに丘ヤシの樹を植えたお陰で、日陰には困らないのだ。

 綿花畑の横の丘ヤシで、アキムとスーリヤ夫婦がのんびりしていた。


 スーリヤの横で、地面の草を抜いたりして遊んでいたサーラが、マドカの接近を察して手を振ってくる。


「まおあー」


「まー」


 赤ちゃん同士の挨拶が交わされている。

 サーラは生後十一ヶ月ほどなので、マドカよりもお姉さんだ。

 つたい歩きができて、アリたろうなどにフォローされると、割とあちこち動き回れる程度の機動力がある。


 マドカをサーラの前に下ろすと、二人で草をぶちぶち抜きながら遊び始めた。

 マドカが草を口に入れて、「うえー」と顔をしかめてぺっぺっする。

 これで草はそのままでは不味いと学習したな。


「ショート様、どうも。いいお天気ですねえ」


「本当にいいお天気。砂漠の王国よりはお日様は強くないけれど」


「ああ、こっちは日陰が多いからな。湿気も少ないから、乾季は日陰に入ってれば割と涼しいんだ。で、こっちに引っ越してきてどう? もうかなり慣れたか?」


「ええ、はい。みなさん優しくしてくださるんで。毎日びっくりすることばかりですが、それでもみんな喧嘩をすることなく、こんなに平和だってのは驚きですよ」


 アキムの言葉に、スーリヤが頷いた。

 人種どころか、種族まで全く違ったり、人ではない住人すら我が物顔で闊歩する村だからな。

 些細なことで喧嘩などしていられないのだ。


 そもそも、喧嘩をしたら命が危ないような相手がちょこちょこいる。

 また、ピアがホロロッホー鳥たちを率いて、田んぼに向かって歩いていく。

 ピアの横にいるトリマルは、見た目で判断してはいけない相手筆頭だな。


 おっ、途中でビンとアリたろうとルアブが合流した。

 勇者村ちびっこチーム勢揃いだ。

 この集まりのリーダー格はトリマルなのだが、彼はピアに一目置いているフシがある。


 ということで、ピアがこの一団を率いているように見えるのが面白い。

 あっ、ヤギ三頭が合流した!

 なんだなんだ、一体何が起こるんだ。


「毎日ああやって、勇者村の動物たちが一緒になって村中を練り歩いてるんです」


 アキムの説明に、俺は驚いた。

 そんな事が起こっていたのか……。


 あれは村のパトロールみたいなものとも言えるし、この集団が食べられる草などを探す行動でもあるのだろう。

 ホロホロ、めえめえ、もがー、と大変にぎやかである。

 それに加えて、ピアとルアブとビンが、めいめい勝手に鼻歌を奏でている。


「いいところですなあ」


 アキムが呟いた。


「ああ。いいところになるように、毎日頑張ってるんだ。みんなも頑張ってるから、いいところになってる。大変だが、やりがいのある仕事だぞ」


 俺は自信を持って答えるのだった。


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