第140話 乳製品を生み出せ
ヤギはもりもりと草を食べまくり、たくさんミルクを出した。
こいつら、なんでこんなに出るんだというくらい出した。
「勇者村の植物は、もしかすると変異している可能性があってですね」
「えっ、またそのパターンか!」
ブレインの言葉に俺は驚愕する。
「ショートがずっと住んでいたり、トリマルやビンがいたり、たまにピカピカ光る人が降り立ったり、しょっちゅう向こうの世界とこちらが繋がったりしているでしょう。土地の魔力がおかしくならないほうがおかしいのですよ」
「なるほど、言われてみるとその通り。ここは異常な環境だった」
ポンと手を打って納得。
すると、村に生える草や虫を食べているホロロッホー鳥たちも、変化しているのかも知れないな。
「とりあえず、ミルクがたくさん取れるのはありがたい。そろそろそのまま飲むのではなくて、ヨーグルトを作ろうと思ってな」
「ああ、いいですね。確か別のヨーグルトを少し足して作るものだったと思いますが」
「なるほど!」
ということで、早速イセカイマタニカケを使い、うちの母にヨーグルトを買ってきてもらった。
「ヨーグルト作るの? 私もやるわ」
ちょうど今日はお休みだった母が、やる気まんまんでやってくる。
かくして、勇者村のヨーグルトづくりが始まった。
と言っても、桶に溜めたミルクに、ヨーグルトをドバっと落とすだけ。
これを俺と母で、マドラーみたいにした棒でぐりぐりかき混ぜる。
その後、結界魔法サンゼンセカイ(俺命名)で密封。
一見するとオープンエアだが、結界に包まれているので超新星爆発でもくらわない限り、ミルクは無事だ。温度だけは重要らしいので、結界内を30度弱に保っておく。
このまま一日か二日放っておくらしい。
母はヨーグルトづくりをすると、満足したのか村の奥様方とおしゃべりに行ってしまった。
なんて異世界を満喫しているんだ。
次にチーズ。
ブレインやカタローグを集めて相談したところ、どうやらレンネットという酵素が必要なようだ。
すなわち、牛とかヤギの子どもの胃袋にある消化液の成分である。
俺は直接、これを貰いに行くことにした。
そう、遊牧民帝国に遊びに行くのである。
バビュンで空を飛びながら、彼らがたくさん集まっているところに到着すると、遊牧民帝国が臨戦態勢になった。
「ゆ、勇者だ!」
「人間でありながら我らに敵対する!」
「ついに滅ぼしに来たか! まけんぞ!!」
この間、軽く撫でてやったので警戒されている。
「レンネットをもらいにきたぞ。何、子羊とか子ヤギを殺して採取することはない。魔法でちょっとだけ摘出する」
「は?」
遊牧民たちは、ポカーンとした顔になった。
俺は彼らが見守る中、子羊のお腹に手を当てて、スッとレンネットの成分をちょっぴり抜き取った。
何匹かちょっとずつもらい、結界に集めていく。
「ではな! 協力に感謝する!」
呆然と俺を見送る彼らをよそに、勇者村に帰還するのである。
あ、そうか。あいつらの中では、まだ遊牧民帝国と俺は戦争中なのか。
まあいいや。
レンネットは、後日発酵させたミルクに使うことにする。
これはアイテムボクースにキープ、と。
帰ってくると、結界になったミルクの前にピアがいた。
こやつ、どうやって食べ物の気配を嗅ぎつけるんだ……!
「ショートさん……! これはもしかして……新しい食べ物ですか!!」
「そうだ。よく分かったな」
「なんか、見てるとただのミルクだけど、うちの勘が告げるんです。とんでもないこものが生まれてくるぞって」
手前村では、ヨーグルトは一般的では無かったらしい。
家畜の乳を飲む、という概念自体、最近になってあちこちと交流してから仕入れてきたようだからな。
それまでは、手前村で言うミルクみたいなものは麦や豆を使った、豆乳のようなものだった。
「ヨーグルトと言ってな。なんだか酸っぱくて体にいいものだ」
「酸っぱい食べ物ですか! うわあ、楽しみ……」
食の冒険を恐れぬ娘、ピア。
そうだ、彼女を、乳製品づくりの担当にしよう。
俺はそう決めた。
その後、ブレインを加えて今後の計画のディスカッションが始まる。
最初のヨーグルトを種として、少しずつ増産していく。
保管は俺のアイテムボクースとする。
チーズはヨーグルト増産が軌道に乗ったら、作成していく。
乳製品主任は、ピアを任命する。
つまみ食いし過ぎないこと。
「任せてください!! うちは、ヨーグルトをきちんと作ってみせます!!」
おお、ピアの目が、使命感と食欲に燃えている。
かくして、勇者村乳製品生産計画が始まった。
基本的に地産地消である。
これを輸出するとか、名産品にするとか、そこまでの量は作らないし作れない。
しかし、うちの母がヨーグルトを使った料理などにも造詣が深いため、彼女の教えを受けて勇者村の食生活は、より向上していくであろう。
そして翌日になった。
「遊びに来たわよ、翔人! ヨーグルトどう?」
「今自力でイセカイマタニカケ越えてこなかった? なんでできるようになってるの?」
「そんなことどうでもいいじゃない! ヨーグルトヨーグルト! 私ね、バケツヨーグルトは初めてなのよねー」
「バケツじゃない、桶だ桶」
果たして、ヨーグルトは完成していた。
結界を解くと、ゆるいヨーグルトが、酸っぱい香りを放っている。
うーむ、できた。できてしまった。
どこからかヨーグルトの香りを嗅ぎつけて、ピアが走ってきた。
「できましたか!!」
「できました」
「ひ、ひとくち……」
食の冒険を恐れぬ娘だな!!
木匙を渡すと、ピアはすぐさまパクっと食べた。
「んー。酸っぱい……! 初めてのお味……」
酸味もいけるクチであったか。
「翔人、この子は?」
「これから我が村のヨーグルト担当になるピアだ」
「まあ! あのね、母さんね、ヨーグルトについて書いてある本をたくさん買ってきたの! それじゃあこれから、この子と一緒に作ればいいのね!!」
「よろしくお願いします!!」
ピアが元気に頭を下げると、母がニコニコした。
変な師弟関係みたいなのが生まれてしまったか……!?
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