第137話 実家の家庭菜園が出現
ちょっとした用事……言うなれば、遊牧民たちの帝国がハジメーノ王国近辺に宣戦布告してきて、戦争が始まりそうな状態になってたりした……をこなしてきたのだが。
少々勇者村を留守にしている間に、妙なものがあった。
畑の端っこに、凄く小さい畑の用地みたいなものが作られていたのだ。
クロロックが何か実験をするつもりかな?
それともブレインか。
俺はそれだけ考えて、気にしないでいた。
何しろ、勇者村は幾らでも仕事がある。
長粒種の稲穂は伸び、青々とした穂先を風に揺らしている。
短粒種の田も、すくすくと育ち、肥料は欠かせない。
その肥料も、クロロックとニーゲル師弟がフル回転態勢で作成し続けているのだ。
複数の肥溜めが、熟成段階と用途に分けられているため、村の一角は大肥溜め地帯となっていた。
「肥が足りません」
クロロックが真面目な顔で言った。
いや、カエルの人は基本的に表情は分からないのだが、喉をクロクロ鳴らしてないからシリアスなのだろう。
「足らないか」
「足りません。少し時間を稼げれば、人の数が増えたお陰でなんとかなるのですが。皆、毎日出すものは出しますから」
「作物が増えたもんなあ……。そしてクロロックのこだわりがあるから」
「ええ。実験的に複数の肥料を育てていますが、時期尚早だったかも知れません」
クロロックが遠い目をして、クロクローと鳴いた。
となれば、手早く加工できる肥料を集めるしかない。
「トリマル、久々に奥地に行くぞ!」
「ホロホロー!」
「ジャバウォック狩りだ!!」
「ホロー!」
一人と一羽で、勇者村の奥にある大森林に分け入る。
勇者村がアフリカみたいな気候なのに、森に入るとまるでジャングルなのだ。
どういうことなのか。
ちなみにハジメーノ王国は、地球で言うならばフランスあたりになる。
フランスにアフリカの気候と熱帯雨林が……?
謎である。
ま、ワールディアはちょこちょこ気候がおかしいからな。
あまり緯度とか関係なかったりするし。
鼻歌をうたいながら行くと、トリマルが鳴き声を合わせてきた。
二人で合唱になる。
森の中を、「俺はここだぞー!」と言わんばかりの音を立てて行くと、愚かな獣がやってくるのだ。
そう、動くものを全部食べようとするモンスター、ジャバウォックだ!
こいつは起きている間、一日中狩りをして過ごす。
動くもの全てに食いつくので、獲物に回避されると樹をかじることになる。
そして、こいつのお腹は樹を消化できないので、お腹を壊してその日はおやすみになるのだ。
そんな日々を送っている面白い動物……モンスターである。
『あばばばばばばば!!』
面白い鳴き声をあげて、ジャバウォックが襲いかかってきた。
サンショウウオとハシリトカゲとコウモリを足して割らない感じの姿は、相変わらず。
おや? カラフルなトサカがついている。オスかな?
「ホロホロ」
「おっ、トリマル久々に暴れるか」
「ホロロー!」
『あばばばばーっ!』
「ホロホロ……ローッ!!」
大口を開けてトリマルを飲み込もうとしたジャバウォック。
その鼻先で、トリマルは鮮やかなグリーンの羽を広げながら、猛烈な勢いで回転した。
おおっ、羽の回転にジャバウォックを巻き込み、上空に持ち上げて……!
「ホローッ!!」
うおーっ、サイズ差を無視しての、担ぎ上げてからの超高空ジャンピングパワーボム!!
『あばばグワーッ!!』
ジャバウォックは即死である。
「ホロホロ」
「トリマル、また新しい技を開発したのか」
「ホロー」
「凄いなトリマル。偉いぞ」
頭や首周りをわしゃわしゃすると、トリマルは喜んだ。
こいつともちょこちょこスキンシップせねばな。
俺の最初の息子みたいなもんなんだし。
その後、ジャバウォックをサクサク解体し、肥料になる内蔵部分をアイテムボクースに入れて持ち帰る。
こいつはでかいから、かなりの量の肥料になるのだ。
なお、肉などは残して行って、密林の動物たちのご飯にする。
俺がトリマルを頭に乗せて立ち去ると、その後からちょこちょこと密林の肉食動物たちが姿を現すのが分かった。
平和なごはんタイムになるのであろう。
心が暖かくなる光景である。
かくして俺は村へと戻り、クロロック、ニーゲル師弟とともに作業に勤しむ。
「へえー! モンスターの内臓が肥料になるんすか! おれ知らなかったあ」
「ニーゲルが来てからは、ジャバウォック狩りに行っていませんでしたからね。ですが、あなたが増えたことでできる事が増え、そのために原材料の肥が足りなくなりました。これは素晴らしいことですよ。ニーゲルのお陰で新しい挑戦をできたからこそ、この問題点が現れたのです」
「そ、そうかあー。師匠にほめられるとうれしいっすー」
おっさんが照れてるな。
寝食をともにしているクロロックとニーゲルだが、傍目でも分かるほど、深い師弟の絆が結ばれている。
ニーゲルはこれまでの人生で、自分を教え導く存在に出会ったことが無かったらしいので、クロロックはまさに人生のメンターなのだろう。
彼がクロロックを心の底から尊敬しているのがよく分かる。
俺もクロロックは尊敬しているしな。
カエルの人の、分かりやすい説明を受けながら、ニーゲルはジャバウォックの内臓の処理を学んだ。
どんどん仕事ができるようになっていくな。
「ところでクロロック。畑でも何か実験しているのか?」
「おや、なんのことでしょう」
「畑の隅っこにな、ちっちゃ畑みたいなのができてるんだ。クロロックじゃないとしたらブレインか?」
「ブレインさんは、村人の皆さんに学問を教える先生役をやっていて忙しいはずですが」
「むむ? だとしたらあれは何なんだ……?」
「ははあ、あれですか。そのうちわかりますよ」
謎めかして告げるクロロック。
むむむ、謎は深まるばかりである。
そして謎は翌朝解けた。
小さな畑で、見覚えのあるおっさんがせっせと働いていたからである。
そのおっさんというのは……。
「お、お、おやじー!?」
「おー、翔人か! 俺な、こっちで家庭菜園やることにしたんだ!」
世界を股にかけて家庭菜園って、スケールがでか過ぎるだろう!
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