第130話 報告会

 ニーゲルと二人で、わっしょいわっしょいと肥溜めをかき混ぜ、新しい素材を混ぜ込み、その後は畑作に精を出す。

 途中でトリマルたちが食事を終えたので、鳥舎に戻してやる。

 卵が幾つか生まれていたので、それを回収する。


 などなど、忙しく仕事をしていたら夕方である。

 イセカイマタニカケから、地球に行っていた三人が帰ってきた。


「素晴らしい知見を得ました」


 むふーっと鼻息も荒く、クロロック。


「クロロック興奮しているな」


「興奮するなと言う方が無理でしょう。あれは農業の理想郷です。あの魔法で動く機械があれば作業は楽になるでしょう。田畑の作物を踏まぬよう、絶妙に設計されていました。ですがあれは現実的ではない。苗を植え、稲を刈る機能を持った超高機能機械……。憧れます。近いものは、牛に牽かせる鋤などでしょうか」


 技術的に、こちらでは再現できないものも多い。

 なので、近いものを順に作っていこうという話になった。


 そのためには、もともと乳を取る用に、山羊や牛を飼いたいよなという話をしていたのだが、これは農作業にも転用できそうである。

 山羊だとパワーが無いから、小型で高効率の鋤みたいなのがあるといいかな?

 これの開発はブレインだな。


 次に、ニコニコ顔のピア。


「お弁当おいしかったです!! おいしいものしかない世界でした!」


「そうかそうかー」


「うち、いろいろショートさんのお母さんから作り方教わってきました! 作りたいです!」


「ほう、ついにピアは作る方に本格進出するか!」


 この子は、勇者村の食を司るようになるのかも知れない。

 将来に期待したい。


「そしてパワースだが」


「おう」


 背中にアリたろうを乗せているパワースだ。


「なんでうちの妹と……?」


「顔で選んだ」


「ええ……。お前中身で選ぶって言ってたじゃん……」


「付き合ってみないと中身は分かんねえだろ? それに、明らかにショートはミノリと仲がいいじゃないか。お前と仲がいいなら、人間的に信頼できると思ったんだ」


「ぬうっ!! ぐうの音も出ない正論!!」


 一切の矛盾のない論理に、俺は一撃でやられてしまった。

 これは反論ができん。


「でもな、将来的な話をすると、どっちで暮らすんだよ。あいつはあいつで向こうで大学入って就職するだろ? お前はこっちで農家じゃん」


「そこだな。どうやら向こうの世界は、あちらで学問を修めたという記録が無ければ、立場的に上には行けないようだ。統制されている世界だな」


「ああ、そうだ。でもパワースなら、あの世界で格闘技界にデビューすれば無敗の帝王くらいにはなれるだろ」


 素手で軽々と、オーガを転がすくらいはしてみせるパワースである。

 隠密行動ばかり目立つが、それは物理戦闘最強の俺がいるからだ。

 パワースの本領は、魔法以外は何でもできることにある。


 武器だって、全ての武器を超一流の技量で扱うし、身体能力もレベルのおかげで人間の範疇ではないぞ。

 ぶっちゃけシロクマやグリズリーと殴り合って、真正面から秒殺するくらいの強さはある。


「そりゃあフェアじゃねえだろ。ステージが違う。あっちの世界じゃ魔王がいなかったし、魔王と戦う経験もしてねえ。そんなところに俺が飛び込んでいったら、不公平ってもんだ」


「律儀な男だなあ」


「他人を下手な策で陥れたりな、嘘をついたりするのはやめることにしたんだ。そんなんじゃ、ミノリに顔向けできないからな……」


 この野郎、清々しい顔をしやがる。

 憑き物が完全に落ちきっていて、きれいなパワースになっている。


「これは仕方ない……。俺はお前を認めようパワース……!」


「ありがとう!!」


 ガシッと強く握手する俺たちである。

 海乃理の将来はどういう方向になるかは、今後考えていこう。

 まだあいつは大学一年だしな。


「それで、まだキスまで行ってないんだな……?」


「そこんところ報告するのはどうなんだよ。兄として詮索してはいけないところもあるだろうが。俺は嘘は言わないが、言えばミノリにとって損になることも言わないぞ」


「ぬおっ、ぐうの音も出ない正論!!」


 パワース強い!

 このまま行けば、十中八九こいつが義弟になるのか!

 まあ、それはそれでいいか。


 実際の年齢も俺より下だしな。


 きれいなパワースは、叩いてもホコリ一つ出てこない。

 ということで、俺はパワースの味方になることになった。

 次なるパワースの目標は、父親である。


 うちの父を説得できるかな……?

 あの男は俺に性格が割と似てるので、海乃理ラブだぞ。


 これに関しては、いざ戦うぞとなった時に考えるとしよう。


 第一回地球遠征が成功したということで、その日の勇者村は大いに盛り上がった。


「あたしも行きたい! 行きたーい!!」


 ヒロイナが駄々をこねるが、お前みたいに強大な魔力を持ったやつを行かせるわけないだろう。

 魔力遮断魔法みたいなのを開発するからそれまで待ってなさい。


 村の夕食には、母親が持たせてくれた煮物が出された。

 地球の調味料をふんだんに使った煮物は、旨味と甘さの暴力である。


 口にした者全員が、ハンマーで頭を殴られたみたいな顔をした。


「な、なにこれ、美味しい……。果物よりも甘い……」


 カトリナが涙ぐみながら呟く。


「こんな凄いのを食べてたの……? ショート、羨ましい……」


「気持ちは分かる。俺もこの世界来た時、不味いものばっかりで閉口したからな」


 何せ味付けが塩しかないんだもんな、ハジメーノ王国。


「だがみんな、聞いて欲しい。この料理は美味い。美味いが……それゆえに栄養がありすぎて、食べ過ぎると体を壊す」


 俺の言葉に、戦慄する村の一同。


「体に良すぎて体を壊す……!?」


 ブルストが呆然とした。


「新しい概念です」


 ブレインがゴクリと唾を飲んだ。


「幸い、これらの料理のレシピはピアがメモしてきてある。これをこっちの世界の材料で再現して行こうと思う。あくまで、栄養過多にならない範囲でな」


 これでよし。

 あまりに舌が肥えてしまうと、不幸になる。

 それに、母の料理は砂糖を結構使うからなあ……。


 村人の健康は、俺が守らねばならない。

 安易な地球料理チートは、人々の健康を害するのだ……!

 

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