第131話 普通の家族もやってきた

 短粒種米育成計画と、地球から持ち帰られてきたレシピ研究が活発な勇者村。

 だが、そんな特別な仕事ばかりに人員を割いてはいられないのだ。

 うちには人の数的に余裕がないからな。


「ということで! 第二次募集で手上げをしてくれた家族が移住することになりました!」


 村のみんなに、俺が紹介する。

 アイテムボクースから取り出したのは、砂漠の王国からやって来た家族である。

 お子さんが向こうの気候に体質が合わなくて、移住先を探していたらしい。


 働き者の髭の旦那さんアキムと、カラフルな布で髪などを飾っている奥さんのスーリヤ、子どもは男の子二人と女の子一人で、アムト、ルアブ、サーラである。

 勇者村も賑やかになってきた。


 アムトはもう畑仕事ができる十歳なので助かる。

 ルアブはまだちびっこだし、サーラは赤ちゃんだな。


「あかちゃ!」


「ちゃあ!」


 ビンが早速挨拶しに走っていって、サーラに声をかける。

 すると、スーリヤにおくるみで抱っこされているサーラも、元気に返事をするのだ。

 これを見て、我が家のお姫様ことマドカが、「あぶぶー」と手を振り回した。


 もしや、赤ちゃん軍団の挨拶に参加したいのか!

 カトリナがニコニコしながら、スーリヤとサーラのところに向かっていった。


 その後、アキムとアムトを交えて色々説明をすることにする。


「とりあえず家族の家を速攻で作るから、そこに住んでくれ。作業分担は、最初はフックとミーの手伝い。村は個人のものってのが無いから、どこを手伝ってもいいけど、基本的には人が足りないところに入ってもらう。オーケー?」


「おーけー? なんですかそれは」


「ああ、これはな、ショートが使う向こうの世界の言葉で、それでいいか?って意味だ。よければ同じように、オーケーと返せばいい」


「ああ、なるほどです!」


 アキムが不思議そうな顔をしたので、ブルストが説明してくれた。

 笑顔で頷くアキム。


「オーケーです。アブカリフ様も、個人の持ち物が多い国は滅びると言っていました。過ぎたる自由は毒だそうです」


「含蓄の深いことを言うなあ……」


 アブカリフを見直す俺である。

 ハーレム持ちの男で、あの人間関係を良好に保っているので、凄いやつではあるのだ。


 大人がわいわい話をしていたら、ちょうど中位の年齢である、五歳のルアブがあぶれた。

 俺が見ていると、彼は辺りをきょろきょろ見回している。

 そして、どうやら冒険する気になったようだ。


 トテトテと田んぼの方に走っていく。

 物珍しいのだろうが、小さい子が一人では危ないな。


 だが、我が村は安全なのだ!


「ホロホロー!」


「もがー!」


 ホロロッホー鳥とコアリクイが走ってきて、ルアブをひょいっと持ち上げた。


「うーわー! な、なにこれー!」


「ホロホロー」


「もがもが」


 一羽と一匹が、五歳児を頭上に乗せたままこちらにやってくる。


「あっ」


「あっ」


 アキムとスーリヤが驚愕した。


「な、な、なんですかあれは」


「うちで飼ってるホロロッホー鳥軍団の頭目と、なんか住み着いたアリクイだ。どちらも俺の子どもみたいなもんだ」


「は、はあ……。随分頭がいいみたいで……。うちのルアブをそっと降ろしましたし」


「ああ、あいつらがいるから、村の中は安全だぞ」


 アキムの顔が、こりゃあとんでもないところに来たぞ、と言っている。

 そうだぞ。


「しかし、うちのどうぶつ部隊に任せっきりなのも悪いな。リタ、頼む!」


「はい!」


 ちびっこ侍祭から、日々成長して少女侍祭みたいになって来ているリタである。

 彼女に、村のちびっこを統率する役割を与える。


「いつもビンの世話をしてくれてありがたい。ここにもうひとり、冒険心豊かなちびっこが加わる」


「任せてください! 孤児院では、年下の子の面倒をみてましたから!」


 リタがドンッと胸を叩いてみせる。

 そして、ルアブに手を差し伸べた。


「ほら、あっちでお姉ちゃんと遊ぼう? ビンも来る?」


「いくー!」


 ビンが駆け寄ってきて、ルアブはこのキレイなお姉さんに、ぽーっとなっている。

 アキムの長男であるアムトも、ぽーっとなっている。

 ぬうー、リタ、魔性の女……!!


 二人の男を一瞬で虜にしてしまったか。

 何気にヒロイナの性質を色濃く継承しているかも知れん。


 さて、人が増えると出てくるのは宗教の問題だ。

 砂漠の王国が信奉するのは、ユイーツ神の別側面。

 厳しい戒律を持って、砂漠という環境で人々を活かすための宗教だ。


 これは向こうでは、タダヒトツ神教と呼ばれている。

 神様同じだけどな。


 ユイーツ神教の司祭であるヒロイナだが、実はタダヒトツ神教の司祭位も持っている。

 これは単純な理由で、砂漠の王国に滞在していた時、当時は健在だったタダヒトツ神から司祭位を直接賜ったのだ。

 なので、誰も文句をつけられない。


 これで、アキム、スーリヤ一家も安心。

 教会を二つの宗教に対応した形式に改築せねばならなくなるから、これはこれでちょっと大変だが。


 ちなみに、途中でヒロイナがフォスを伴って姿を現したら、アキムがぽーっとなったので、スーリヤに尻を蹴飛ばされていた。

 いいか、浮気をして村の空気をギスギスさせるようなことはするなよ……?

 ぜーったいにするなよ……?


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