第129話 海乃理がパワースを自慢する
サークル棟へひた走るアリたろう。
俺も彼を応援する。
だが、色々障害物の多いキャンパスでは、時速40kmでは走れない。
それでも野次馬を振り切れるくらいの速度ではあった。
後日、ネットに『謎の超高速コアリクイ現る!!』というニュースが載ったらしい。
だがそんなものはどうでもいい!
走れアリたろう!
駆けろアリたろう!
サークル棟はもうすぐだ!
──と思ったら、サークル棟の前で見知ったのっぽがいるではないか。
パワースだ。
日本人女子に囲まれると、やつのでかさが分かるな。
「むっ!?」
ほう、やつめ、俺の気配を感じ取って振り返ったな。
アリたろうがじーっと自分を見ているので、色々察したらしい。
ちなみにパワースは、女子たちにチヤホヤされている。
イケメンの外国人男子だからな。
海乃理め、自慢しに来たな……!
「海乃理、彼とどこまで行ったのよ」
「フフフ……フフフフフ」
海乃理が笑って誤魔化しているが、その辺りは兄も気になるなあ!
パワースがアリたろうをチラチラ見つつ、
「彼女のペースを尊重して、まだキスもしていない」
むっ、これはトゥルース! 真実だ。
俺の勘がそう告げている。
俺の勘がどれだけ鋭いかと言うと、初見で魔王の必殺攻撃の予兆を感じ取り、ギリギリで回避する程度の鋭さだ。
ふむ、思ったよりは進展していないな。
いや、二人の関係だから俺が口出しするものじゃないんだが。
幼い頃から知っている妹と、三年以上の冒険をともにした仲間がくっつくとなると、色々気になるではないか。
ちなみに女子たちからは黄色い声が上がりつつも、ちょいちょいトゲのある質問が飛んできているな。
嫉妬だな……?
怖い怖い。
「あばーうー」
ハッと我に返った。
マドカが俺を見上げて何か言っている。
おお、いかんいかん、地球の方に意識を飛ばしすぎていたぞ。
「どうしたマドカー。またお腹減ったか?」
「うー」
おや?
マドカが手をわちゃわちゃ動かすと、俺の視界の端で、アリたろうも前足をもぞもぞ動かす。
もしやマドカ、俺と視界を共有してる? アリたろうの視界ジャックをナチュラルにやってる?
「ぴゃあー」
マドカがよだれを垂らして喜んでいる。
なるほど、マドカにとっては、自由自在に動く体みたいな感覚なのか。
生後五ヶ月にして、これほどの力を発揮するとは。我が娘ながら天才。
「しかも世界一可愛いしなー。ちゅっちゅ」
「あぶー!」
おお、顔をぎゅっとした。
機嫌がいいときは、ちゅっちゅをほっぺにしても嫌がらないんだよな。
うーん、もちもちほっぺ。
「あっ、なんかアリクイいるんだけど!」「うそ!ぎゃーかわいい!」「撮ろう撮ろう!」「インスタスタにあげよ!」「ウェーイ!」
あっ!
気付いたらアリたろうが海乃理の友達に囲まれている!
一緒になって写真を撮られまくりではないか。
地球は平和だなあ。
まさか自分たちが一緒に写真を撮っているこのコアリクイが、小さめのヒグマくらいのパワーを秘めているとは思ってもおるまい。
ちなみにヒグマの強さが中級の魔獣くらいの強さな。
ヒグマからゾウくらいまでは中級の魔獣に収まる。
そこを超えると上級の魔獣になるのだ。
この辺からはもう、近代兵器クラスか、それを凌ぐ本物の化け物だな。
この間再会した火竜のドーマが、大体、核ミサイルじゃないと倒せないくらいの強さ。
劣化ウランの弾程度では鱗をぶち抜け無いからな。
で、あのクラスで火竜の中では真ん中くらいだ。
最上位の竜は星を巣立ち、他の星へと渡りを行う習性がある。
魔王も星の外から来るので、よく上位の竜と魔王は宇宙で戦っているそうだ。
おっと、話がそれてしまった。
トリマルはまあ、ドーマよりちょっと弱いくらいの強さだろう。
おっ、ビンと一緒にトリマルがバタバタと外を走っているな。トリマルはビンの事を弟だと思ってる節があるからな。
そうこうしていたら、パワースの顔合わせイベントも終わったらしい。
あいつは別の国からの留学生、みたいな扱いになっていた。
長身の外人イケメンだからまあモテるモテる。
浮気しないようにチェックしてやらねばな……。
だが、パワースも散々色々な女と浮名を流した挙げ句、最後は投獄されたので懲りたとは言っていた。
今も、営業スマイルで微笑みながら、海乃理の友達には一切アプローチをしていないな。
「俺は一途なので、ミノリだけしか見えないんだ」
とか言って、周りの女子がキャーッと歓声をあげた。
「理想的男子」「海乃理この人どこで捕まえたのよ」「羨ましいー!」
これに対して、海乃理が「ちょっと別の世界で」とか正直に答えている。
別の世界を、海外旅行くらいの意味にとったらしい女子たち。
「やっぱ海外行くかあ」「行くっきゃないね」
などと盛り上がり始めた。
案外、正直に物を言ったほうが誤魔化せるものなのだなあ。
かくして、パワースのお披露目は終了。
二人は帰りがてら、自動販売機でジュースを買った。
そうそう。アリたろうは海乃理に回収された。
コアリクイとしてはそう大きくないアリたろうなので、抱っこしても重くないからな。
「うひょー、もさもさしてて可愛いー!」
「ミノリ、そいつを通してショートが見てるぞ」
「え、そうなの? ショートくん、やっほー、見てる? ……見てるってことは、さっきのやり取り見られてる?」
「見られてるだろうな……。俺は浮気なんぞやったら、世界を一つ滅ぼせる男を敵に回すことになる。まあ、もうやらんが」
「もう……?」
「なんでもない」
なんでもなくない。
だが、ここはパワースを信じるとしよう。
何せ、そろそろパワースに関わっている暇がなくなるからだ。
ニーゲルが家に駆け込んできて、俺を呼んでいる。
肥溜めの管理について、わからないことが発生したらしい。
かなり長めの休憩をしてしまったから、俺もそろそろ仕事をせねばなのだ。
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