第127話 チーム派遣!監視用のアリクイをつける
ついに地球見学チームが旅立つ時が来た。
向こう側に連絡をつけて、農家の人に予約を取って、およそ三日後である。
早い。
「驚くほどの速さで旅立つことになりましたね。世界と世界の壁を超える大旅行だと言うのに」
いつもの平然としたカエルフェイスで言うクロロックだが、一年の付き合いにある俺には分かる。
この男はかなり興奮している。
現に、普段は皮膚呼吸していて穏やかな感じの鼻の穴が開いており、むふー、むふー、と息が吐き出されているではないか。
「頼むぞクロロック。こっちで再現可能な技術を見つけて、身につけてきてくれ」
「任されました。必ずや、勇者村の農業を百年先に進ませてみせましょう」
「志が高い……!!」
「うち、美味しいもの食べるの楽しみー!! レシピを覚えて帰ってくるね!」
「ああ、ピアも頑張れ! だが気をつけろよ。あまりに美味いものを食いすぎると、こっちに戻って来てから大変だからな。それに、あっちは以外とディストピア味がある世界でもあるから、定住はできんからな」
「わ、わかったー!」
軽くおどしておくと、ピアはちょっと真剣な顔になってコクコク頷いた。
そしてパワース。
「あくまで護衛だからな?」
「おう」
じーっと見るが、この男は平然と見返してくる。
ハートが強い。
「ぬうー」
「ほらほらショート。妹さんが心配なのは分かるけど、二人の問題じゃない。私たちも二人きりの時にもっと仲良くなったじゃない、ね?」
「そう言えば……!」
カトリナに言われて優しい心持ちになる。
俺はどうして妹はやらんぞ! みたいな気持ちになっていたのか。
いや、今になって、俺とカトリナの結婚を認めてくれたブルストの偉大さが分かるな。
今はパメラに抱っこされてるマドカ。
あの子が結婚するなどと言ったら、俺はマドカの夫にならんとする男に決闘を挑んでしまいそうだ。
俺を倒してからマドカと結婚しろ。
いやいや、それでは宇宙が終わるときまでマドカが独身になってしまう……。
力で解決はダメだ、俺よ。
「ショート、また変なこと考えてる。ほら、みんな行くんでしょ。魔法を使ってむこうと繋げて」
「お、おう! 発動、イセカイマタニカケ!」
ぐおおーっとワールディアと地球を結ぶ扉を開く。
主に、向こうのディスプレイに繋がっている扉だ。
ユイーツ神の話では、ディスプレイよりも大きな物は出入りできないということだった。
だが、俺がアレンジを加えたのでちょっと違うぞ。
具体的には、俺が力を入れて扉を広げると、向こうでディスプレイも大きくなって、ブルストくらいの大きさの人間まで出入りできるようになる。
「よし、行けー!」
「行ってきますよショートさん。戦果に期待していて下さい」
「突撃だー!」
「グフ、フフフフ」
おいパワース!
何を気持ち悪い笑いをしながら扉をくぐったのだ!
ええい、こうしてはいられん。
奴があっちで何をするのか見届けねば!
俺も向こうに──。
『あちらの世界で魔力変動が起きますよ』
にゅっと横からユイーツ神が顔を出したので、俺は正気に戻った。
いかんいかん。
衝動的に地球を滅ぼしかけるところだった。
ではどうしよう。
「もがー」
ふと足元を見ると、コアリクイがトコトコ歩き回っている。
田んぼの周りに現れるアリを狙って、昼日中から勇者村の往来を闊歩しているのだ。
「コアリクイよ。頼まれてくれるか」
「もが?」
「お前ならば、向こうの世界にいるコアリクイともあまり見た目が変わらない。目立たないだろう……。旅立った彼らの様子を観察して欲しいのだ」
「もが」
おお、快諾してくれた。
「こんな重要な依頼をするのに、お前に名前が無いのでは困るな……」
「もがー?」
「お前はアリたろうと名付けよう」
「もが」
俺がアリクイに名前をつけた瞬間である。
やつの全身に魔力が漲った。
なんだなんだ。
『あーあ』
「まだいたのかユイーツ神。何が『あーあ』なんだ」
『ショートさんが強い感情を持って名付けると、その名前自体に力が宿るのです。すでに、コアリクイが放つ魔力は中位の魔獣級になっていますよ』
「なん……だと……。それでは地球には」
『これくらいなら地球に行けるでしょう』
「なーんだ」
俺は安心してコアリクイを抱き上げ、イセカイマタニカケに押し込んだ。
「よーし頼むぞ、いってこーい」
「もがー!」
アリクイから元気な返事があった。
彼と俺とは、魔力の回線でつながっている。
アリたろうは常に、俺と精神で会話できるのだ。
そしてアリたろうの見たものは、俺の目にも映すことができる。
向こうでは、うちの両親が三人を歓迎していた。
おや?
父親が父の本能でパワースを警戒しているな。逆に母親はニヤニヤしながら、「孫がもうひとり抱っこできるかもねえ」などと言っている。
やめろ、家族内に不和の種を蒔くな……!
いや、いいことなんだけど!
かくして、父親が運転する車に乗り、クロロック、ピア、パワース、そして海乃理が農家に向かっていく。
アリたろうは途中でピアに気付かれ、抱っこされている。
「あっちじゃアリクイも普通にいるんだなあ」「そうなんだよ! 羽の色がキラキラの鳥もいてね。ショートくんにすっごく懐いてるの!」「へえ! カブトエビを三日目で全滅させてたあのショートがなあ」
過去のトラウマを掘り起こすのはやめろ。
「うわーっ、うわーうわーうわー!」
ピアがはしゃぎながら、車の窓にへばりついている。
自然と、抱っこされたアリたろうも窓の外を見ることになる。
おお、懐かしき風景。
地球の光景だ。
俺もそのうち、帰れる方法を模索せんとな。
そしてカトリナと一緒に、夢の国遊園地に遊びに行ったりするのだ……。
「ショートー! お茶が入ったよー!」
カトリナの声がしたので、俺はこちらに視界を切り替えた。
「ほいほい」
あっちの世界とこっちの世界、両方を見るというのはなかなか大変だな!
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