第126話 地球見学チーム

 短粒種の苗を丁寧に植えた後、さきほどやったお話を実行すべく動き出すのだ。

 地球見学チーム。


 俺の元いた世界に仲間を向かわせ、そこで農業などを調べてくる。

 ついでに、お料理なども調べてくる。

 我が村の未来に関わる重要な仕事である。


 チームメンバーは厳正に選ばねばならない。

 俺みたいな魔力が強いのがいくと、向こうの環境が乱れるらしいしな。


 俺の相談役として、図書館でのんびり本を読んでいたブレインを連れてきた。


「やあ、また面白そうなことを始めていますね」


「頼むぞブレイン。クロロックとピアが今の所行く候補なんだが、一応護衛もつけておきたくてな」


「なるほど。ではパワースでどうでしょう。彼ならば魔力も高くありませんから」


「おお! そうだな! あいつなら、何があっても大丈夫だろう」


 ということで、一瞬で人員選考が終わった。

 クロロック、ピア、パワースの三名だ。

 俺の実家を拠点とするから、父親がいる土日と、母親のパートが休みの日曜月曜を中心にしよう。


 予定について、勇者村に触れ回る。

 パワースは、なんだか妙に嬉しそうである。


「いやあ、ブレインに根回しした甲斐があったぜ」


「なにっ。なんでそんなことを」


 そこまで言ってハッとする俺。

 こいつ、俺の妹と仲良くなってたよな。

 ええ……。それが狙い? マジ?


「いやいや、俺もあっちの世界には興味があったんだよ」


「そうかあ……?」


 怪しい。

 だが、クロロックとピアの護衛としては、最高の人選なのでパワースで行く路線は変わらないだろう。

 カエルの人も、食いしん坊娘も、うちの村にとっては代えがたい人材なのだ。


 一応、クロロックには人間に見える変装の魔法を掛けておく。


「クロロック、人前で食べ物を丸呑みにしないようにな」


「分かりました。人の目がこちらに向いていない時を狙いましょう」


 クロロックは任せて下さい、とばかりに、喉をクロクロ鳴らした。


 夕食後、マドカの相手をしつつ両親と会議をする。


「あらー! マドカちゃん見る度に大きくなるわねえ! まあちょこちょこ遊びに行ってるんだけど」


「母さんずるいぞ! 俺だってマドカちゃんと遊びたいのに」


 いきなり争い始めるな。

 画面の向こうの両親を、マドカがくりくりした目でじーっと見ている。


「あばー」


「あらー」


「あらー」


 おお、両親の表情がとろけた。

 赤ちゃんの笑顔は最強だな。


「そういうことで、そっちに三人泊めてほしいんだが」


「それは構わないけど、案内はどうするの? 田畑を見に行くんでしょ? 私、そんな伝手無いわよ」


「あー、それは俺の仕事で、取引先から行けるかも知れないな」


「ほんとか。ありがたい」


「その代わり、優先的にマドカちゃんを抱っこさせるんだ」


「お父さんずるいわよ!」


「なんだと! いつもマドカちゃんと遊んでいるくせに!」


「おばあちゃん特権よ!」


「なんだその特権は!」


「「もがー!」」


 また争い始めたぞ。

 マドカが手を叩いて喜んでいる。

 何かのショーだと思っているのかも知れない。


 両親の戦いが収まるのを待っていたら、画面外からひょいっと海乃理が覗き込んできた。


「んじゃあ、その辺は私がフリーだから案内すんね。で、誰が来るの? カトリナさん?」


「クロロックというカエルの人とな」


「あのカエルの人!? よりによって一番目立つ人が来るんだね……」


「後はピアという食いしん坊が来る。何か美味いものを食わせて、レシピを教えてやってくれ。こっちで再現できそうなの」


「ほいほい」


「あと護衛でパワースがな」


「パワースが来るの!? マジ!? おっと、こうしちゃいらんない……こっち案内するって言ったもんね。今からコースを選んで……」


「……!?」


 露骨に声色が変わったな!?

 ま、ま、まさかお前ら、あれか!

 お付き合いしてるのか!


 俺は動揺した。

 だが、よく考えてみると二人とも大人である。

 いや、海乃理はまだ向こうだとギリギリ未成年だが。


 俺が口出しするようなことではないな……。

 若い二人にお任せしよう……。


 ちなみに海乃理は、隔週くらいのペースで遊びに来ている。

 そんなにホイホイ異世界に来ていいのか!? とも思うが、それだけワールディアと地球との距離が縮まったということだろう。

 イセカイマタニカケが大活躍している。


 うちの母親も隔週で来てて、父親は月一くらいだな。

 結構なペースじゃないか。


 これは、恩を返してもらうのに充分な貸しがあるぞ。

 こうして、向こうの了承も取った。


 後は、父親が見学先の農家の了承を取り付けるだけである。


「ショートは行かないんだねえ。あ、マドカ、おやつだよー」


「うままー!」


 カトリナがマドカ用の簡単なおやつを作ってきた。

 潰して柔らかくした麦のお粥である。


 甘いおやつも食べさせてやりたいなあ。


 満面の笑顔で、お粥をもぐもぐ食べているマドカを見ながら思うのだ。

 簡単に手に入る甘いものと言えば……。


 温めたミルクでは無いだろうか。

 ……飼うか、ミルクが出る生き物。


 我が村二種類目の家畜を増やすのだ。


 地球見学チームの派遣と、ミルクが出る家畜を飼うこと。

 今果たすべきミッションは、この二つ!


「マドカ、あまーいミルクを飲ませてやるからな……!!」


「んま!」


 マドカがお粥の汁を口につけて、元気に返事をするのであった。

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