第122話 水田と苗の植え付け

 先に苗を植えてあった長粒種は、もりもりと育っている。

 そして青々とした稲が揺れるのは、太陽光を照り返す水田である。


 ついに水田を作った……!!

 俺は感動しながら、これを眺めているのである。


「あー、いー」


 抱っこしたマドカが、水田に向かって手を伸ばして何やら言っている。

 なるほど、分からん。

 赤ちゃん語はビン同様分からんな。


 しかし、ビンが喋れなかった頃は、もっとぺちゃくちゃ色々喋ろうとしていた気がする。

 マドカは時々、ここは何か言わねば! みたいな雰囲気を纏わせてからちょっと喋る。


 赤ちゃんでもキャラが違うのだ。

 奥深い。


「マドカは田んぼが好きか」


「うー」


 以前のウーとは違ってて、唸っているわけではなく、ちゃんと発音している。

 つまり、意味のある「うー」なのだ。


「そうかそうか。マドカは可愛いなあー。世界一可愛いなあ」


 抱っこしながらスキップすると、うちの子がニコニコ笑う。

 俺もニコニコだ。


 親バカになる気持ちがよく分かったぞ!

 我が子可愛すぎか。


 ちなみにマドカの赤ちゃん期は、ブルストに言わせると、


「マドカは信じられないくらい大人しいな。こんなに扱いやすい赤ちゃん普通いねえからな」


 ということらしい。

 カトリナはもっと大変で、当時生きていたカトリナのお母さんともども、ブルストは大変苦労したらしい。

 ちなみにオーガは一族で赤ちゃんを育てるので、大変なところは仲間たちが手伝ってくれるのだそうだ。


 それでも苦労したらしいから、お世話の大変さは赤ちゃんによって、千差万別なのだ。

 フックとミーも、ビンもちょっとは苦労したみたいだしな。

 ビンはよく泣いた気がするなあ。


 水田を前に、そんな事を考えていると、リタとピアがビンを伴い、さらに後ろにはホロロッホー鳥軍団が続いてやって来た。


「うおっ、なんだなんだ」


「雑草取りです!」


「クロロックさんが、稲がホロロッホー鳥の頭よりも高くなったから、今なら雑草だけ食べてくれるって!」


「なるほどなあ」


 カエルの人の圧倒的農業知識に驚嘆するのである。

 俺の農業の師匠であるクロロックは、腕組みしながら満足気に頬を膨らませている。

 こっちにもクロクロ聞こえてくる。彼は炎天下を避け、日陰で水を飲んでいるのだ。


 俺もそっちに行くことにした。


「ホロロッホー鳥、害虫だけじゃなくて葉っぱも食べてくれるのか」


「ええ、そうです。ショートさんがこの間行かれた、ホホエミ王国やセントラル帝国では、一般的な農法となっていますね。ホロホロ農法といいます」


「ホロホロ農法!!」


「その他、ワタシによく似たカエルなども増えていますね。彼らも害虫を食べてくれます。水田には多くの生き物が住み、皆で手分けして田を豊かにしていく。小さな森のようなものなのです」


「ほおー……!! やっぱりそれは、水を張るからか」


「ええ、その通り。水は全ての生き物の命の源。水の中に立つ稲が森を作り、その狭間で、カエルや魚や、彼らの餌となる虫が暮らします」


「ちゃかなー!!」


 おおっ、ビンが念動魔法で魚を捉えた!

 空中に魚が浮いているな。

 すっかり念動魔法を自らのものにしている。


「ビンー」


 リタがしゃがみこんで、ビンと目線を合わせている。


「りた!」


「うん、そうだよビン。あのね、食べないのにお魚さん取ったらかわいそうでしょ」


「おちゃかな?」


「そう。かわいそうかわいそうーって。ビンはこのお魚さんたべるの?」


「んー」


 ビンはちょっと考えた後、魚を水の中に戻してやったようだ。

 リタが笑顔になって、ビンの頭をなでなでする。

 ビンがえへへ、と笑っているな。


「おー、教育がなされている。ピアなら絶対塩焼きにして食ってたな、あの魚」


「ピアさんは食べられるものは全て食べるべきであるという哲学を持っていますからね」


「ただの食いしん坊じゃなくて哲学だったのか……」


「そのために屠畜の技術まで身につけています。食べることには誰よりも真剣ですよ。今も、ビンさんが逃した魚をじっと目で追っています」


「食べたかったんだな……」


 その後、わいわいと草取りをする一同をのんびり眺める。


「ほぎゃ」


「あ、マドカのお腹が空いたか」


 こうなれば、カトリナの出番である。

 むずかるマドカを抱っこしたまま、家までダッシュする。

 すると、どうやらタイミングが分かっていたようでカトリナが待っていた。


「ほい、マドカちょうだい」


「バトンタッチ!」


 かくして、マドカは食事タイムに。

 子守タイムを終えた俺は、野良仕事の手伝いをすることにする。


「ショートさーん! こっちを手伝ってくれー! もう、畑の他に田んぼが増えて大変なんだ!」


「分かったぞフック! 作業する頭数をもう少し増やした方がいいんだろうかなあ。色々作ってるもんなあ」


 野菜畑に入って、手入れをしつつ周囲を見回す。

 水田、麦畑、野菜畑に綿花の畑。

 麦畑と野菜畑と綿花の畑は収穫ごとに入れ替わる。


 これと同時に、育てる作物に合わせてクロロックが肥料を調整している。

 カエルの人ひとりでは間に合わなくなってくるな。


 フォスとブレインがあちこちの手伝いに回っているが……純粋な肉体労働要員が欲しい!


「これは、あれだな。移住希望家族をまた募集して、頭数を増やすべきだな!」


 俺は決心した。

 勇者村、第二次拡張計画である。


 第一次拡張計画で、フックとミーが仲間になった。

 その後、なんか成り行きでかなり規模が拡大したが……。


 今回は意図して移住者を募集する第二回というわけだ。

 よし、今回はワールドワイドにやってみようか。


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