第119話 さらばセントラル帝国

 朝飯が出た。

 おかずたっぷりのお粥である。

 短いお米の粥だ。


 がつがつ食った。

 聞けば、セントラル帝国ではそのまま米を食うことが少ないらしい。

 お粥にするか、炒めるか。


 ハオさんからの最初の選択肢がお粥だったはずである。

 つまり、これは加工して食べることを前提にしたお米であるということではないだろうか。


 品種改良が必要か……。

 先は長いな。


 たっぷりと米を堪能しながら、そんな事を考える。

 仲間たちも仕事を終えて食卓に集まっていた。


 みんな、はちみつのかかった揚げパンを食べている。

 こっちの方が、ハジメーノ王国の人間には一般的かもしれないな。


 途中で皇帝の挨拶が始まったので、聞いておくことにする。

 色々お礼を言っているのだ。


「なに、気にしないで欲しい。セントラル帝国が早く戦争の傷から立ち直ることを願っているぞ」


 俺がそう返答すると、その場に居合わせた家臣団が感激したようである。

 おみやげに、帝国で一番美味しいというお茶の葉っぱをもらった。


 金銀財宝をくれるとも言っていたが、そんなものをもらっても迷惑なだけである。

 開拓地のどこで使えと言うのか。

 それに、出せる金があるなら帝国の復興を進めるためにやってもらいたい。


 かくして、約束通り、半日でクーデターを終わらせた。

 俺たち、帰還である。


 ベランダに出てくると、なぜか帝国の民もたくさん詰めかけているではないか。

 すごい数だ!

 さすがは、世界一人口の多い国家だな。


 俺たちが姿を見せると、みんながわあわあと歓声をあげた。

 ヒロイナが得意げに手を振る。

 そして、


「あー、早く帰ってフォスといちゃいちゃしたい」


 と本音をぶちまけた。

 笑顔のままそういう事を言うのな。

 長らくの禁欲生活から開放されたヒロイナは、最近ツヤツヤしているものな。


 パワースは、「この中から彼女見繕おうかな……」などとボソッと漏らしており、ああ、多分これは本音だなと思うなど。

 根っからの女好きだからなあ。

 勇者村の禁欲生活は、この男にもちょっときつくなっているのかも知れない。


「パワース、ちょっと残って相性のいい女子見つけてく?」


「いや、仕事が村にあるから……」


 おお、苦しげな表情ながら、見上げた決断である。

 ちなみにブレインはあまりそういうのに興味がない。


「早く帰って魔本を読みたいですねえ」


 ニコニコしながらそういう事を言っているが、間違いなく本心100%だ。


 かくして、帝国国民たちが見守る中、俺たちはダンガンバビュンを使って帰るのである。

 巨大な光の玉が生まれ、舞い上がる。


 観衆から大歓声が上がった。

 俺たちが娯楽になってしまったな!

 存分に語り継いで欲しい。


 そのうち大きくなったマドカがセントラル帝国に遊びに来たら、俺たちの話が脚色されて伝わっているかも知れないな。

 それはそれで楽しみである。


 帰りの魔法結界の中、パワースがヒロイナに交渉している。

 内容は、新しい彼女作っていい? と言う話である。


「構わないわ!! あたしもなんだかんだでプライベートが充実したから!」


「ほんとか!? よし、よしよしよしっ!!」


 おお、パワースがガッツポーズをしている。


「そうとなれば……今度は、こう、今までとは判断基準を変えたい。優しい子がいい……」


 しみじみと言うパワースである。


「今までの彼女の基準は?」


「見た目だ」


「分かりやすい」


 俺からの質問に即答してくる。

 なるほど、確かにこの男が浮名を流してきた女性たちは、みんな美人さんだったな。

 だがパワース、勇者村で暮らして、落ち着いた環境の良さというものをよく理解したらしい。


「カトリナのような女がいい」


「やらんぞ!!」


「お前から取るほど命知らずじゃないぞ!」


「ああ。そんなことがあったら俺が第二の魔王になって世界を滅ぼすだろうな」


「やめてパワース、お願いだからカトリナには手を出さないでね」


 ヒロイナがマジだ。

 パワースも真剣な顔で頷く。


「当たり前だろ……。世の中には絶対にやっちゃいけないことってのがあるんだよ……。新しい彼女はコツコツ時間を掛けて探すぜ」


 そんな話をしている中、ブレインはすやすやと眠っているのだった。

 そして、復路に六時間。

 昼をちょっと過ぎた頃合いで、勇者村に到着した。


 マドカを抱っこして、食堂でカトリナが待っている。

 ダンガンバビュンが現れると、彼女は笑顔になって駆け出してきた。


 俺も魔法が解けると同時にダッシュする。


「ただいまーっ!!」


「おかえりーっ!!」


 再会の喜びを抱き合って確認だ!

 間に挟まれたマドカが、「ウー」と呻いた。

 いかんいかん。


「マドカもいい子にしてたかー? ん? ん? 今日もぷくぷくしていて可愛いなあマドカは! 宇宙一可愛いな!」


「アー」


「あら、マドカ、よだれよだれ」


 カトリナがマドカの口元を拭う。

 いやあ、和むものである。

 何よりも我が家が最高だな。


 本当に、俺と家族の時間を奪うとは、クーデターはクソである。

 今回は、事後処理を全部帝国に投げて帰ってきたので、ほぼ日帰りみたいな日程が可能になった。

 マドカのほっぺにちゅっちゅっとしていると、うちの子が俺の顔をぺちぺちしてきた。


「もう手足がこんなに動くのか! マドカは凄いなあ」


「マドカー、お父さん甘えん坊だねー」


「ウー」


 とりあえずうちの娘は、ちゅっちゅっとされるのが嫌い、と。

 いつまでできるかなあ……!

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