第118話 唸る、勇者のデコピン

 戦場の中心に降り立った俺。

 降り立つと同時に、全方向にタツマキをぶっ放した。


「ウグワーッ!?」


 戦争で頭がカッカしている連中は、話など聞きはしない。

 さっさと何もできない状況にして、そのまま数時間放置するに限るのだ。

 時は全てを解決してくれる!


「な、なんだお前は!!」


 反乱軍の将軍っぽいのがいる。

 タツマキは、俺としてはゴブリンや下級魔族の大群を無力化するための下位魔法である。

 そのため、殺傷能力よりも、相手を巻き上げることに特化している。


 強力な相手には通じないんだよな。

 少なくとも、この将軍は中位魔族くらいの強さがあるようだ。


「俺は元勇者のショートだ」


「ゆ、勇者!? ばかな、そんな者がここに来るはずがない!」


「お前さんの見解はどうでもいい。一つ聞くが、どうして反乱軍はこんなに軍備を整えていられた? 魔王大戦で使わなかったのか?」


「は、反乱軍だと!? 我らこそは正統なる帝国の支配者となる、陛下の元に集った正規軍で……」


 くちゃくちゃ言い訳を始めたので、脳内を覗いてみよう。

 ほうほう……。

 有事のために軍備を取っておいて、魔王軍との戦いは帝国に任せていた……?


 戦いが終わったら、疲弊した帝国を叩いて新しい帝国を建てるつもりだったと。

 おほー!


「アホすぎる! そもそも、全種族一丸になるべき時に後のことを考えて出し惜しみして、しかも寝首を掻こうとしていたとか本物のクソでは? お前の言う陛下とやらは俺が豚に変えてやろう。反乱はここで終わりだ」


「な、なにいーっ!? やらせはせん! やらせはせんぞ!! この俺は陛下に仕える七龍将軍が筆頭、嵐龍将軍!! この矛の冴えを見よーっ!!」


 将軍が、激しい動きで俺に斬りかかってきた。

 俺はデコピンで迎え撃った。


 弾く指先、折れる矛、勢い余って遠くへと吹き飛ばされていく将軍。


「ウ、ウグワーッ!?」


「おい反乱軍! 見たか! 嵐龍将軍は負けた! はい、撤収! 撤収ーっ!!」


 拡声魔法で、俺の声が戦場に響き渡る。

 突如発生した無数のタツマキで浮足立っていた反乱軍は、この声を聞いて完全に肝を潰したらしい。


「ひ、ひいー」


「勇者が敵に回ったあ」


「魔王を倒した化け物と戦えるわけないだろー」


「助けてえ」


 とか叫びながら、ばらばらになって逃げていく。

 心が折れたようなので、もう敵ではない。

 人間、ハートの部分が維持されていれば何度でも再起できるが、ポッキリ心が折れるともう戦えなくなるからな。


 かくして、俺は素早く戦場を転戦し、六人の七龍将軍とやらを公衆の面前でデコピンで蹴散らした。 

 みんな揃いも揃って、「ウグワーッ!?」とか叫びながら吹っ飛んでいくので、こいつらはやられっぷりまで同じなのだろうかと訝しく思う。


 最後の将軍はあれだろ。

 軍師として皇帝の弟の横にいるだろ。


 俺は反乱軍の偉そうなのが逃げていく方向に当たりをつけ、空から追っていった。

 あっという間に発見、本拠地!!


 だが、俺がそこに降り立つよりも早く、本拠地から白旗が上がったのだった。


「あっ、パワースが制圧したか! 仕事が早いなあ……」


 本拠地は、地方貴族の屋敷みたいなものである。

 身なりの良い兵士たちが呆然としながら、白旗を見上げていた。


「反乱軍、降参しちゃったねえ……」


 俺が声を掛けると、彼は信じられないものを見る目をして振り返った。


「ど、どうして。軍備は万全で、疲弊した帝国軍は敵じゃなかったはずなのに……」


「そりゃあ、世界中が必死になって戦ってた時に、自分だけ戦わないで力を溜めていた奴が国を取ったらいけないからじゃないかな」


 俺は笑いながら彼の肩をポンポンと叩いた。


「罰が当たったんだろうねえ。おーい、パワース!」


 屋敷に声を掛けると、正面扉から、太ったおっさんを担いだパワースが現れた。


「おう、ショート。俺の方が早かったな。お前、いちいち戦うから時間が掛かるんだよ。誰にも見つからずに忍び込めば、こいつの親衛隊しかいないだろ。楽勝だぜ」


「ほんとに手際いいよなあ……。で、それが皇帝の弟?」


「おう。ま、平和な世だが、こいつは責任を取らなきゃいかんよな」


「うむ。俺としても流血は最低限でいきたいね」


 俺とパワースの話を聞いて、皇帝の弟が暴れた。

 ムグームグーと言っているので、口を布で塞がれているのだな。

 いいことだ。


 人間、何を言ったかじゃなく、何をやったかで判断されないとな!


「よーし、じゃあ帰るか! 今頃、ヒロイナが帝国中の寺院に触れを出してるはずだ」


「そうか、じゃあ、内政部分もクリアだな。いやあ、サクサク終わって本当に良かったぜ。俺は帰って、ブルストと建てなきゃいけねえ倉庫がまだあるからよ。ショート、いい加減勇者村の敷地が手狭になってきてるんだぞ。また開拓しなきゃだ」


「あ、そうかあ。ハイペースで発展してるもんなあ」


 パワースと談笑しながら、敵陣のど真ん中を、敵のボスを担いだまま通過するのである。

 誰もが呆然として、俺たちを止めるものはいなかった。


 ちなみに最後の七龍将軍は、パワースがぶっ倒して成り代わり、変装して屋敷に潜り込んだのだそうだ。

 時間はそろそろ日暮れ時。


 夜に事後処理をやって、朝に触れを出すように働きかけて……。

 帰りの時間を考えると、ギリギリだったな……!


 反乱鎮圧、これにて終了!

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