第117話 セントラル帝国で、さっくり作戦開始

 セントラル王国上空で、サクッと今回の作戦を決定する。


「俺が帝国に乗り込んで、反乱軍を怪我しない程度になぎ倒すわ」


「じゃあ、ショートを陽動にして俺が皇帝の弟を確保する」


「この国もユイーツ神教でしょ? あたし、宗教側から皇帝の弟を批判する声明出させるから」


「では宮廷の人々との折衝は私が担当しましょう」


 ということになった。

 ダンガンバビュンを分離し、パワースを反乱軍の方に飛ばす。

 ヒロイナは寺院に。


 俺とブレインの二人で、帝国の城に降り立つのである。

 突然、皇帝の間に続くベランダに俺たちが出現し、辺りは騒然となった。


「な、何者だー!!」


「無礼者めえー!!」


 突っかかってくる兵士がいるので、怪我しないように文字通り小指で転がしてやる。


「ほいっ」


「ウグワーッ!」


「落ち着けお前ら。俺はあれだ。元勇者だ。俺の顔を見忘れたか」


 堂々と宣言しながら、皇帝の間に入ってくると、そこに集まっていた連中の視線が集中してきた。


「本当だ」


「勇者殿だぞ」


「どうしてこんな非常時に勇者殿が」


「もしや我らに手を貸してくれるというのか……!?」


 奥の方の、めちゃくちゃ豪華な玉座に皇帝が座っていた。

 かなり居心地悪そうな顔をしている。


「勇者殿、反乱を収めてくれるのか……?」


「そのつもりで来た。魔王を倒して一年ちょっとで、こんなでかい戦を起こされて堪るか。俺も皇帝も、必死になってあの大戦を駆け抜けて、民と国を生き延びさせて来ただろうが」


「うむ、そうだ。朕も勇者殿も、あれを戦い抜いた。お陰で国は疲弊した。それでも、再び作物を育てられるほどに国は回復してきたのだ。それを、国が疲弊したのは朕の責任だと言って、あの阿呆が……!!」


 皇帝の弟は、魔王大戦の間、ずっと責任ある立場につくのを恐れて逃げ回っていたらしい。

 どう考えても負け戦だったもんな、魔王大戦。

 俺の登場で、人類側の戦況がひっくり返り、魔王軍を押し始めた。


 そして魔王が倒され、平和になり、国土から作物が取れ始めるようになって、いきなり皇帝の弟は反乱軍を立ててクーデターを起こしたわけだ。

 クソクソのクソである。

 よく考えるとめちゃくちゃむかつく野郎ではないか。


「いいか! 俺は! この馬鹿げたクーデターを、明日の昼飯までに終わらせて帰る!!」


 俺が堂々と宣言すると、この場に集った幕僚たちから、うおおおお、というどよめきが漏れた。


「そんなことが可能なのか、勇者殿!!」


「可能か不可能かじゃない! 締切が決まってるんだからやるんだよ! 間に合わせる! 俺も家に可愛い嫁と娘が待っているんでな」


「なるほど!!」


 この場にいるみんなが納得したようで、ほっこりした顔になった。


「勇者殿も人間だったのですなあ」


「うちも戦争が終わってから、孫が次々に産まれましてな」


「平和な時代しか知らぬ子たちです。戦争など起こしたくはありませんな」


 幕僚たちが盛り上がっていく。

 いいぞいいぞ。


 セントラル皇帝は、長いあごひげを撫でながら、うむ、と頷く。


「そうであれば仕方ない。それこそ、勇者殿にとっては国の一大事にも勝ろうな。ともに手を取り合い、この馬鹿げた戦を終わらせようぞ!」


「おう! ということで、連絡役としてブレインを置いておく。今、勇者パーティ全員がこの国にいてな。同時に作戦行動をしている」


「なんと!」


 どよめく一同。


「では頼むぞ! ブレインのコルセンターを通じて俺には連絡できる! だが俺は多忙だ! これから徹夜でこの反乱を片付けまくる! 重要な案件以外で連絡したらウグワーッて言わせるからな! あ、ちなみに何が重要かどうかは全部ブレインに聞いてくれ。こいつが重要と判断したなら、それは間違いなく重要だから」


 それだけ告げて、俺は巨大なベランダから飛び立った。

 向かうは戦場……ではない。


 ハオさんのところだ!!

 居場所はしっかり把握している。


 一瞬でハオさんの家まで到着した。


「ハオさん! 無事か!!」


「ショートさん! 無事よ!」


 家から飛び出してきたハオさんと、抱き合って再会を喜び合う。

 ともにお米を愛する仲である。


「お米はどう……?」


「倉庫に用意してあるね。だけど、反乱に乗じて暴れてる連中がいるよ。うちのお米も持っていこうとしているね!」


「なんだと!! ゆ”る”さ”ん”ッ!!」


 俺は羅刹の形相になった。

 ハオさんに案内されながら、倉庫街へやって来る。

 そこでは今まさに、暴徒化した民衆が倉庫を打ち壊しているところだった。


「やめるのだーっ!! 暴風魔法、タツマキ(俺命名)!!」


 俺の両手から、連続でタツマキが生み出される。

 それは暴徒をひょいひょい吸い込むと、上空まで巻き上げていった。


「ウグワーッ!」

「ウグワーッ!」

「ウグワーッ!」


 暴徒の悲鳴が聞こえる。

 この戦争が終わる明日の昼まで、そのままでいるがいい。


 俺は倉庫に飛び込むと、お米の無事を確認した。

 そしてハオさんに対価を払い、お米をアイテムボクースにひょいひょいと放り込む。


 よし、よしよし!

 短粒種米をゲットだぜ!!

 後はサクッとこのクーデターを終わらせて、家に帰ってから米を育てる!!


「ショートさん。戦争が終わって初めて取れた種籾よ。これを作るために、みんな必死で働いたよ! これ、横から掠め取られていいものじゃないよ!」


「分かってる。だからこそ、クーデターしてる反乱軍はクソクソのクソなのだ。俺がこの手で片付ける!!」


「頼んだよショートさん!」


「任せてくれ! はあーっ!」


 ハオさんの声援を受けながら、バビュンで飛び上がる俺。

 向かうは、帝国軍と反乱軍がぶつかり合う戦場なのだ!

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