第115話 家族挨拶会

 おしめを替えてもらって、一見するとムスッとしているがご機嫌になったマドカ。

 最近は表情の変わらないうちの子が、どんな気持ちなのか分かるようになってきたぞ。


 これを、膝の上に乗せて猫可愛がりする海乃理である。

 叔母さんはとにかく姪っ子が可愛くて仕方ないらしい。


「そう言えば、送ってもらった写真で、カトリナさんもマドカちゃんも角があるけど……これって、固いのかと思ってたら柔らかいんだね」


 マドカの角をつんつんしている。

 これをじーっと見ているマドカである。微動だにしない。


「うん、角はね、男の人と女の人でちょっと違うんだ」


 隣りに座ったカトリナが説明を始める。

 それは俺も知らなかった。拝聴しよう。


「オーガの男の人は、女性を取り合って相撲をするの。その時、角と角をぶつけ合って押し合うんだけど、そういうことをするから角は頑丈じゃないといけないの。だから、黒くなって、トゲみたいに鋭くなる。女の人は本当はあんまり戦わないの。だから、角も二周りくらい小さくて、表面にも柔らかい膜がついててピンク色なんだ」


「へえー! カトリナさん、触ってもいい?」


「いいよー」


「どーれ、うほー、やわらかい! でも、柔らかいのの奥に骨がある感じ?」


「そうなの。だからこのまま普通の服を来たら、引っ掛けて破いちゃう。オーガの服は、背中か横で結ぶようにできてるんだよ」


「ホントだ! おしゃれなだけじゃないんだねえ」


 女子二人の会話を聞いて、ブレインがうずうずしている。

 あれは説明したい顔だ!


「よし、行け、ブレイン!」


「いいですか! では説明させていただきましょう!! オーガの男性の角は骨格から発生しているもので、表面を皮膚が硬化した組織が覆っているため、その硬度は鋼の剣に匹敵すると言われています。同時に彼らの額は皮膚が二層になっており、その下に相手の角を防ぐための鎧状になった組織があるため、ここを武器で攻撃しても有効な打撃にはならないということが、魔王軍戦で彼らが先鋒を務めた際に人間側が苦戦した要因で……」


 ぺらぺらと知識が溢れ出してくるな。

 まあつまり、オーガの男は戦闘用の角と頭の構造。

 オーガの女は、芯に骨が入っていない、サイのツノみたいな構造の角で額はぷにぷにということだ。


 マドカは俺とカトリナの血を両方受け継いでいるので、角はより小さくてぷにっぷにだ。

 赤ちゃんのうちは凄く柔らかいのかもな。


 俺が角をぷにぷにしたら、マドカがじーっとこっちを見た。


「ウー」


「なんだなんだ」


「あかちゃ!」


 そこに駆け寄るビン!

 いつのまにやって来たんだ!


「あかちゃ、つの!」


「なんだ、ビンもマドカの角にさわりたいのか。あんまり触るとマドカが疲れちゃうからな、そーっと触れ、そーっと」


「うん!」


 言われたことが分かっているのか分かってないのか。

 まだ一歳過ぎたばっかりだからな、ビン。

 むしろ、一歳児としては驚くほどの運動能力と聡明さを発揮している。


『明らかに私の神気が体を巡っていますね……。ユイーツ神パワー全開で取り上げるべきではなかった』


 今になって反省しているユイーツ神。

 当のビンは、マドカの角をつん、と優しく触って、キャーッと喜んでいる。

 あまりにビンが笑うのでマドカがつられて、ちょっとだけ口角を上げた。


「うおっ、笑った!?」


「笑った!」


 俺とカトリナで驚愕する。

 ビンは凄いな……!

 謎の赤ちゃんパワーでうちのムッツリ赤ちゃんを笑わせてしまった。


 そうこうしているうちに、徐々に日が傾いてきた。

 勇者村は赤道付近にあるような環境なので、ここで日が傾いてくるというのはかなり遅い時間である。


「海乃理、そろそろ一旦帰った方がいいぞ」


「あ、そうだね。お父さんとお母さんが心配しちゃう」


 海乃理は大変名残惜しそうにマドカをじーっと見つめて、カトリナに手渡した。


「今度は家族で来るね!」


「うちの両親も来ちゃうのかあ」


 再会は喜ばしいが、フクザツな心境だな。

 俺の威厳がなくなる気がする……!


 村のみんなで、海乃理を見送るのである。

 空中に開いた穴は、地球の我が家のパソコンに通じている。


「じゃあね! ショートくんに久しぶりに会えてよかった! なんかめちゃめちゃ逞しくなっててびっくりしたけど」


「別れ際に初めて兄の第一印象を言うのか」


「だってショートくんよりもマドカちゃんの方が大事じゃん」


「そう言われると返す言葉もない」


 このやり取りに、ヒロイナ、パワース、ブレインがにやにやした。


「確かに、最初に出会った頃のショートは細かったもんねえ」


「顔色も青白くてな。こんなやつが魔王討伐できるわけねえって思ってたぜ」


「私は、彼の魔法への理解力が高いことを分かっていましたから、期待していましたよ」


 いいやつだなあブレイン。

 かくして、海乃理は帰っていった。


「……あの穴、カトリナはちょっとお尻が引っかかりそうじゃない?」


「引っかかるかも……」


 今から二人で、地球に行くときの話をしたりするのである。

 ちなみに、穴が消える寸前、向こうの光景が見えた。

 驚いた顔でこっちを見ている、うちの両親がいた。


 全然変わってなかったな……!

 近いうちに、こっちにお招きしよう。


 だが、しばし待って欲しい。

 こちらにも色々とやることがあるのである!

 米とか!


 そんな思いを新たにしていたところ、コルセンターの一つに反応があった。

 最近あちこちに仕掛けているから、どのコルセンターか識別できるように反応のタイプを変えているのだ。


 これは……。

 セントラル帝国のハオさんか!

 ということは、米である!


「どうしたハオさん」


 展開したコルセンター。

 その向こうにいる、ヒゲで人の良さそうなハオさんの顔が、焦りと恐怖で青ざめていた。


「た、大変よー!! お客さん、お米欲しいね。でもお米出荷するどころじゃなくなったよー!!」


「どういうことだハオさん!!」


 米を出すどころではないだと!?


「皇帝の弟が、クーデターを起こしたね! 大変な騒ぎよー!!」


「なんだと!! よし、今すぐそっちに行くぞ!!」


 事態は風雲急を告げる。

 短粒種なお米の入荷が、遅れそうなのだ……!!



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