第114話 うちの妹、おばさんだと名乗る

「ショートくん、抱っこ! 赤ちゃん抱っこさせて!! お願い!!」


「久々に再会した兄に言うことが、赤ちゃん抱っこさせてかあ。待つのだ。奥さんに聞いてきます」


「ショートくんの奥さん!?」


『賑やかな妹さんですねえ』


 ユイーツ神がニコニコしているが、こいつは基本的にピカピカ光っているので表情はよく分からない。


「なあユイーツ神。こいつ、戻れる?」


「こいつって何よ。ショートくん、昔から私のことぞんざいに扱うよね。っていうか赤ちゃん抱っこさせて。名前は?」


「マドカだ。かわいいだろう。ほらマドカ、お前の叔母さんだぞ」


「叔母さん……!! フクザツな心境だなあ」


「ウー」


「ぎゃーっ!! 唸った! うーって唸った! かわいいー!!」


 本当に賑やかだな。


『帰れますよ。ただ、穴が小さいので一人ずつしか行き来できません。それに、通れる体型にも限界があります』


「ブルストみたいなでかいのは通れないってことか。……ということは、俺はもしかして元の世界に戻れる?」


『戻れるようになりましたね』


「これはまた、あっさりと……」


『ですが、ショートさんが戻ると、魔力が希薄な向こうの世界に突然、上位神格級の魔力量を持つ存在が降り立つことになりますので、魔力大変動が起こると思われます』


「魔力大変動?」


『あちらの世界、地球の気候が変わります。大地の奥深くに封じ込められていた魔力が溢れ出し、世界各地で伝承にあった生物たちが復活します』


「地球がファンタジー世界になっちゃうってことか。俺が行っただけで」


『なりますね』


 なるほど……!!

 それは、おいそれと帰れないな。


 海乃理はマドカにべろべろばーしていて聞いていない。

 まあいいか。

 こいつも両親も、こっちに遊びに来させればいいや。みんな向こうの世界でも生活があるだろうしな。


「おーい、みんなー」


 俺は食堂の仲間たちに声を掛けた。

 一斉にこちらに振り返る、村人たち。


 その目が、一様に見開かれた。

 仕事をしていた面子も集まってきていて、フルメンバーだ。

 彼らがみんな、俺たちを見て絶句しているのはなかなか見ものだった。


「ショート、誰、その子……? なんか、ショートに似てる気がする」


 カトリナ、鋭い。


「俺の妹。ついさっき、俺の世界とこっちの世界が繋がった」


「なんですって」


「それは一大事ですぞ!」


 飛び上がるほど驚くのは、ブレインとカタローグ。


「それでな、カトリナ。マドカをこいつに抱っこさせてもいい?」


「うん、ショートの妹さんならいいよ! お名前はなんていうの?」


「海乃理。海乃理、こっちは俺の奥さんのカトリナ。可愛いだろう……」


「ほえー、ほんとに角がある! コスプレじゃないよね? あ、でもマドカちゃんも右側に一本だけ角があるし。よろしくお願いします! 海乃理です、お義姉さん!」


「お義姉さん!!」


 カトリナが弾かれたように起き上がった。


「こっ、こちらこそよろしくお願いします、ミノリさん! うひゃー、お姉ちゃんになっちゃったー!」


 一人っ子カトリナにとって、姉妹ができるというのはかなり衝撃的なできごとだったようだ。

 ちょっとニヤニヤしている。


「あー、なんか可愛い人だねえ。ショートくんが好きそう。随分若そうだけど、何歳くらいなの? 若作りなのかな」


「確かカトリナは十六歳」


「へえ、十六……十六っ!? 私より三つも年下じゃない……! と、年下のお義姉さんができてしまった! あ、マドカちゃん抱っこさせて!」


「ころころ表情が変わるやつだなあ。はい、どうぞ」


 マドカを手渡す。

 海乃理は大事そうに受け取ると、優しく抱きしめた。


「アー」


 マドカがハッとして、海乃理の胸元にぺたっと頭をくっつけた。

 リラックスし始めたな。

 マドカめ、女の子なのに女の子に抱っこされるのを愛するとは。


「うわー、思ったよりも重い! それにポカポカあったかーい! うふふ、かーわいい。なんだかミルクみたいな匂いがするー」


 海乃理が大変満足げなのだ。

 俺がその様子をじーっと眺めていたら、カトリナが横にトテトテ小走りでやって来た。


「ね、ショート。帰っちゃうの?」


 あ、それを心配してたのか。

 ちょっと不安げなカトリナ。


「帰らないぞ。俺の家はここだもん」


「良かった!!」


 彼女の表情が一気に柔らかいものになって、俺に体をぎゅーっと押し付けてきた。

 はっはっは、カトリナとマドカを置いて元の世界に戻るものか。


「もしあっちに行くなら、旅行だな。カトリナとマドカも連れて、地球を見に行こう」


 そのためには、魔力大変動とやらの対策をせねばならないがな。

 旅行したら地球がファンタジー世界になりました、では洒落にならない。


 おっ、ブルストとパメラが海乃理に挨拶に来たな。

 若いおじいちゃんとおばあちゃんなのだ。

 うちの両親とも引き合わせたいなあ。


 新しい野望が生まれてしまったぞ。 

 村はもうちょっと大きくしたいし、短粒種のお米も育てたい。

 次なる子どもは、案外ヒロイナとフォスから出てきそうな気がするし、フックとミーもそろそろ第二子ができそうな予感がする。


 ここで、地球との世界が繋がったというのは大きい。

 やれること、できること、やりたいことが一気に増えた感じだな……。


 ふむ、ふむふむ……。


「ほぎゃー」


 マドカが泣き出した。

 この声は……。


「おしめだね! うんちしたのかも!」


 カトリナがトテトテと、あわあわしている海乃理に駆け寄っていく。


「ミノリさん、おしめ交換手伝って!」


「は、はい!」


 よし、その間に、俺はこれからの計画を立て直すとしよう。

 我が村の頭脳を集めて、計画書の作成をするのだ!


「うーん、燃えてきたぞ……!!」


『世界をつなぐ魔法は、ショートさんに預けましょう。あなたなら安心です。まだ名も無き魔法です』


「では、ここで俺が名付けるとしよう。こいつは、イセカイマタニカケ、だ!」


『いつもながら、独特の命名センスですねえ……』


 光り輝く奥で、ユイーツ神が笑っているのがよく分かるのだった。


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