第111話 いざ食堂建設と苗育成の始まり

 外では、カンカンと槌打つ響きが賑やかだ。

 勇者村食堂の建設が始まっているのである。


 我が家とフックとミーの家の前に、屋根と柱だけのスペースが生まれようとしている。

 土台は石を集めてきて、コンクリートで固めるらしい。

 この世界にコンクリートあるんだな!


「なんだショート、コンクリート知らねえのか。床を作る時とか、大きい建物の外装はコンクリート使ったりするんだぞ」


 ブルストからびっくりな発言が飛んでくる。


「いやあ……コンクリなんて発展した文明のものだと思ってたからさ……」


 コンクリのもとになる砂は、森の奥で取れたそうだ。


「もともと、火山灰を石灰などと混ぜて作るのですが、不思議なことに森の奥に火山灰が埋まっていたのですよね。ひょっとすると、勇者村の地下には昔の火山が眠っているのかも知れません」


「フラグみたいなことを言うなブレイン」


「ハハハ」


 ハハハではない。

 とりあえず、食堂は現在、柱と屋根を作る班であるブルストとパメラ、コンクリで床を作る班であるブレインとフックとパワースに分かれて動いている。

 ここは任せても良かろう。


 昨日は丸一日、ユイーツ神とユーガッタメールの解析を行ったのだ。

 結論として、俺がメールを届ける要素を付加した時、世界の壁を貫く効果が生まれたのだろうということになった。

 その成分は抽出してある。


 これを拡大するのか、複数一度に使うかできる魔法が開発できれば、世界の壁を超えられる。

 つまり、俺は元の世界に帰ることができるのである。


 だけどなあ。

 こっちでカトリナと出会って、マドカが生まれたしなあ。

 帰らなくていいのでは?


 あ、でもあれだ。

 うちの両親と妹にマドカを見せびらかしてやらねばならんな。

 よし、世界の壁を壊す魔法はちゃんと開発しよう。


 そして戻らないぞ。


 この工事の風景を、リタと彼女に手を繋がれたビンがじーっと見ている。

 ビンも大きくなったが、リタも成長したな。

 村に来た頃はまだ子どもだったが、すらっとした。


 リタはお茶係らしく、お茶の準備が終わったらじーっと作業を見ているのだ。

 彼女はあまり腕力がないそうで、コンクリの骨材になる石を並べるところまでは手伝ったが、それ以降は手出しできない。

 それに、好奇心旺盛なビンを確保しておくという大事な役割を負っている。


 ヒロイナに似てきた気がする。

 性格は真面目なままだけど。


 侍祭娘二人組の片割れがこっちにいるということは、もうひとりはどこに……。


 俺は本来の用事を果たすべく、クロロックのところに向かう。

 いた。


 カエルの人と、ピアが二人で米粒について何やら語っている。

 そうか、食べ物全てに関わるつもりか、ピア。

 見上げた心意気である。


 侍祭娘のもう一人であるピアは、十一歳にして屠畜について学び、ホロロッホー鳥くらいなら一人で捌けるようになっている。

 よく食べる子だが、同時に食の関係ではめちゃめちゃに働いているので、来た当初のぽっちゃりが嘘のように引き締まっている。


 活動的な美少女になったな。

 だが中身は変わっていないぞ。


「お米は苗っていうのになるんですか? 水につけたらこの間の美味しいお粥みたいなのになっちゃわないですか!」


「お湯によって性質が変わるとあのようになりますね。ですが水であれば米本来の性能を発揮するようになります。その前に、苗は最初は水につけないのですよ。このように普通に土に蒔いて、発芽させたものがこちらになります」


「準備いいなあ」


 俺が感心して呟くと、二人とも気付いたようである。


「やあショートさん。既に米の芽が出ていますよ。勇者村の気候は苗を育てるのにとても向いていますね。一斉に発芽しました」


「クロロックも仕事が早い上に、仕上がりが細やかだ」


「専門分野ですからね」


 クロロックが自慢げに、クロクローと鳴いた。

 その膨らんだ喉を、ピアがぷにぷに突いている。

 やめるのだ。


「そろそろこれを移動させて、直接の日当たりが少ないところに移しますよ。そう、この間作った倉庫です」


 というわけで、三人で発芽した米を運ぶことになった。

 倉庫にて、緑色に育つのを待つそうだ。


「その後、さらに育てば日が当たるようにします。温度管理がやりやすいのは、勇者村の最高の美点ですね。常に苗が育ちやすい環境が整っています。あまり外気に当てすぎると、乾季ですから枯れてしまいますが」


「なるほど。苗になるだけでも大変なんだな……」


「徐々に専用の施設を作っていくのがいいでしょう。こればかりは魔法で一気に……とはいきませんからね」


「うむ、なんか無理やりやると食味が変わりそうで怖いな……!」


「美味しいの大事ですもんね! うち、美味しいの大好きです!」


 それは知ってる。


 倉庫に、苗となる米を運び込んだ。

 これは、俺が米を買い付けに行っている間にブルストが建てたものである。

 パワースがいたので、思ったよりも早く作業が終わったらしい。


 手が多いと、とにかく仕事はスピーディになるよな。


 苗作りもそうだ。

 頭脳であるクロロックと、働き手である俺とピアがいて、サクサクと作業が進む。


「ところでピア。お米はお粥のようにして食うだけではないのだ。あれそのものを炊いて、味をつけて食べるやり方もあり、肉などととても合う……」


「ええっ!?」


 ピアが愕然とした顔をした。

 口の端から、つつーっとよだれが垂れる。


「食べたいだろう……」


「食べたいです……!! ショートさん、うち、お米が食べたいです……!!」


「うむ、これからも米作りに励んでくれ……! これより勇者村は、パンと米を選べる豊かな土地になっていくのだ」


「天国!!」


 ピアの目がきらきら輝いた。


「うんうん。ワタシもまだ、ショートさんが約束してくれたオニギリとやらを食べられていませんからね。見たところ、この米ではオニギリは難しいのでしょう?」


「ああ。それはもう少し先の野望になる」


「目標があると、燃えてくるものです」


 カエルの人は、静かに燃え上がるのだ。

 かくして、並行作業にて、勇者村は動き出した。


 俺はこの他に幾つも仕事を抱えているので、大変忙しい……!

 だが、可能な限り全ての仕事に顔を出したい。

 とても悩ましいところなのだった。


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