第107話 種籾は安々とはやれんな!

 空からふわふわと俺たちが降りてきたので、町の人々が騒然となった。

 そう、それなりに大きい、町と言える規模である。

 町を守る塀や家々に黒いものが塗られているのは、樹木から取れるヤニである。


 沢山の人が道に立ち、俺たちを指差してわあわあと叫んでいる。

 お、兵士らしき連中もやって来たな。

 暑い南国なので、最低限の鎧しか身に着けていない軽装だ。


「な、なにものだー!」


「空から!? ま、まさかペナンガランが……!!」


 誰何すいかされた。


「ペナンガランではない。俺たちが米を買いに来たのだ」


 俺が正直に答えると、みんなざわついた。


「空からわざわざ米を買いに……!?」


 ふわふわと、俺たちが乗った板が降りていく。

 ホホエミ王国では、あまり長居しなかったからな。

 ここでは俺の顔はあまり知られていない。


 知っているのは、俺が直接助けた地元の有力者連中である。


「ハジメーノ王国の方で開拓村をやってるんだ。いよいよ米を作付けできる見通しが立ってきたので、満を持してな」


「なーるほど」


 どうやら周囲の人々は納得したらしい。

 聞いてみると、あちこちから種籾を買いに来る者がいるらしい。


 魔王軍にやられていた地方も、再建が進んでいる。

 そうなれば、農業も復活してくるものだ。

 人間、食わねば行きていけないから、農業は一番大事な産業だからな。


 町の地主たちの集まりに参加して、買い付けの交渉をした。


「安くは売れんなあ」


 地主の一人が、ニヤニヤしながらそんな事を言う。

 ぼったくるつもりである。

 こちらは買いに来ている身だし、切羽詰まっている場合も多い。


 足元を見て高くふっかけるのはあるあるだよな。


「ほう、提示されたお値段は相場よりもかなり高いが?」


「戦後だからのう……。何もかも高くなるのは当たり前だろうが」


「ふむ、では相場魔法で確認してみよう。モウカリマッカー!!」


 地主たちの目の前に、現在の米相場が立体映像となって出現する……!


「な、なにぃーっ!?」


「そしてこれが、ホホエミ王国の相場ですな。ホウホウ、たしかにいいお値段だ……。だが地主の諸君が提示したものはこの二倍ほどの価格だなあ……」


「こ、こんなものに信憑性などあるか!!」


「うちはうちだ! よそ者は黙って言い値を払えばいいのだ!」


 逆ギレする地主連中。

 俺もまあ、人間ができている方なので、あまり恩を着せるマネはしたくないのだが……仕方ないなあ。


 フォスはおろおろしているし、ブレインはニコニコ笑っているし。


「この俺の顔を見忘れたようだな、地主たちよ……。この地域を襲ったモンスター、ペナンガランの大群を打ち倒し、この地を救ったこの俺たちを……」


 ペナンガランというのは、女の生首に内蔵がくっついた姿をした、空飛ぶ吸血鬼である。

 奴らは、流れ着いてきた難民の女たちを装い、町の中まで入り込んだのだ。

 そして本性を現し、虐殺を始めた。


 ここにちょうど到着したのが、俺たち勇者パーティであった。


「ま、まさか……」


「その話を知っている……?」


「確かこやつらは空から来たと……」


 ざわつく地主たち。

 彼らに向けて、ブレインが微笑みながら一言放つ。


「ペナンガランの弱点である、樹木のヤニはまだあちこちに塗られているようですね。私の言いつけを守っているのは立派です」


「そ、それを知っているとは……。お、お前たち……いや、あなたさま方はまさかーっ!!」


「いかにも」


 俺は立ち上がり、魔法でピカ―っと光った。


「勇者ショートと賢者ブレインである」


「は、ははーっ!!」


 地主たちが、一斉にひれ伏した。


「す……凄い! あんなにふんぞり返っていた地主たちが!」


 この町が今の姿でいるのは、俺たち勇者パーティのお陰だからな……。


「ということで、ちょっとまけてくれ」


「は、はあ……。そうしたいのは山々ですが……」


 ふんぞり返っていた地主が、バツの悪そうな顔をする。


「何か問題が」


「実はあちこちから買い付けがくるので、わしらも来年の作付けを考えるとギリギリでして……高めにしておかないと年を越せないんですわ」


「あ、なーるほど……」


 彼らにも彼らの事情があったようだ。

 それは仕方がない。

 俺は普通にお金を払って、種籾を買うことにした。


「済みませんなあ……。あと、悪人顔で済みませんなあ……」


「気にするな。町を救ったが後に飢饉に陥れたなんて寝覚めが悪すぎる……。なんか茶番に突き合わせて悪かったな。おまけでさ、種籾を苗まで育てるやり方を教えてくれない?」


「それは喜んで!」


 ということで、こっちも得るものはあり、まあまあウィンウィンの関係になった。


「うちだけだと量が足りんでしょう。この辺りを巡られるといい」


 周辺の種籾情報も得た。

 どうやら、周囲の村々も種籾の量はいっぱいいっぱいらしい。

 これは、あちこち巡って少しずつ買い集めねばなるまい。


 その後、町の奥さんたちから長粒種のお米を使った料理などを習うなどした。

 これらは、フォスのメモと、記憶力に大変優れているブレインに任せる。


 帰ったら、三人で料理しような!

 その前に苗も作らなくちゃなのだが!


 かくして、ホホエミ王国の種籾巡り続行なのである。


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