第104話 リゾット会議
パエリヤに失敗したため、俺は急遽、我が知恵袋であるブレインと会議に入った。
農作業をやる傍ら、暇を見ての会議である。
とは言っても、日差しが強い真っ昼間はみんな休憩したり昼寝したりしているので、時間は割とある。
「……ということで、この間のは失敗していたのだ」
「なるほど。とても美味しい食事でしたが、そうだったんですね。あれはあれで、そういう料理がありそうです」
「いやいや、お米をスープでふやかしたような料理なんて…………………………あるわ」
お茶漬けとか、リゾットとかな。
今回はブイヤベースみたいになったスープで米をふやかせたので、リゾットかも知れん。
俺はパエリヤを作るつもりで、リゾットを作っていた……?
確かに、そっちの方が水加減が楽である。
「ほう、リゾット。私も今度作ってみても? 米はそのものの味が薄いですし、加工のしがいがありますね。それに、思ったよりも腹持ちがいい」
「そうそう。まるごとデンプンのカタマリみたいなもんだからな」
「これは本格的に、苗を入手してきて生産してもいいですね。ショートはいつ頃、苗の買付に行くのですか? 私も今回は同行しようと思いますが」
「ブレインが来てくれるのか! 心強いな。じゃあ、明日にでも……」
「僕も行きます!!」
横で目を輝かせながら、俺とブレインの会議を聞いていたフォスが元気に挙手した。
すっかり、俺やブレインの弟子みたいなポジションである。
いや、パワースも剣を教えたりしているらしいから、勇者パーティの弟子だな。
何気にすごいポジションなのかも知れない。
「フォスは特に予定は無いのか? 最近、ヒロイナに呼ばれて教会に出入りしてるが」
「あ、はい。ヒロイナ様が文字を教える時の補佐をしています。ヒロイナ様の教え方は上手いですよね。参考になります。ただ、ちょっとボディタッチが多いので、毎回ハッとしてしまって……。ううっ、僕は修行が足りない」
ヒロイナ、じわりじわりとフォスを攻略に来ているな?
あいつにとっての娯楽でもあるのだろう。
最近、ヒロイナの機嫌がいいもんな。
「フォスには悩ませてしまうかも知れんが、頼むぞ……。君は勇者村で大事な役割を背負っている」
「は、はい!! がんばります!」
がんばってくれ!
「ところで話は変わって俺の娘の話なんだが」
「マドカちゃんですね。どうしましたか」
「お腹の中にいた時は元気に、内側からぼんぼん蹴ってたみたいなんだが……生まれてからはあまり動かず、おっぱい飲んで寝てるだけなのだ」
「赤ちゃんとはそういうものですよ。それに、ショートは生まれる時のマドカちゃんと、話をしたのでしょう?」
「うむ。食い意地が張った子だったので、外の世界には美味いものがたくさんあると伝えたら自分から出てきた。……あ、そうか!!」
俺は、マドカのぶすーっとした顔を思い出す。
美味いものを食うために産まれてきたのに、今のところは体の都合上、おっぱいしか飲めないのだ。
あいつ、ふてくされているのでは?
赤ちゃんなのに知性高いなあ。
今度念話で聞いてみよう。
「離乳食を食えるようになったら、美味いものを用意してやらねばな」
きっとあっという間にでかくなるぞ。
「それこそ、昨日ショートが作ったリゾットを、もっと柔らかくしたものなら離乳食にもいいでしょう」
「なーるほど! 米はやっぱりいいな!」
別に、パンをふやかせたパン粥でもいいんだがな。
それに、マドカが離乳食を口にできるようになる頃には、俺が育てた米を収穫している頃ではないだろうか。
手ずから育てた米で作った離乳食……!
夢が膨らんでいく。
「そうなると、お米を保存する倉庫が欲しいですよね。村には倉庫専用の建物がないですから」
フォスの言葉に、確かにと頷く俺たち。
今現在、俺のアイテムボクースや、各家の余剰スペースを倉庫に使っているのだ。
新しく倉庫を作るのは大事である。
俺が出かけていても、食料を保存しておけるからな。
「それからショート。ブルストさんとパワースと話をしているのですが、村の大食堂を作ろうと思っています」
「大食堂?」
「はい。村人も増えてきて、ショートの家で集まって食事をするのも狭くなって来ていますからね。ここで、屋根のある大食堂を作り、村の会合の場とするのはどうでしょうか」
「食堂であり、多目的スペースってわけか!」
俺はふむふむと頷いた。
イメージを膨らませてみる。
そのイメージを、幻像魔法でふわふわっと形にしてみる。
「随分丸くて柔らかそうな食堂ですね」
「俺のイメージ力が貧困なんだ。ふ菓子みたいな食堂になっちまったな」
だが、幻像魔法が描き出した大食堂で、概ね間違ってないらしい。
南国なので、壁はない。
何本かの柱で大きな屋根を支える作りだ。
壁が必要な時は、柱と柱の間に板を並べて張っていくということだ。
「すごい構造じゃないか。夢が膨らむなあ……」
「夢も何も、既に設計図は引いてありますよ」
「いつの間に!?」
圧倒的スピード感に驚愕する俺。
「ショートがマドカちゃんと米にかかりきりですからね。こういう時、別働隊として動くのが私の役割でしょう」
「さすが……!!」
勇者村の頭脳、ブレイン!
かくして、勇者村は、米の育成と新たなる拡張計画のために動き始めるのであった。
だが、それはそれとして毎日の仕事もしないとな。
とりあえずは……。
「ショートー! ご飯の用意するから、マドカ預かっててー!」
「へいへい」
カトリナがマドカを届けに来たので、ヒモで固定して抱っこしておく。
相変わらず、ぶすーっとした顔をした子だ。
俺にくくりつけられても、表情一つ変えず、小さな鼻からプスッと鼻息を吹くだけである。
「マドカ、大丈夫だ。あと何ヶ月かすれば、美味いものが食えるぞ。今は美味いものを食うための準備期間なんだからな……!」
うちの子に言い聞かせる俺なのだ。
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