第98話 新婚旅行帰りにヒロイナのお相手候補を探す
翌日も連泊し、カトリナと二人で星空を見上げながら露天風呂に入ったりしたのである。
うーむ、感動的光景。
海の王国はゆっくりと建て直しが進んでおり、魔法の街灯なども設置される予定があるらしい。
そうなれば、この星空を見ることはできなくなる。
地上の光が明るすぎれば、星空などかき消されてしまうのだ。
そう考えると、貴重な体験だった。
「……ということで、そろそろ帰ろうか」
「うん! お土産もたくさん買ったしね」
砂漠のお菓子と、海産物の干物を山程。
海産物は水で戻す時に、いい出汁が出るんだよなあ。
海の王国の人々に見送られ、海神にも見送られつつ、俺たちは帰途についた。
帰りはゆったり遊覧飛行と行こう。
ふわふわ飛んでいると(しかし速度はジャンボジェットくらい)、ちょうどハジメーノ王国の王都上空に差し掛かった。
ここで俺の脳裏に電撃走る────。
「ヒロイナからかっこいい男を見繕ってくれって頼まれてたんだった」
「あー、いつもヒロイナが言ってるもんねー」
話をハイハイと聞いていたら、気づくと三ヶ月近く経過しているではないか。
そろそろあいつの堪忍袋の緒が切れるかも知れん。
城門に降り立って、兵士に告げる。
「トラッピアに取り次いでくれ。一人、若い男で魔法が使えるくらいの能力があるやつを見繕って欲しい」
「はっ! かしこまりました!」
兵士がすごい勢いで城の中に走っていった。
俺とカトリナは、お茶など出してもらいつつ、のんびり待つ。
少しすると、中に案内された。
通されたのは、会議室である。
トラッピアとハナメデルがいる。
「一体どうしたわけ? 突然来たと思ったら、よく分からない要求をしてきて」
トラッピアの質問に、俺はうむ、と頷いて答える。
「ヒロイナが彼氏が欲しいってずっと言っててな……」
「パワースに乗り換えて、挙げ句そっちも捨てたのはヒロイナでしょう? 自業自得ではないの?」
「それはそうだが、一応うちの唯一の司祭なので、たまにはご褒美を与えておきたい」
トラッピアが、なるほどと納得する。
「わたしは、勇者村へ行けと命令することはできるわ。だけど、本人の意思がどうかというところが重要なのではないの?」
「トラッピアからそんな良心的な発言が出るとは……。ハナメデルに感化されたな」
「うるさいわね! あまり強硬策ばかりやっていると、お父様のように失脚することになるでしょ」
父王を蹴落とした女王の言葉は含蓄があるな。
「その辺りの人材はハナメデルに一任しているわ。どう?」
トラッピアの話を継いで、ハナメデルが口を開いた。
「そうだね。その条件なら、他ならぬ僕が当てはまるんだけど……ご覧の通り王配は、勝手に城の外に出るわけには行かなくてね」
冗談めかした風に言ってるが、これは本気でうちの村に来たがってるな。
「ハナメデルさんが来ると、なんか最強のライバルが来たみたいな気分になるなあ」
カトリナの感覚は正しいかも知れない。
俺もハナメデルの事は結構好きだしな……!
「ありがとう。それでね。魔法が使える人材なら、魔法局にいるからそこから一人連れてこよう。彼らはかの賢者ブレインを冷遇したために、今では王国で冷や飯を食らう部署にされているからね」
ほう、因果が巡ったらしい。
当時のトラッピアは、父王を蹴落とす政争の真っ只中だったので、ブレインの事まで気が回らなかったらしい。
そして、父王の新派からの刺客を防ぐため、この間の戦争の時までは、周囲を彼女の幕僚で固めておく他なかったようなのだ。
人に歴史ありである。
なかなかやばい暗闘を繰り広げていたな、ハジメーノ王国の王宮。
しばらくして、大人しそうな少年が呼び出された。
魔法局の新人で、それなりに仕事ができる奴らしい。
「彼が勇者村まで行ってもいいそうだよ」
ハナメデルに紹介された少年は、メガネをくいっと持ち上げて、
「フォスです。よろしくお願いします……!」
と挨拶してきた。
緊張している。
あと、足がふらついているな。
「大丈夫?」
「あ、はい。魔法局の諸先輩方が全く仕事ができないので、僕が割りを食って三徹してるだけです……! 真面目に昼間に幻覚が見えてきたので、退職を考えてたところだったんです」
「なあトラッピア。魔法局はもう解体した方がいいのではないか」
「そうね。じゃあ魔法局の残った連中は全員地下牢ね」
「ヒェッ」
俺たちのやり取りを聞いて、魔法使いの少年フォスが青くなった。
「ギ、ギリギリだった……。ここで勇者ショートにお会いできたことは幸運でした……! 王宮では、魔法局に対する風当たりがきついのです。僕は魔法と事務仕事しかできません。魔法局を追い出されたら間違いなくホームレスになります。どうか連れて行って下さい……!」
切実な願いだな。
「いいだろう。君に頼むのは、賢者ブレインの助手だ。魔本の管理と整理、その他に雑務がある。毎日きちんと寝られるし、三食手作りの料理が食えるから安心してくれ」
「天国ですか」
フォスの目がキラキラ輝く。
ブラックな職場で働いていた人間は、当たり前の環境ですら光り輝いて見えるものである。
見た目も、度重なる激務で疲れ果ててはいるが、悪くはない。
こういう、線が細くてオラオラ系ではない男というのも、ヒロイナには新鮮であろう。
頼むぞフォス少年。
君にはヒロイナへのご褒美となってもらう……!!
「あの、勇者ショート。なぜ僕を見て優しく微笑むんですか」
「なんでもないぞ」
かくして、村へと戻る俺たちなのである。
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