第95話 砂漠の王国でいらっしゃい
岩山を越えて、砂漠の王国の上空に来る。
魔法で日傘を作っているので、強い日差しもなんのその。
そもそも空ならば気温がちょっと低いから快適である。
「ふわー! 隅から隅まで全部砂だよー!!」
カトリナが感動したみたいで、きゃっきゃとはしゃいでいる。
うんうん、喜んでもらえて嬉しい。
「そうなのだ。ここが砂漠地帯ね。で、上から見るとあんまり変わらないが、実は砂ばかりのところと、岩石がチラホラしてるところがあるんだ。岩石のところには植物も生えてるし、動物も結構いるんだぞ。うちに生えてるサボテンガーは、岩石砂漠にいるマザーのサボテンガーから分けてもらったものだ」
「へえー。ここでもらってきたんだ。あ、じゃあね、そのお母さんのサボテンガーさんに挨拶していかない?」
「いいぞいいぞ。カトリナは礼儀正しいなあ」
「えへへ。だって、うちのサボテンガーくんにお世話になってるもん」
できた嫁の発案で、サボテンガーへと挨拶に向かうのだった。
すぐに漂ってくる、濃厚な食用油の香り。
岩石砂漠の一角に、黒い油の泉ができていて、そこにサボテンガーがいた。
「いよう、サボテンガー!」
『あら、ショートじゃない。ついこの間来たばかりだと思ったけれど?』
「あれから半年くらい経ってるぞ! 時間の感覚が長いよなあお前さん。あのな、お前さんからもらったサボテンガーのちびがいい働きをしてくれててな。王国を救うくらいの大活躍なんだ。ということで、うちの嫁さんがお礼を言いたいって」
「はじめましてー!」
俺に抱っこされながら、サボテンガーに手をふるカトリナ。
上空からでも分かるほど、サボテンガーはでかいからな。
ハジメーノ王国の王城くらいあるのだ。
『はじめまして~! 礼儀正しい子じゃなーい!』
「いつも! うちの村がお世話になっておりますー!! 村のサボテンガーさんに、とっても助けられてますー! ありがとうございますー!!」
『どういたしましてよー! ショート、いい子もらったじゃなーい!』
「そうだろうそうだろう、うへへへ」
のろける俺なのだ。
こうして、サボテンガーとの顔合わせを終えた俺たち。
彼女に別れを告げ、次なる土地へと向かうのである。
「砂漠の王国までは遠いの?」
「距離的には、歩けば二日くらいだな。だけど、空を飛べばまあ数分だ」
飛行魔法の圧倒的便利さ。
砂漠の砂に足を取られることも無いし、日除けの魔法で強烈な日差しも怖くはない。
あっという間に岩石砂漠を超え、眼下にオアシスを認めつつ、次に見えてくるのは大きな砂丘。
こりゃあ、夜になったら見栄えがするだろうなあ。
日が暮れたら二人で見に来よう。
広大な砂漠の地平線に、砂色の城壁が見えてきた。
相変わらず幅広い城壁だ。
高さもある。
あの大半は、魔王との戦い……最近では魔王大戦と呼ばれているようだ……以来、サボテンガー率いる砂漠のモンスター勢によって破壊され、砂漠の王国も蹂躙された。
つまり、見える限りの何もかもが大戦後に再建されたものである。
うーむ、強い日差しにキラキラと輝いて見える。
アブカリフのやつ、気合を入れて建て直したなあ。
「きれいだねえ。砂漠の宝石みたい」
「言い得て妙だな! 確かに、こりゃあ綺麗だ」
しばらく空から眺めた後、国へと入る門の前に降りた。
砂漠の王国は、門が開け放たれている。
魔王大戦の時には想像もできなかった光景だな。
「あっ、そ、空から人が!!」
「おい待て、あのお方はまさか……」
「そうだよ! 空から来るなんてあのお方しかいない! 勇者様だ!」
「勇者ショート! 勇者ショートがいらっしゃったぞ!!」
うおーっ!?
城門から、控えの兵士や城壁を作っている労働者も含めて、わらわらと人が溢れてくるぞ!!
たちまち、降り立った俺とカトリナは人垣に囲まれてしまった。
「ようこそ、勇者ショート!」
「再建された砂漠の王国を御覧ください!」
「勇者ショートのおかげです!」
感謝を忘れない人々である。
「ショートはどこに行っても有名人だねえ? あなたが褒められてると、私も嬉しくなっちゃう」
「我が事のように喜んでくれるかあ。それは俺も大変嬉しい」
公衆の面前でカトリナといちゃいちゃする。
ちなみに、少なからぬ女性陣から、俺に向けて熱視線が放たれている。
「皆さん! 俺は! 側室を迎えませんので! 女性の方は散って下さい!」
俺が大々的に宣言すると、女性陣があからさまにガッカリして、散っていく。
うーむ、恐ろしい……。
独身のままこの地を訪れていたら、俺の貞操は危機的状況だったな。
「というのもな。俺は別に金持ちになってウハウハな生活をしているわけではなく、土地を開拓して質素な暮らしをしているからなのだ。砂漠の王国とは価値観も違うところに生きているしな」
この言葉がとどめになったようで、娘の婿に、と言いに来たらしいおじさんとおばさんたちも散っていった。
うーむ、現金な。
残ったのは、純粋に勇者をリスペクトする人々である。
若い男たちとか、おじさんたちとか、奥様方とか。
「それから、俺とカトリナは新婚旅行に来ているので道を開けてもらえるとありがたい……!! つまりだ。散れ、散れー!」
手振りで野次馬を散らしつつ、入国。
これより、観光を始める!
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