第94話 新婚旅行へ!
ある朝ハッと気付いた。
結婚したんだから新婚旅行に行ってもいいのでは?
そして、じっとカトリナのお腹を見る。
「んー?」
俺の視線に気付いて、彼女も見つめ返してきた。
「大きくなったなあ」
「そうだねえ。あと二ヶ月くらいで生まれるかなーって」
「つわりとか無かったよね……?」
「ええとね、ちょっと食べ物の味が変わった。でも、美味しいからパクパク食べちゃうんだけど」
後で聞いたら、異種族にはお産が大変な種族と、そうでない種族がいるのだそうだ。
エルフや機人は大変。
その他は楽。
その他の種族は、ずんぐりしてたり、動物に近かったりするからな。
赤ん坊の大きさがどの種族も大体一緒なので、生まれやすさというの違うし、妊娠時の負担も異なる。
負担大きめ、生まれるの大変な人間が、世界で一番増えてるっていうのはかなり不思議だが。
カトリナはオーガなので、子ども関係は楽なんだと。
「では、行けるな、新婚旅行」
「新婚旅行?」
彼女が首を傾げた。
「俺の世界の風習でな。結婚した二人が旅行に行くんだ。ごく稀に空港で別れたりするものいるけどな」
「ははあ……」
カトリナはよく分かってないようで、逆の方向に首を傾げた。
すると、この話を聞いていたパメラが加わってくる。
「あれだろう? 旅行中は二人だから、自然と二人きりで生活をともにするじゃないか。で、普段と違う環境で相手の素が見えてくるってわけさ」
「おお、鋭い! 多分そう」
俺はパメラの言葉に全面的に賛成した。
「なるほどー。でも私、ショートのいいところもダメなところもみんな見たよ?」
「ハハハ、カトリナさんには敵いませんなあ」
全くそのとおりであった。
出会いからして、生水でお腹を壊していた俺だからな。
「とりあえず、外の世界を色々見て回って、観光するんだ。俺がカトリナと二人きりで旅行したいの。どうだろう」
「私と? むふふふ、いいに決まってるじゃん。あとね、三人だよ」
カトリナ、ぽふぽふとお腹を叩いてみせた。
「おおっ、三人だ! よし、うちの子どもも一緒に、新婚旅行に行こうか」
そういうことになったのだ。
ちょうど、用水路も仕上がった頃合いである。
乾季がやって来るまで後少し、やるべきことはみんなやったし、俺がいなくても村は問題なく動く。
きちんと、準備してきたからだ。
「旅行! 旅行かあ。ずうっと、それどころじゃなかったもんねえ……。お父さんと二人で、生き残るのに必死で……」
「ああ、そうだなあ」
ブルストもやって来た。
「旅行行くのか。行け行け。楽しんできちまえよ。旅行なんてのはな、無駄の極みだ。つまり余裕があるってことなんだよ。ショートが来てから、色んなもんが積み上がって、お陰で人が増えた! 行って来い、カトリナ」
「いいの?」
じいっとブルストを見るカトリナ。
そしてパメラを見て、頷いた。
笑顔になった。
「だね! お言葉に甘えちゃう。私、ショートと一緒に旅行に行きます!」
「うし!!」
俺はガッツポーズをした。
新婚旅行である。
旅行先で撮った写真、ユーガッタメールで送っとくか。自己満足だが。
「それでショート、どこに行くの?」
「そりゃあもう、まずは砂漠の王国だろう。アブカリフのところに遊びに行くぞ」
あいつの奥さん十人、カトリナとも仲良しだったしな!
アブカリフには何人か子どももいるそうだから、経験談なども聞いてこよう。
かくして、カトリナを連れて飛び立った俺。
おお、お姫様抱っこする彼女の重さが増しているのが分かる。
二人分の重みだな。
「大丈夫? 空飛んでて大丈夫?」
「だいじょうぶだいじょうぶ! ショートの抱っこ、安定感凄いから」
うーむ、泰然自若としたものである。
大したもんだ。
途中、国を隔てる山の頂上に降りてお弁当を食う。
すると、山向こうからでかいのがやって来た。
『ここは我の縄張りである。お宝泥棒は焼き尽くして……あっ、ショートさん!!』
「おう、レッドドラゴンのドーマじゃないか。その後どう? 元気?」
『はい! 魔王の支配から解き放たれて、のびのびとお宝集めてますわ!』
それは、巨大なレッドドラゴンである。
この山を越えようとすると、ドラゴンが襲ってくるというイベントがあった。
魔王マドレノースに操られた、このドーマが陣取っていたのだ。
その後、俺が彼とオハナシをした。
主に拳と魔法でオハナシした。
ぶっ飛ばしたら洗脳が解けたようで、ドーマは俺たちと和解。
彼が塞いでいた山道は通ることができるようになったのだ。
最も、山道から外れて山に登ると、ドーマの逆鱗に触れるがな。
レッドドラゴンは宝物を集める習性があり、これを奪われることを嫌う。
盗人となった人間たちは、大体焼き尽くされるか、レッドドラゴンの胃袋に収まったという。
ちなみに宝物の使いみちは、お腹の中に入れて食べ物をすりつぶすのに使ったりするそうだ。
「ちょっとお弁当終わったらすぐ通り過ぎるからさ」
『いやいやいや! ショートさんなら幾らいてもいいですよー。あ、そっちは奥さんです? ショートさん結婚しましたかー。奥さんのお腹から絶大な魔力反応を感じますねえ。こりゃ洒落になりませんわ』
「ショート、なんだか凄くフレンドリーなドラゴンさんだねえ……」
「俺にだけ腰低いんだよな彼」
『そりゃあ俺様のホームであるはずの空中戦でボッコボコにされましたからね……。二度と戦いたくない。ほら、あそこに岩山が砕けて、瓦礫が積み上がってるところあるでしょう。あれ、俺様が、巨大化したショートさんのハンマーブローを食らって落下して、岩山を爆散させたところ。いい感じで木が生えてきてて、新しい生態系が生まれつつありますわ』
「おおー。土地に歴史ありだなあ」
「凄いねえ」
その後、ドーマに案内されて岩山をあちこち観光し。
『お達者でー』
レッドドラゴンに見送られながら、俺たちは砂漠の国に向かうのであった。
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