第90話 終わりに近づく雨季と、乾季に向けての作業
カトリナのお腹が結構大きくなってきた気がする。
ということで、夜の方は控えめ、優しめである。
そのお陰か、俺のパワーが有り余っていた。
めちゃくちゃ早く目覚める俺。
カトリナは横で熟睡である。
起こさないようにそーっとベッドを抜け出し、着替える。
外の水瓶から必要なぶんの水を取り分けて顔を洗った後、図書館を覗きに行ってみた。
ブレインとパワースが寝ている。
二人とも仲良くやっているようだ。
日の登りきらない勇者村を散歩する俺。
畑の土などをいじってみると、なかなか仕上がっている。
この柔らかな大地。
雑草だって放っておくまい。
日々、草むしりをしているが、後から後から奴らは生えてくる。
それだけ肥沃な土になっているのだ。
「グフフフフ……これは作物の仕上がりが楽しみだぜ」
俺は悪そうな笑いを漏らした。
さて、ここで考えることがある。
俺が来たばかりの頃は、頻繁に水をやって作物を育てていた。
だが、もっとそれを楽にしたいと思うのだ。
そのためには、川の水を村の中まで引けばいい。
用水路を作るのだ。
村の中を水がぐるりと巡り、また川に帰っていくようにする。
ちなみに、用水路ができても勇者村では下水は採用しない。
シモの出るものは財産なのだ。
下水に流したら、クロロックが喉を膨らませて、クロクローと怒ることだろう。
「おや、ショートさん」
想像していた本人が出てきたので、めちゃくちゃびっくりした。
クロロックである。
「お、おう、おはようクロロック。早いな」
「ええ。こうして早朝の勇者村を毎日見回りしているのです」
「日課だったのか!」
「はい。ショートさんは珍しいですね」
「俺はな、なんとなくだ。なあクロロック、用水路を作ろうと思ったんだが」
ここでクロロックの目がヌラリと輝いた。
「もしや、し尿を流してしまおうというのはありませんか」
「大丈夫だ。シモのものは全部資源だから残す」
「素晴らしい」
クロロックが満足げに、クロクローと喉を鳴らした。
想像通りの反応である。
このカエルの人は、大変感情豊かだからな。
俺とクロロックは固い握手を交わし、今日から始める用水路計画について話し合った。
二人でクロロックの家まで行き、ここから取水すべきか、いやここがいいと論を交わす。
「ショートさんの意見では、確かに近いところから水を取り入れられますが、土地の勾配があります。それを利用する意味で、ワタシの家の近くから水路を作るほうが良いでしょう」
「なるほどー」
「作業はいつもどおり、人数を使ってやりますか?」
「そうだな。道筋は魔法で一瞬でつけるが、細かい仕上げは人力じゃないと無理だ。魔法だと、そんな隅々まで意識が行き届かないからな」
魔法によって工作作業を行う時、行使する人間がそれに対する専門的知識を持っているほど、仕上がりの精度が上がる。
俺はもちろん素人である。
それに、いかな職人と言えど、水路の隅々まで意識を張り巡らせることは至難であろう。
ユイーツ神だって難しい。
かくも自然はフクザツで玄妙なのだ。
大体の計画を立て終わったので、水路の予定図をクロロックが書き始めた。
俺は……せっかく早起きしたので、村人の朝食を用意する。
パンを焼くのである。
最近、手前村でイースト菌っぽいものを手に入れた。
こいつを絶やさないようにして、倉庫で育てている。
イーストをちょいと入れて一時間発酵させて……。
いい感じに膨らんだところをガッと焼く。
パンの焼けるいい匂いが村中に漂い始めた。
あちこちで、みんなが起き出してくる気配がする。
ちなみに横に、パンの種をそのまま丸めたものがある。
クロロックの朝ごはんである。
完成したのは、ピタパンだ。
丸くて大きいのを、ちょうどいい大きさに切る。
すると中身が空洞なのでしおしおーっとなった。
塩漬けにしてあったイノシシ肉を軽く炙り、食卓に並べる。
うむ。
「おはよーショート。今朝は早いねえ……うわー」
起き出してきたカトリナが、すっかり用意されている朝食を見て目を丸くした。
「ショートが用意してくれたの?」
「うむ。クロロックと仕事の話をしてたらやる気になってきてな……!」
次々に現れる、村の住人たち。
焼きたてのパンの香りは、彼らの目をさます抜群の効果があったようだ。
全員揃って、ピタパンにイノシシ肉のハムみたいなのを挟んで食う。
大変うまい。
横でクロロックが、そのままパンの種を飲んだ。
クロクローとか満足げに唸っている。
あれで食事を楽しんでいるらしいので、カエルの人は奥深い。
「飯食いながら聞いてくれ。今日から新しい仕事をしたい」
一同の注目が集まる。
「あたしの男を探すの?」
「断じて違うぞ」
ヒロイナがアホなことを言うので切り捨てておく。
「乾季が来るだろ。畑への水やりを楽にするために用水路を作る。前の乾季は、ここまで畑がでかくなかったからな。だが、これからは用水路が必要になるだろう」
「おお、用水路か」
ブルストが嬉しそうに唸る。
「本格的じゃねえか……。まるで農村みたいになってきた」
「農村にならなきゃ開拓村なんてやってられないからなあ。ってことで、設計図はクロロックが書いた。俺がこの通りに掘る。みんなで、用水路をしっかりと固めていってくれ。仕上がったら水を通す」
回りから、めいめい了解の返事が聞こえる。
さあて、大仕事の始まりだ。
用水路が本格的に軌道に乗れば、いよいよ手を付けられるぞ。
米の生産に……!
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