第89話 勇者村に勇者パーティ揃う

 我が村にパワースが来たので、みんなに紹介することにした。


「みんな、紹介しよう! 勇者パーティ最後の一人、パワースだ」


「よ、よろしく頼む」


 パワースが会釈すると、住民たちからワッと拍手が巻き起こった。

 基本的に気のいい人々ばかりである。

 こんな金のにおいのしない辺境に、性根が卑しいやつはやってこないのだ。


「おうおう、勇者村も、本当に住人が増えたなあ……」


 ブルストが語り、嬉しそうに皆を見回す。

 そうだな、最初はブルストとカトリナの二人きりだったもんな。


 そこに俺が来て、クロロックが来て、ブレインにフックとミーが来て……。


「ホロホロー!」


「おお、悪い悪いトリマル! お前のことは忘れてないってば」


 なんか思考を読まれた気がするな。

 まあいいか、トリマルなら許す。


 久々に、息子みたいにかわいがっているホロロッホー鳥を抱き上げた。

 雨季のホロロッホー鳥は、湿気を発散するために羽がふわっと広がった形になる。

 乾季には、水分を溜め込むために小さくまとまるのだ。


 うーむ、しっとりふわふわ。


 おっと、トリマルをもふもふしている場合では無かったな。

 彼を抱っこしながら、俺はパワースの紹介を続ける。


「色々あったが、彼は女王の結婚式で恩赦が出て娑婆に戻ってきたのだ。行き場所がないようなのでうちに呼んだ。見ての通り、力仕事が得意だぞ。ばんばん仕事を教えてやってほしい」


 ブルストとフックが嬉しそうに返事をする。

 力仕事担当は重要だからな。


 これで、頭脳派男子と肉体派男子が拮抗したことになる。

 頭脳派は、クロロックとブレインとカタローグだな。


 全体的に大歓迎の勇者村だが、一人だけ苦虫を噛み潰したような顔をしているのがいる。

 そう、ヒロイナだね。


「ちょっとショート! なにパワース連れてきてんのよー!」


 空気を読める女ヒロイナ。

 集まりが終わった後、苦情を言ってきた。


「険悪な別れ方をした元カレと! 一緒の村に住むって、どんだけよ!」


「うっ、そ、それは」


 パワースが気圧されているな。

 俺はそれを他人事みたいに見ている。


「ショート! なにカトリナに淹れてもらったお茶飲みながらトリマルを頭に乗せてるのよ!」


「うむ。こうしていると不思議な安心感がな。トリマルもずっしり重くなってきたなあ」


「ホロホロー」


「真面目に話を聞けえ」


「へいへい。まあな、俺もパワースに対して思うところが無いでは無い。だが、彼の気持ちも分かるんだ。パワースが俺に嫌がらせっぽいことしたり、有る事無い事を宮廷で言いふらした理由は分かるだろ?」


 パワースがいたたまれない顔になる。

 めっちゃくちゃ後悔してるなこれは。


「嫉妬でしょ? あー、もうー、やあね、男の嫉妬は」


 ヒロイナが鼻で笑うと、パワースが床に崩れ落ちてのたうち回る。

 分かる、気持ちは分かるぞ。


「そこだ。嫉妬だ。だがな、ヒロイナ。君もあれだろ。カトリナをみてどう思う」


「うっ!!」


 茶を飲もうとしていたヒロイナの動きが止まる。

 その目が、チラチラっとカトリナを見た。


 カトリナは、ふんふん上機嫌で鼻歌を歌いつつ、村人たちの昼ごはんを作っているのである。


「俺が言うことじゃないが、カトリナはまあまあ全てを手に入れているな」


「ううっ!!」


「もうすぐ赤ちゃんも生まれる……。お腹がちょっと大きくなってきた」


「うううーっ!!」


 ヒロイナが苦しげに呻いた。


「や、やめろー! あたしの古傷を抉るんじゃないわよショート! ……そうねえ。あたしに嫉妬がないと言うと嘘になるわね……。むしろショートをすっぱり諦めて結婚したトラッピア陛下が見事だわ」


 ヒロイナが苦々しい顔をしてうんうんと頷く。

 俺としても彼女にダメージを与えるのは心苦しいのだが、パワースもヒロイナも、同じ穴のムジナではないかと思ったのである。


「人は生きてれば誰しも失敗はするもんだ。そこを責めても何も始まらないので、反省して次に活かすようにした方が生産的だ。せっかく魔王がいなくなって、世界を立て直す段階に入ってるんだし、こういう辺境の村からポジティブな事をやってくのも大事だと思うぞ」


「偉そうな事言うわねえ……。いや、魔王を倒した張本人がそういうこと言うから反論なんかできないんだけど」


「ということで、二人にはちょい負担を掛けるが、どうにか仲を改善していってくれ。親しくならなくてもいいんで、普通の隣人くらいにな」


「ううう……分かったわよ。一応、村としても男手が増えるのは歓迎でしょうし? あたしが我慢すれば済むんでしょ……。が、がんばるわ」


「偉い。今度可愛い系の修道士とか見つけて連れてきてやるからな」


「ほんと!?」


 ヒロイナがぐわっと迫ってきた。

 うおーっ、なんて鬼気迫る表情だ!!


 彼女が俺に急接近したので、カトリナが小走りでやって来た。


「そこまでー!」


「ウグワーッ!」


 カトリナの突っ張りをカウンターで食らったヒロイナが、ゴロゴロ転がって外に出ていった。


 うーむ、ヒロイナ、男に飢えておるな。


「いやあ……助かったぜショート。女ってのは一旦嫌いになると、生理的に駄目になるらしいからな。なんとかお前がとりなしてくれれば、俺もここに居やすくなる」


「そこら辺はな。相手の地位とか肩書ばかり重視してた昔のヒロイナにも責任の一端はあるわな。ってことで、喧嘩はしないようにな……。俺の仕事増やさないでね……」


「ああ、分かった。恩に着るぜ」


「じゃあ、パワースの住むところだが……」


 そこに現れる、勇者パーティの賢者ブレイン。


「私が引き受けましょう」


「おお、やってくれるかブレイン!!」


「図書館は広いですからね」


「ありがたい! よろしく頼むぜブレイン。お前なら安心だ……」


「ええ、よろしくお願いします。パワースなら魔本の魔力の中でも正気でいられるでしょうし」


 さらっと物騒な事を言うブレインなのである。

 まあ、あの図書館、ある種の魔界みたいなもんだからな。


 こうして、パワースの処遇は決定した。

 後は、成り行きでヒロイナと約束してしまった事だが……。


「ショート、絶対よ。絶対だからね……!! あたしは心を入れ替えた!! 地位も名誉も財力もいらないわ!! だってそれ、この村だと無意味だし。なので……顔だけ……顔だけはいい男をお願い!! あ、性格がいいともっといい……。変な醜聞起こさないような感じの……」


 戻ってきたヒロイナの、大変むずかしい要求である!

 新たな難問を抱えてしまったな……。


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