第88話 魔王教団、ふわっと壊滅
「あいつが首魁だ」
それっぽい、紫色のオーラを纏った青い肌の男がいる。
年齢は初老くらい。
羽織っぽいアーマーを着てるな。
「ほうほう。どう? いけそう?」
「ありゃあ、生き残りの魔将だな。お前に気付かれないように、ずっと王都の地下に潜んでやがったんだ」
俺とパワースのコンビで、魔王教団を探ること三日目。
ついに敵の本拠地を探り当てたのである。
いかにめいめい勝手に動いている集団とは言え、司令塔は絶対に必要になる。
これは近いところに、魔王教団の連中を統括している奴がいるだろうと睨んでいた俺なのだ。
魔王教団の首魁は、別に驚くべきことでもなんでもなく、普通に魔族だった。
この場合、人間が魔王に力を与えれて変異した存在ということね。
魔王マドレノースは、生まれからして魔族、と言う部下は一匹もいなかったのだ。
全員現地雇用だった。
俺が知ってる創作物の魔王って、魔界から手勢を連れてくるもんだけどなあ。
この世界の魔王は星の外から来るから、そもそも手勢を連れてこれないんだろうな。
「よーし、ちょっとカトリナに頼んで席外すから、ここからパワースと同調するわ」
「そんな事できるのかお前」
「読心魔法の応用だな。俺の知識とスキルを送り込むぞ」
「なるほど、俺があの魔将を倒せってことか」
「頑張れ。魔将としては下位の相手だ。どうにか勝てると思うぞ。あと、魔法の掛かってない攻撃は魔族に通じないからな。ほい、フルエンチャント」
「うおおっ」
パワースを思いっきり強化しておいた。
彼がのしのしと向かっていくのが見える。
背後から操作するキャラクターが見えるFPSみたいな感じだな。
『き、貴様は勇者パーティの!? 地下に幽閉されていたと聞いたぞ!』
「詳しいな! 恩赦で出てきたのさ!」
『おのれ! しかしたかが戦士でしか無い貴様が、魔将としての力を持つ俺には勝てまい! 死ねえ!』
「させるか! うおおーっ!!」
戦いが始まった。
パワースと同調した俺。
つまり。
「フルエンチャント魔法、コントローラ(俺命名)発動!」
俺の手の中に、光り輝くゲームパッドが出現する。
これでパワースをコントロールするのだ!
「緊急回避!」
魔将の攻撃を避ける。
「カウンターだ!」
パワースの体が動き、魔法が掛かったダガーを放った。
魔将は己の動きを利用されて、ダガーに自ら刺さりに行ってしまう。
『ウグワーッ!! ま、魔法のダガーだと!? 貴様、まさか魔法を!』
「ふっ、俺だけじゃない。勇者が俺に力を貸し与えていてな!」
『なにぃっ!? 勇者!? そ、そんな話は聞いていない!!』
魔将が真っ青になった。
『くそっ、わしは逃げるぞ!! 戦士め、貴様をここで殺してな! いけえ! 最大魔法、ジェノサイドバーン!!』
俺はここで、パッドのBボタンを押す。
これは、ボムである。
つまり、相手の攻撃を打ち消すボタンね。
『あっ、魔法が消えた!?』
「うおおおお!! 喰らえ魔将! 俺の攻撃を!」
斬りかかるパワース。
俺、パッドでコマンド入力をする。
すると、パワースが残像を纏って攻撃を開始した。
この残像にも当たり判定があるのだ。
ザクザクザクザクっと音がして、俺にだけ見える空中に、108HIT!と出る。
よしっ!
『ウグワーッ!』
大ダメージを受けて、魔将が吹き飛ばされる。
これは浮いた判定なので、ここから空中コンボが行ける。
「よし、行け、パワース!」
「俺の体を楽しげに操作するな……! うおおおおお!!」
壁を蹴ってジャンプしたパワースが、空中で魔将を斬る。ざくざく斬る。
『ウグワッウグワッウグワーッ!!』
この魔法、敵のHPが見えないからなあ。
効いてる?
効いてるよね?
空中コンボから、地面に叩き落される魔将。
大地を砕きながら、バウンドした。
このバウンドに空中コンボが……。
『そ、そんな……ここまで生き残ったのに!! こ、こんなところで死ぬのは嫌だあああああ!! ウグワーッ!!』
「あっ、死んだ!!」
ピチューン!と効果音が聞こえて、魔将が消滅した。
YOU WIN! PERFECT!
俺にだけ見える表示が出てくる。
「終わってしまった……。まあ、いいか。パワースがダメージを受けずに済んだな」
俺の言葉を聞いて、パワースが振り返った。
滝のような汗をかいている。
「あれなあ、俺じゃなければ死ぬぞ。人間じゃねえ動きだ。お前しかできないだろ、こんなの」
「あ、分かる? 実はさ、魔族に復讐を誓ってた男に復讐を遂げさせるために、ユイーツ神と協力して突貫で作ったんだよな。男は魔族に復讐はしたけど、普通に爆散して死んだからなあ……。復活はさせておいた」
「おい……おい……!」
「パワースの強さなら大丈夫だろ。よし、これで仕事終わりだ!」
俺は大きく伸びをした。
「本当に恐ろしい男だな……。やはり、あの強大な魔王を倒すためには、自身も魔王と並ぶ化け物にならねばならんのか」
「力があるというのも、これはこれでままならんもんだぞ。力には責任がめっちゃくちゃ伴うからな」
「そんなもんか?」
「そんなもんだ。力への責任を負わない奴を魔王って言うんだよ」
俺の言葉に、パワースは納得したようだった。
「敵わんな。嫉妬してた俺がバカみたいだ。お前を引きずり下ろすなんて、やれるわけがなかったのにな」
「嫉妬ですかな」
「ああ、そうだそうだ! 俺はな、強くて、回りから勇者勇者ともてはやされるお前が妬ましかったんだ。あのままだと、ヒロイナまでお前に取られそうだったからな。……まあ、結局何もかも失っちまった。俺はまさしくバカだな」
「そうか。だけど今はそこまでマイナスな感情を持ってないんだろ?」
「……俺も、反省くらいはする」
「王都だと、もう居場所も無いだろ。うちに来い」
パワースが目を見開いた。
「正気か?」
「過去にやったことはクソだが、まあ、それはそれだ。お前は罰を受けたし、反省もした! だったら、後ろめたいことは何も無いだろ。勇者村は戦士パワースを歓迎するぞ」
「そうか」
それだけ言って、パワースが黙り込んだ。
なんか背中を向けてくる。
突っ込まないでおいてやろう。
だが、こっちにも時間がないな。
「ショートー! そろそろ終わった?」
カトリナが呼びに来てしまった!
「すまんなパワース! 速攻でお取り寄せする!」
「なにっ!? うおっ、俺の襟首を……ウグワーッ!?」
勇者村まで、直でパワースを取り寄せた。
彼の大柄な体が、ズデーンっと床に転がる。
「う、うおお……おま……お前なあ……」
呻くパワース。
俺は、彼の横にしゃがみこんで肩を叩いた。
「勇者村にようこそ、パワース!」
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