第86話 パワース恩赦!

「そう言えば、王都でいろいろ動いてもらうには強いやつがいたな」


 俺のつぶやきに、ブレインが頷く。


「ええ。パワースならば適任でしょう」


 戦士パワース。

 勇者パーティの一員であり、あのムリゲーな冒険を戦士として駆け抜けて生き残った男である。

 何か俺の悪い噂を流し、それが女王の逆鱗に触れたりして地下牢にぶちこまれているが、実力は確かだ。


「そろそろ、パワースに会いに行くか。あいつもなんで俺の悪い噂を広めたのか分からんしな」


「ははあ、まだショートは分かりませんか」


 フフフ、と笑うブレイン。

 知っているのかブレイン!


「ここは本人に聞いてみるのが一番いいでしょうね」


「地下牢にいるだろ? 会いに行くのは簡単だがな」


「いえいえ、そろそろ外に出ているはずですよ」


 どういうことであろうか。

 ブレインのアドバイスを受けた俺は、行動に移すことにしたのである。


 翌朝。

 カトリナが起きてきて、真っ先に俺に謝った。


「ご、ごめんなさーい!! 全部やってもらっちゃってー! 私、すっごく気持ちよく寝ちゃってたー!」


「いいのだいいのだ。気にしないでいいのだ。いつもカトリナは頑張ってるんだから、一日くらいのんびりしてもいい」


「そう? ありがとう、ショート!」


 朝から強烈なハグとかキスをもらって、活力が全身に漲るぞ。

 朝飯を食ったら、早速パワースに会いに行くことにした。


 朝の空気を堪能すべく、空を飛んで王都に来た。

 上空から眺めると、昨夜の宴の後か、城下町もどこか浮かれた空気が残っているようである。


 あちこちに屋台が出たり、店が軒先を開けて営業したりして、お祭り騒ぎだったのだなあ。

 未だに道端で寝ている酔っぱらいなどがいる。


 さてさて。

 王城の前に降り立つ俺。

 兵士たちが敬礼した。


「勇者ショート、ようこそ!!」


「本日はどうされたのですか!」


「パワースに会いに来た。戦士パワースだ。地下牢にいるんだろ?」


「あ、本来はそうだったんですが、地下牢の受刑者たちは皆、強制労働をやっておりまして。それも恩赦が出て今日で晴れて自由の身に」


「あ、なーるほど!」


 女王の結婚で恩赦が出ていたのだ。

 強制労働が行われている場所はよく知っている。


 王国の裏にある鉱山だ。

 そこにバビュンと飛んでいった。


 スタッと降り立つ。


「ああーん? なんだぁ~?」


 身長3mくらいありそうな太いマッチョで髭面の男が、鎖付きバトルアックスをぶら下げながら俺を睨む。


「なんだではない。俺だ」


「あっ、ショ、ショートさん!!」


 大男はすぐにヘコヘコしだした。


「久しぶりだな、チベタン獄長」


「はい! あの時はお世話になりました!」


 チベタン獄長は、王都に根を張っていた魔将、ドルモット・タクランデルーによって、愛する妻と娘を人質に取られ、スパイ活動を強制されていたのだ。

 俺は彼の助けを求める内心の声を聞き、家族を助け出した。


 それ以降、チベタン獄長は俺の大ファンになっている。


「今日はどうしたんですかい、こんな地獄の一丁目に」


「ああ。ここで昨日まで働いてた奴ら、恩赦を受けたんだろ? どこに行ったか知ってるか?」


「それなら、めいめいに山を降りてるはずですよ。俺も晴れて、鉱山への単身赴任が終わりでさあ。愛する妻と娘に会いに行けるぜえ」


「おう、そうかそうか。じゃあ俺が麓まで運んでやるぞ。昼前には家に帰れるだろ」


「本当ですかい!? よろしくお願いしますぜショートさん!!」


 俺はチベタン獄長をヒョイッと抱き上げ、そのまま麓まで運んでいった。

 獄長は礼を言いながら去っていく。

 ああ見えて、愛妻家で子煩悩なのだ。


 さて、あとはここで、降りてくる奴らを待つばかり。

 ぞろぞろと人が降りてくるぞ。


 おや?

 あの髪もヒゲも真っ白になってやつれてるのは、ザマアサレ一世では。

 トラッピア、自分の親でも容赦なく強制労働させてたのか。


 そして最後に降りてくる奴がいる。

 そいつは俺を見て、「げっ」と言った。


「久しいな、パワース」


「な……何をしにきやがった、ショート!! ま、まさか俺の裏切りに気付いて、この首を取りに……」


「そんなもんに興味はない」

 

 パワースは、髪を短く刈られ、髭面になっている大柄な男だった。

 灰色の髪と目の色は変わっていない。

 筋骨隆々な体型も変化してないな。地下牢で鍛えてたんだろう。


「まずは恩赦おめでとう、パワース」


「お、おう……。くそ、相変わらず腹の中が全く読めねえ野郎だ……」


 パワースが冷や汗を浮かべている。


「お前のことだから気付いてるんだろうが。俺が特戦隊を焚き付けてお前を襲わせたこと」


「うむ、その件ならとっくに解決している。今では、特戦隊もたまにうちの村に遊びに来る仲だし、トラッピアともども、俺の結婚式に参列したぞ。ちなみに司祭がヒロイナな」


「……ちょっと待て。今情報の洪水が襲ってきて何も分からなくなった。今、なんて?」


「特戦隊がうちに遊びに来る」


「そのちょっと後」


「俺の結婚式?」


「は? 結婚したのか、お前!? しかも、その、相手はヒロイナじゃない……?」


「ヒロイナとくっついたのお前だろパワース」


 俺は心底呆れた顔をした。

 故に、俺は俺の幸せを求めて、見つけて、ゲットしたのだ。


「うおおおおお……!! 俺がヒロイナを奪ったのは……無駄だったのかああああ」


 パワースは、がっくりと崩れ落ちた。

 地面をどんどん叩いて泣いている。


「もしかして俺へのあてつけのつもりでヒロイナ口説いたの?」


「いや、ずっとパーティにいたし、結構好きだった」


「じゃあそれでいいじゃないか。まあ、もうヒロイナはパワースはないわーって言ってたけどな」


「……あいつ、上昇志向強かったからな……」


「だが田舎村の司祭に収まって、これ以上の上昇はない」


「しかもショートが結婚したんだろ? その司祭やらせたんだろ? なんて恐ろしいことさせるんだお前は」


 パワースが戦慄している。

 勝手に怯えるな。


「ま、それはそうとしてな。俺はお前に依頼に来た」


「……依頼? そりゃあ、何だ」


「魔王教団が動いてる。大したことは無いが、あちこちに潜伏してて虱潰しにするのが面倒くさい。お前、こういうのを内側から破壊するの得意だろ」


 このパワースという男、陽キャである。

 コミュ強であり、あらゆる場所に当たり前みたいな顔をして入り込み、友達を作れる。

 そして、信頼を得た上で内部から工作をするのが上手かったりするのだ。


 戦士というか、盗賊みたいな能力だな。 

 それでも、俺を除けばワールディアで一、二を争う実力の戦士なんだがな。


「魔王教団か……」


 パワースが渋い顔をした。


「あ、もしかしてお前、魔王教団と絡みがあったな?」


「ああ。お前を蹴落とすためにな。だけど無理だった。つうか、お前は自分で自分の居場所を作って、周りに認めさせてるみたいじゃねえか。そんなんどうしようもねえよ」


 どうしてこいつは、俺にここまでこだわるんだろうな?

 よく分からん。


「とりあえずパワース、顔見知りなら話が早い。潜入して魔王教団の連中をあぶり出してくれ。残ってると色々面倒だからな」


「分かった。今の俺に、お前の依頼を断る選択肢はねえよ。やってやらあ」


 俺とパワース、久々の共同戦線である。



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