第82話 式後のパーティのこと
多忙なはずのトラッピアやハナメデル、そして特戦隊がどうしてここにいるか。
先日エンサーツで試した、コルセンターのお取り寄せ機能を利用したのである。
王都にいる人間をわざわざ呼ぶ必要もなかったので、今まで使わなかっただけだ。
しかしこれは、なかなか便利だな。
俺の魔力を持ってすれば、全員を送り返すのもお手の物である。
なので、こっちに来た王都側の参列者は、式後の会食を大いに楽しんでから帰るつもりのようだった。
「やや、式は滞りなく進まれたようで」
魔本目録のカタローグが挨拶してきた。
「おう、良かったぞ。カタローグは来なかったのか」
「はい。どうもショート様の他に、強大な魔力を持つ神的な存在が確認できまして。あまりに強い魔力に長時間晒されますと、我ら魔本は上書きされる可能性があります」
「そんな弱点が!」
初めて知った。
「ちなみに、ショート様は主になられたので、大丈夫です。むしろ積極的に上書きするつもりで接していただけると」
「そんなものか」
魔本の習性とでも言うものなのか。不思議だ。
気がつけば、魔本も数冊、ふわふわ浮かびながらパーティ会場(屋外)を飛んでいるな。
ちなみに。
式の最中にスコールされては困るので、俺の天気操作魔法ハレルーヤ(俺命名)で勇者村周辺だけを強制的にコントロールしている。
毎日やればスコールなど防げるのだが、自然現象をこちらで抑制すると、いつとんでもない副作用があるかも知れん。
最低限の使用に留めるべき魔法である。
「う、うめえっ!! まさかこれ、牛肉か!?」
「美味しいーっ!! 牛肉が食えるなんて思ってなかったよお」
牛はお高い。
家一軒くらいする。
それをバラして食うなんてのは、超高級料理なのだ。
ブルストとパメラが、感激しながら塊肉を手づかみで食べている。
勇者村には、大雑把なナイフと大雑把なフォークと、大雑把な匙しかない。
あのでかさの肉は、食事用ではなくて狩り用のナイフで刻んで手づかみだな。
子ども用の肉は小さく刻んでいる。
リタとピアが、もりもりと食べているな。
そうそう、この世界だが、割と手づかみで食うことが多いのだ。
フォークの精度が地球よりも低いし、硬度も脆い。
ものによっては体にあまり良くない金属を使ったりしている。
なので、基本は木製の匙とナイフで食べる。
他は手づかみか、あとは金属製の串を使う。
串はそれなりに楽に作れるからな。
ということで、俺たちの今までの食事では、串が多用されていた。
「ショート、何を難しい顔をしてぶつぶつ言ってるの?」
「あ、いや、なんかブルストたちの豪快な食事を見てたらな」
「あー、二人とも、美味しそうに食べるもんねえ」
そう仰るカトリナさん、串にでかい肉の塊が三つぶら下がっている。
狩猟用ナイフでざくざく切り取ってきたのだろう。
これを、ドレスにつかないように上手に食べる。
「ドレスは脱いだほうがいいんじゃないか?」
「うふふ、まだちょっとだけお姫様気分でいたいの。このドレス、たくさん食べてもお腹がつっかえないし」
食欲とお姫様欲の両立か!
欲張りな嫁である。
だがそこがいい。
俺も肉をもりもり食った。
捌きたての肉をアイテムボクースで保存したものだが、もうちょっと熟成させても良かったかな?
だが、新鮮な肉もこれはこれで美味い。
焼き加減は肉焼き魔法ジュウジュウ(俺命名)で適切な状態にしている。
デッドエンドインフェルノ開発中に生まれた、副次的な魔法群の一つだ。
トラッピアはあまり食べると体型が変わってしまうとかで、悔しそうな顔をしながら肉を睨んでいた。
ドレスは体型にぴっちり合わせて作られるからな。
大変すぎる。
「ではトラッピアにはいい肉を切り分けてやろう……。これがサーロインだ。柔らかくて甘くて満足感が凄いぞ……」
俺が差し出した肉を見て、トラッピアがごくりと唾を飲み込んだ。
王族なので牛なんかよく食べてそうだが、毒殺の危険に備えるため、多くの毒見役を経てから口にするので、焼きたての肉なんかほとんど食べたことがないらしい。
サーロインのサイコロステーキを口に含んだトラッピア。
目を閉じ、夢見心地で肉を噛んでいる。
「んんー……!!」
「トラッピアが幸せそう。僕もいただいていいかい?」
「いいぞ!」
ハナメデルも、サーロインを食った。
そして、「あ、これは美味しいなあ」と微笑む。
女王と王配は、自分たちぶんのサーロインを確保すると、落ち着いたようである。
「結婚おめでとう、ショート。まさか子どもができているとは思わなかったわ」
落ち着いた感じで、トラッピアから祝辞をもらった。
「ありがとう。俺もとても驚き、なおかつ大変嬉しい」
「もふぁ」
ちょうど口に食べ物を含んでいたカトリナが、何か言おうとした。
しかしもぐもぐやっているので何も言えない。
「食べてからでいいから」
「もふ」
実はカトリナには、希少部位であるカイノミをあげていたのだ。
ふふふ、この美味しい部位を食べるのを止めることはできまい。
たくさん食べる君が好き。
「勇者ショートが選んだのが、女王であるわたしではなく、あっちで酒を飲みながら管を巻いているパーティ仲間の女司祭でもなく、市井のごく普通の娘だった、というのに、世間は驚いているわね」
「そうなのか? 俺はずーっと勇者村で暮らしてるから、世の中の噂は分からんな」
「ショートとカトリナの存在を機に、世の中では異種族に対する偏見が減っていっているわ。世界を救った勇者が、異種族の娘を娶ったのに、まだ彼らを魔王の仲間だと見る自分たちは勇者よりも偉いのか? だそうよ」
「ははあ。それはあれだろ。俺がオハナシしてきた新聞社の新聞?」
「そう」
俺とトラッピアで笑い合う。
なるほど、上手く働けば、彼らもいい仕事をするものだ。
「教えて。彼女の前で聞くことじゃないかもだけど、どうしてカトリナだったの?」
「も!?」
トラッピアの質問に、食べてる途中だったカトリナが目を見開いた。
しかし、まだ口はもぐもぐしている。
彼女の食事を邪魔するのも悪いので、俺はさっさと答えることにした。即答だ。
「そりゃあ簡単だ。カトリナはな、俺が勇者じゃないただのショートでも、好きになってくれる女だからだ」
「うぐぅ」
トラッピアはこれを聞いて、喉の奥からうめき声を漏らした。
「そ……それは勝てない」
敗北宣言だ!
「立場や業績が関係ない、本質的な愛情だよね。ショートは素敵な女性を選んだと思う。改めておめでとう」
ハナメデルが屈託のない笑顔を浮かべた。
うむうむ、ありがたいことだ。
口にしてみて再確認したな。
俺の選択に間違いはなかった!
ここでようやくカトリナが食べ終わった。
カイノミを刺していた串が、スッキリ何も刺さっていなくなっている。
カトリナが真っ赤になりながら、じーっと俺を見て、
「んもー! 私がなんにも言えない時に、凄いこと言うー! 二人きりの時に言ってー!」
俺をポカポカ叩いてきた。
「わっはっは、痛い痛い。なかなかいいパンチだぞ! わっはっは!」
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カトリナの愛のあるポカポカは、打撃力的にヘビー級ボクサーのジャブに匹敵するぞ
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