第81話 勇者村の結婚式
今回は余計な御託はいらないだろう。
結婚式である。
俺が知ってる地球の教会で行う結婚式は、新郎と新婦が別々に入場してたし、新婦はその親が付き添っていたな。
だが、ワールディアのユイーツ神方式は違う。
いきなり入り口から新郎と新婦が入場するのである。
バーン!!
と扉が開いた。
礼服姿の俺と、ドレス姿のカトリナがいる。
参列者がわーっと盛り上がった。
「うおおー! カトリナ、きれいだ! きれいだぞーっ!」
ブルストがもう泣いている。
パメラがじーっとカトリナのドレスを見て、口だけで「いいなあ」と呟いていた。
次は君がやるかね……。
本日の参列者は、ブルスト、パメラ、フック、ミー、ビン、ブレイン、クロロック、エンサーツ、トラッピア、ハナメデル、特戦隊一同、手前村代表団。
思ったよりもたくさんの人になった!
トラッピアが、何やら真剣な目で儀式の進行を見ている。
脳内で、半月後の挙式をシミュレートしているのだろう。
特戦隊と、手前村代表団がバンバン花びらをばらまく。
みんな、やんややんやと盛り上がり、打楽器を叩いたりしている。
そう。
ユイーツ神式の結婚式は、めっちゃくちゃ賑やかなのだ!
一見すると地球のそれに近い教会は、花飾りでいっぱいになり、カラフルなことこの上ない。
花の咲かない季節なら、色とりどりの布を飾る。
今のユイーツ神は豊穣神だし、昔のユイーツ神は様々な神の複合体だったので、あらゆる教えの形式をごちゃごちゃに混ぜた結果、凄まじく賑やかな結婚式が生まれたということだろう。
これはこれで、本当にお祭りみたいで楽しいな。
静かな中で、汝富める時も病める時も……みたいなのはムズムズしていかんな。
おお、そう言えば、俺の親にも結婚したぞって報告はしておきたいな。
だがいかんせん、世界を超えることだけは俺にはできなかった。
これ、恐らく相性の問題だと思うんだよな。
俺はこっちの世界を縦横無尽に駆け回ることができる。
どうやら、こっちと俺の相性は抜群だったらしい。
で、こっちはワールディアだけじゃなく、星の外にエーテルで満たされた宇宙が広がっている。
その気になれば、俺はそこまで飛び出して、どこまでも行けるだろう。
だが、地球は違う。
俺はそっちでは凡人だった。
いや、今の俺があっちに行けたらどうなる?
まあいいか。
俺はある魔法の準備をした。
人生の転機とか、記念することがあるたびに使ってる魔法だ。
まあ、俺の自己満足だな。
「ショート!」
カトリナが囁いて、俺の脇腹をつついた。
「おっとっと」
目の前に、仏頂面のヒロイナがいる。
両脇には、花びらで満たされた籠を持った、侍祭のリタとピア。
「こほん! ええ、参列者の皆さん、お静かに……お静かに……」
ヒロイナが気取った声を出す。
だが、そんなもんはわいわいと騒ぐ参列者に届くわけがない。
すぐにヒロイナがキレた。
「ええい黙れお前らあああああ!! 黙れーっ!!」
流石に会場が静かになった。
「こほん。し……新郎ショート」
「おっす」
「あなたはいかなる苦難の時も、妻、カトリナを愛することを誓いますか?」
「もちろんだ」
俺は即答する。
カトリナが目をうるうるさせ、ヒロイナが聖典を持つ手をぷるぷるさせる。
「新婦カトリナ。あなたはいかなる苦難の時も、夫、ショートを愛することを誓いますか?」
「はい! 誓います! ずーっと私たちは一緒です!!」
うおーっと会場が沸く。
「で、では!! 二人は、誓いのキスをしなさい! キス! やれ!!」
「おっす」
俺はカトリナを抱き寄せた。
近づく彼女の目が、ギュッと閉じられる。
ってことで、俺と彼女はキスをした。
「これで! ショートとカトリナの二人は、神に祝福された夫婦となりました! はい、おめでとうおめでとう!! 神も照覧あれ!」
いつの間にか、会場に隅にピカピカ光る参列者がいて、スタンディングオベーションをしていた。
ユイーツ神が本当に祝福してるな。
「おめでとうー!」
「おめでとうございまあす!」
リタとピアが、花びらをばんばんばらまく。
そして、二人が俺たちを先導していく。
教会の扉まで、花びらの道を作るのだ。
ここを、新郎と新婦が歩いていく。
「うおおおおん、カトリナ、カトリナ、良かったー!」
ブルスト男泣きである。
「想像以上にいい式じゃねえか。いい嫁さんもらったなあショート!」
エンサーツは俺の親父面してるんじゃないぞ。
「あぶぶ、あばばー!」
ビンが舞い散る花びらに手を伸ばして、ぶんぶん振っている。
いつの間にかトリマルファミリーもいて、ホロホロ―っと高らかに鳴いた。
常日頃ならば大混乱の有様。
だが、ユイーツ神式の結婚式なら、正しい盛り上がりというやつだ。
かくして扉の前。
二人で手をつないで一歩、外へと踏み出す。
これにて、結婚式は成立した。
ユイーツ神教の教義に則っても、俺とカトリナは正式な夫婦というわけだ。
ちなみに、フックとミーは略式で、ヒロイナに祝福してもらっていたそうだ。
「あれはちょっと、照れくさい」
「でもちょっと憧れるよね」
などと言っていた。
なんなら、ブルストとパメラ、フックとミーで合同でやってもいいな!
おっと、忘れるところだった。
俺は今の盛り上がりと、手をつないだ俺とカトリナの写真を、記録魔法ウツシトールに刻む。
そしてこの画像を、オリジナル魔法、ユーガッタメール(俺命名)で遠いどこかに送った。
まあ、どこに届くとも知れない魔法だ。
俺の自己満足に過ぎないだろう。
「どうしたの、ショート?」
「なに、大したことじゃない。うし、じゃあ式も終わったし、これから肉を焼いて豪勢に食うか!」
式は終わったが、宴会はこれからである。
※
メールが一件届いている。
時々届く、兄の名前がついたメールだ。
最初はイタズラかと思っていたが、添付されている見たこともない形式のファイルには、いつも兄の姿があった。
「なんで開けるんだろうねえ、このファイル」
今度のファイルはなんだろう。
常にタイトルや本文は文字化けしていて読めない。
だから、画像で判断するしか無い。
四年前に行方不明になってから、このメールの中で、兄は元気に過ごしていた。
いや、しばらくはブラック企業か、みたいな職場で、ひいひい言ってたみたいだけど。
でも、ここ一年くらいは、とても幸せそうな写真が届く。
隣にいつも、角の生えた女の子がいた。
ファイルを開いて、思わず目を見開く。
そこには、カチッと礼服を着こなした兄と、可愛らしいドレスを着た、あの角の生えた女の子がいる。
「ちょっと、お父さん、お母さん! ショートくんからまたメール来た! ショートくん、結婚してる!!」
「な、なんだと!!」
「本当!?」
二人が走ってくる足音が聞こえた。
なーるほど。
私は思う。
兄は、どこだかは分からないけど。
向こうで楽しくやってるらしい。
─────────
まるで最終回みたいだが、全然最終回ではないのじゃよ
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