第72話 ドレスアップ・カトリナ?

「ドレス!?」


 俺の話を聞いたカトリナが、目を見開いて固まった。

 手にしていた鍋が、落っこちそうになる。


「ぬおーっ! 念動魔法いけええーっ!」


 俺の念動魔法が炸裂し、悲劇は免れた。


「ド、ドレス……!! 私がドレス……!?」


 未だに正気に戻らず、わなわなと震えるカトリナ。


「ああ。女王の婚礼の儀だからな。勇者とその妻も是非参列して欲しいと言われてな」


 ほぼ強制みたいな勢いだったが。

 なんか、俺はどうやら世界で最重要ランクのVIP扱いらしい。


「やっぱ、そういうパーティは女の子が華だろ。カトリナもバシッとドレスで決めないとな」


「ふおおおおお」


 カトリナが正気にならない。

 こんな衝撃を受けてるのは、夫婦になった夜以来では?


「ドレスなんか、着るどころか触ったこともない……」


 おお、プルプル震えている。

 元々難民だったカトリナだからな。

 それに、物心ついてからはずっと魔王のせいで、世界はそれどころではなかっただろうし。


「カトリナのためにオーダーメイドで誂えてくれるそうなので、後で王都に行こう」


「ひえええ、そ、そんなお姫様みたいな」


「俺たちの知り合いが姫どころか女王じゃないか」


 これを聞いていたヒロイナがとても羨ましそうな顔をしたが、こいつも王都にいれば今頃招かれていたのではあるまいか。


「ふ、ふん、せいぜい楽しんでくることね! あたしはこっちで気楽にやってるから!」


「パーティに行ったら、お料理残ったの包んでもらってくるね」


「ほんと? 楽しみにしてる……」


 カトリナとヒロイナが微笑ましい会話をしていている。

 随分ヒロイナからも毒気が抜けたものだ。


 侍祭のリタとピアもやって来て、きゃあきゃあ話を始める。


「ドレス着たら見せてね!」


「うちもカトリナさんのドレス見たいな!」


 盛り上がっている。

 パメラはこういう話に加わるのは照れくさいようで、遠巻きに眺めているばかりだ。


「では、行ってくる。シュンッで移動できるように、セーブポイントを途中に設けてきたからな」


 カトリナに手を出しだす。


「よし、お姫様、お手をどうぞ」


 カトリナがぽかーんとした。

 少ししてから、周囲をきょろきょろする。

 ヒロイナ、リタ、ピアが一斉にカトリナを指差す。


「わ、私かあーー!」


「いかん、カトリナには馴染みのないやり取り過ぎたか……」


「いきなりお姫様なんて呼ばれてものすごくびっくりした……」


「しかし気持ち的にはお姫様という気分で行くべきだろう。オーダーメイドドレスだぞ。貴族の令嬢や大商人の娘でもないと手に入らないものだ」


「ショートはその気になれば幾らでも用立てられたんじゃないの?」


 そこはヒロイナの言う通り。

 だが、勇者村に必要無いでしょ、ドレス。


「ドレスで野良仕事はできんだろう……」


「確かにそうねえ。肥溜めとかあるし……うっぷ」


 まだ肥溜めがダメなのか。


 カトリナがずっともじもじしているので、もうノリで連れて行ってしまうことにした。

 彼女の手を取ると、そのまま瞬間移動することにした。


「よし、行くぞ! ほい、くっついて!」


「はいっ!」


 ということで。

 目を開けたら、王都である。


 トラッピアが口を利いてくれた、王都一の仕立て屋に行く。

 俺が現れると、仕立て屋連中はハッとした。


「勇者ショートだ……!」


「本当に来るなんて……」


「素敵……」


「隣のオーガは?」


「勇者ショートの奥方だそうだ」


「な、なんだってーっ!?」


 俺は腕組みをして、スーッと彼らの中に分け入っていった。


「ヒェッ、勇者ショートが床を滑るような動きで!!」


「腕組みしながらちょっとだけ浮いてる!!」


 俺が彼らをぐるりと回って睥睨すると、みんな静かになった。


「種族に貴賎は無いのだ……。そもそも俺が人間からパートナーを選ばなかった時点で、察してもらいたい」


「は、ははあ……!!」


「失礼なことを口に致しました……!!」


 みんなかしこまる。

 うむ、気配りのできる人々だ。


 かくして、カトリナが店の奥に連れて行かれ、女性陣に採寸されている。

 その間、俺は茶を飲みながら待つのだった。


 しばらくして、カトリナと仕立て屋の女性陣が戻ってきた。


「ショート様。奥方様ですが、そのー」


「通常の採寸では、ウエスト周りが」


「コルセットの拘束力では、カトリナ様の腹筋に負けます」


「あー、そういう事があるのか……!」


 ドレスはコルセットを使い、ウエスト周りを締め付けてキレイに見せるものだ。

 だが、カトリナの持つオーガなパワーはとんでもなくて、人間のコルセットは通用しないらしい。

 それに、彼女のわがままボディは通常のドレスでは合わないらしい。


「出るとこズドンと出て、引っ込むところは筋肉でキュッと引き締まってるからな……」


「もう、ショートったら!」


 ばちんばちん叩かれる。

 ははは、照れ隠しか、可愛いやつめ。


「じゃあ、体型を隠す感じのドレスで頼む」


「というと……お腹に赤ちゃんがいるご婦人用のドレスがいいかも知れませんな」


「そんなものが!!」


「赤ちゃんいないんだけど……!」


 カトリナはちょっと赤くなっている。

 しかし、ちょっとゆったりしたタイプのドレスは良かろう。


 胸のすぐ下からスカートが始まるので、ウエスト周りが見えないタイプなのだ。


 この時、白は王族の色なので、差し色以外では使用禁止。

 ただ、俺が勇者ということで特例があり、使ってもいい色が増えるらしい。


 めんどくさいしきたりだな。

 その色は、金。

 本来は公爵家にしか許されていない色らしいが……。


 金かあ……。

 カトリナに金……?


「うん?」


 じーっと見てたら、カトリナが気付いて首を傾げてきた。

 うーむ、可愛い。


「金色はいらないので、まあそれっぽい色で頼む。カトリナなら、青と白でどうかな」


「ははあ、それは伯爵家の色ですな。それでいいならば」


 ということで、青と白でドレスを作ってもらうことになった。

 完成は翌週。

 楽しみに待つとしよう。


「ドキドキする……。あのねショート。お腹周りとか測られて、女の人たちが私のお腹をぺたぺた触って、なんだかうっとりするの」


「うーむ、仕立て屋の女性たちを虜にするカトリナの腹筋……!」



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