第71話 女王の婚礼日時

 綿花の収穫が終わった。

 こいつを糸にせねばならない。

 だが、我が勇者村には紡績機械が無いため、綿花を糸にできないのだ。


 紡績機械っていうのは、つまり機織り機。

 鶴の恩返しで使ってたような、あれね。


「機械があれば私ができますよ」


 ブレインが凄いことを言った。


「なんでもできるな!?」


 本当に便利屋である。

 そんな訳で、王都に紡績機械を注文に行った。


 雨季になると、畑仕事などが減るので俺も暇になりやすい。

 こういう時は、足を使って仕事を探すものだ。

 まあ、使ってるのは魔法だが。


 シュンッにてハジメーノ王国の王都に到着。


 なんか賑わってるなあ、と思いながら、俺はエンサーツに挨拶に行った。


「いよう」


「よう! いきなりだな! どうしたんだ」


「うちの村で綿花が収穫できてな。糸にしようと思ってるんだ」


「おお、つまり機械がいるんだな? あれは受注生産だから、今注文すると再来週くらいに完成するぞ」


「うむ、もっと早く来るべきだったよ……」


 俺が来たのを口実に、仕事を抜け出すエンサーツ。

 大通りの賑わいを横目に、紡績機械の注文をするのである。


「やたらと賑わってない?」


「気付いたか。実はな、トラッピア陛下とハナメデル殿下の婚礼の日が決まった」


「なんだって!?」


 そりゃあ、国の一大事ではないか。

 全然知らんかった。


「多分、今頃勇者村に、特戦隊が連絡に来てるんじゃないか? ショート、お前さ、魔法か何かでこっちと常時連絡が取れるようにならないか? いちいちお前と繋ぎを取るために、一週間も馬を走らせるのはなかなか大変なんだ」


「あー、そうだなあ。今はもう、王都とは関係良好だからな」


 何やら俺の隣りにいる資格争奪戦みたいなもので、カトリナが他二名に圧倒的な差をつけて勝利したため、俺の身の危険は王都になくなった。

 トラッピアも落ち着いてくれることであろう。


 ちなみに勇者村に押しかけてきたヒロイナは、


「あたしにはショートもパワースもいないの! つまり、ショートはあたしにかっこいい彼氏を世話すべき!!」


 などと主張している。

 どうしたもんかな……!!


 ま、急ぐ話でもないからヒロイナの頼みは後回しにしとこう……。


 紡績機械は、最新型のを買った。

 ブレインの身の丈などを伝えて、最初の設定をそこに合わせてもらう。

 金を支払い、納期をメモしてもらって受け取った。


 よしよし、これで今回の仕事は達成だ。


「ショート、陛下に会っていけよ」


「えっ」


 いきなりエンサーツから不意打ちが来たぞ。


「え、じゃねえよ。こっち来て陛下に会っていかないのはダメだろ……。ほら、一応世界を救った英雄なんだからよ」


「一応というか普通に世界は救ったな。で、本音はなんだ」


「俺みたいなおっさんとしてはな、結婚前で心細くなってるかも知れねえ陛下にお前の顔を見せて元気にしてやりたい」


「やっぱりそっちか!」


 だが、俺もエンサーツの頼みとあれば断れない。

 ぶらぶらと王城へ向かっていった。


 入り口の門番は、俺の顔を見た瞬間、「あっ!!」と叫んで飛び上がった。

 慌てて門を開ける。


「勇者ショート!! お通り下さい!」


「戦争を終わらせた英雄ショート!! お通り下さい!」


「なんか称号が増えてるんだけど!」


「お前がホイホイ偉業を成すからだな。案外、世の中は受けた恩を忘れないもんだぜ」


 笑いながら、エンサーツが俺の肩をバンバン叩くのだった。


 騎士から侍従へ、そして大臣へと言伝が行き、すぐに大臣自ら駆け足でやって来た。


「ゆっ、勇者ショート!」


「走らなくていいから」


「はあ、ふう、急いでおかないと、わしが陛下にめちゃくちゃに叱られますので」


「あ、頑張ったアピールのために走った……?」


 王城も色々大変だ。

 汗だくになっている大臣に案内されて、王城の奥まったところにやって来た。


 お城というのは、外から見える部分は見栄えを良くするための飾りみたいなもんである。

 戦争時に、見張り台となるような尖塔、そしてそれそのものが砦となる城の作り。

 だがそれは同時に、居住性を犠牲にもしている。


 だから、王族や城に住み込みで働いている人々は、別のところで暮らしているんだよな。

 王城の奥に、いわゆる居住スペースがある。

 広大な中庭に面しており、ファンタジー版大奥みたいなところだ。


「ショートが来たのね!?」


 でかい声が聞こえて、バタバタ走ってくる足音がした。

 そして、扉を蹴破らんばかりに飛び出してくるトラッピア。


「ショート! よく来てくれたわ!!」


 うわあ、めっちゃ嬉しそう。

 後ろには、流石に小麦色だった肌ももとに戻ってきているハナメデルがいる。


 バタバタ走っていたトラッピアに、追走して来たのか!

 本当に体力ついたなあ。


「ショート!」


「抱きつくのはやめるんだ! 念動魔法!」


 襲いかかってきたトラッピアを途中で空間に固定する。


「何をするの! 少しくらいいいじゃないの!!」


「俺は操は立てる主義なのだ……!!」


「きいいいい!」


 歯ぎしりしてる。


「ショート、王族というものは、結婚は結婚、恋愛は恋愛で別なのよ!」


「嫌なこと言うなあ!」


 それって俺がいつまでもトラッピアから逃げられないってことじゃん!

 エンサーツとハナメデルが、他人事みたいに笑っている。


 いやハナメデル、目の前で浮気の話しされてるのにいいのか。


「僕は相手がショートだったら構わないかな。というか、僕もショートとちょこちょこ会いたいし」


 しまった!

 これは王配も俺と浮気する流れだ!

 女王と王配の浮気相手が同じってどういうことだよ……。

 公認浮気じゃん。


「愛されてるなあショート。陛下、本日こちらに勇者ショートをお連れしたのは、これから王都と勇者村の間に、連絡を取り合える仕組みを作ることになりまして」


「作ることになりましてって言うか、俺が魔法で構築するんだろうが」


「わはは」


 笑って誤魔化すエンサーツ。

 だが、トラッピアとハナメデルは目をキラキラと輝かせた。


「それはいいわね! 是非やりなさい! すぐ!」


「うん、それは僕も嬉しい!」


 女王と王配が認めたので、これはもう国家命令みたいなものになる。

 従ういわれは無いのだが、俺を好いている人間を無下にはできんからな……!!

 俺の弱点を的確に突いてきやがったなエンサーツ。


「じゃあ、エンサーツにコルセンターの魔法を常時発動させておくので、何かあったらエンサーツを呼んでくれ」


「俺か!! 巻き込んできやがったな!」


「どうせ何かに魔法を常時発動化して掛けなきゃいけなかったんだよ! お前も苦労するがいい」


 ということで、エンサーツがコマンドワードを唱えると、コルセンターが発動するようにした。

 これでよし、と。

 王都との窓口ができたぞ。


「ショート、わたしたちの婚礼は来月になるわ。絶対に出席して」


「ショートがいないと始まらないからね」


 二人に、凄い目力で訴えかけられてしまった。

 仕方ない。

 カトリナと一緒に出席するとするか。


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