第60話 麦実る雨季と、女王の訪問。そして唸りを上げる真実

 秋になった。

 と言っても、南国であるこの勇者村に四季みたいなのはあんまりない。


 四季っていうか二季だな。

 乾季と雨季がある。

 もうすぐ雨季が来る。


 うちで育ててる麦は変わっていて、乾季のうちに実をつける。

 ブレインいわく、


「この麦は魔法的な力を持っていて、種籾のうちに雨季の水をどこかに溜め込んでしまうようです。そして、その水を使いながら乾季に育つ。この時期にはライバルとなる植物が少ないですから、土の養分を独り占めできるのでしょう」


 なんだそうだ。

 植物も生存競争は激しいな。


 実はあまり多くない麦だが、その代わり乾季に収穫できるのでありがたい。


 教会の建造も完全に終わり、今日は村人総出で麦刈りだ。


「うんとこしょ、どっこいしょ」


 カトリナが堂に入った動作で刈り取っていく。

 前の住まいでは、麦畑の手伝いなどをしてお駄賃をもらっていたんだそうだ。


「一年後に勇者様の奥さんになって、自分の畑の収穫をしてるなんて思ってもいなかったよ」


「だろうなあー。俺もまさか、魔王を倒してから畑作やるとは思ってなかった」


 肩を並べて、二人でわっせわっせと麦を刈り取る。

 散々世話した上に、クロロック入魂の最上級の肥料を使ったので、とんでもない豊作だ。


 害虫の類は、トリマル一家が片付けてくれたもんな。

 ひよこもみんなホロホロ鳥になり、毎日がホロホロと賑やかである。


「ホロホロ―」


「あぶばー」


「ほろほろー」


「きゃあー」


 ホロホロ鳥に混じって、ビンが猛烈な勢いでハイハイをしている。

 一日五回おっぱいを飲んで暮らした赤ちゃんは、実に強靭に育った。

 これを嬉しそうに見つめるフックとミーは、ここに来て半年ですっかり父親と母親の顔になった。


 俺もああなっていきたいものである。


「赤ちゃん欲しいねえー」


「欲しいなあー。だが焦る必要は無い気もする。カトリナはまだ若いしな」


「そうだけどねえー。欲しいものは欲しいの」


 そうかそうか。

 では今夜も頑張るか……!


 二人でそういうアイコンタクトをしていたらば、手前村に通じる道の辺りが騒がしくなった。

 馬のいななきが聞こえる。

 馬車が来るとは珍しい。


 しかも、やって来たのは豪華な馬車だった。


「ショート!」


 降りてきた人物を見て、俺は目を剥く。


「トラッピア! 女王がこんなとこ来てていいのか」


「たまの休暇よ!! で、どう? ハナメデルは鍛えられてる? うちに婿に来たはずのハナメデルが、半年も姿が見えないからって、外国の新聞があることないこと書いてるのよね」


「なんだ、まだあの新聞は出てるのか。出してるところ分かったのか?」


「ええ。ポリッコーレ共和国の人民新聞社よ」


「ははあ、名前からしてろくでもなさそうだ」


「また戦争を煽ってるみたいね。ハジメーノ王国を諸悪の根源とか言って。でも、ショートのお陰で王国だけで、油を生産できるようになったから困ってないわ」


「うむ。経済制裁できないとなると、軍事で叩くしかなくなるからな。だが軍事は俺が叩き潰す。それでも、外国でちくちく悪口を言ってくるのはよろしくないな。ちょっとその新聞社を潰してこよう」


「世話をかけるわねえ」


「女王が直々に来たってことは、それを依頼しに来たんだろ。流石に一国の長の顔を潰すほど俺もバカではない。カトリナ、昼飯までには戻るー」


「はーい」


 ということで、俺はフワリで浮かび上がり、バビュンで飛んだ。

 海上に出たところで、最高速になる。

 速度的には、地球なら五時間で一周する程度である。


 あっというまにポリッコーレに到着した。

 人民新聞社とやらに、正面から突撃する。


「新聞を発行するのはいいが、ハジメーノ王国のことをあれこれ想像で書くのやめなさい」


「な、なんだお前は!!」


 記者たちが俺を見て驚愕する。


「勇者ショートだ。ハジメーノ王国には俺が住んでいるので、それの邪魔をするようなことはやめなさい」


「い、いや、それはできない!! 俺たちの記事は正義のために書かれてるんだ」


「そうだ! ハジメーノ王国こそ諸悪の根源! あれを叩かなければ正義はない!」


「そうだそうだ! さらに、グンジツヨイ帝国とも結びついたらしいじゃないか!」


「魔王がいない時代に軍事力なんて不要だ! 連合国でグンジツヨイ帝国も屈服させるべきだ!」


「そうだ! 世論もそう言っている!」


 俺は彼らの言葉を一通り聞いた後で、うんうん頷いた。


「言いたいことはそれだけか。では話を聞かなそうなので、お前たち全員を洗脳する」


「エッッッッッ」


 記者たちが揃って目を剥く。


「ゆ、勇者ショートがどうしてそんな暴虐を!!」


「ハジメーノ王国に毒されてしまったのか!」


「聞いたことがある! たしか勇者ショートに取り入ってオーガの女が妻に」


「エターナルナイトメア!!! 貴様はこれから五十年悪夢の中だ!」


「ウグワーッ!!」


 カトリナに対して大変シツレイなことを言うやつがいたので、ちょびっとお仕置きしておいた。


「ちっ、力で我々を黙らせようなんて、横暴だ!」


「そうだそうだ! 勇者がたとえ敵に回っても、我々は神に誓って正義を貫く……」


「その神は、俺が任命した神様で、しかも元々の神は全滅してて、唯一残った前時代の神は俺の剣になっている……」


「!?」


 記者たちが揃って目を剥く。


「な、何を……」


「お前たちはどうやら真実が知りたいようだ。では、真実を教えてやろう……。情報転送魔法、コピッペー(俺命名)!!」


「ウグワーッ!!」


「そ、そんな! 神はもうみんな殺されている!?」


「ヒギィ! 魔王はあれで終わりではなくて、世界の外から無限にやって来る!!」


「ギエエーッ! わ、我々のしていたことが世界にとって無意味!! 無価値!!」


 全ての真実を流し込んでみた。

 全員真っ白に燃え尽きたので、ここで優しい俺はそっと彼らに洗脳魔法を掛けてやったのである。


「これからお前らは、どこどこの赤ちゃんが生まれました、とか、どこの村おこしがされてます、とか、とっておきグルメニュースだけを書いて暮らしていくのだ……!! わははははは!! 二度とゴシップ記事など書けんぞ!! あっ、やべえ、昼飯の時間だ。じゃあな」


 俺はシュンッで消えた。

 昼飯には間に合ったのである。


「どうだった、ショート?」


「とりあえずオハナシして来た」


 俺の簡易な説明に、トラッピアは満足げに頷くのだった。


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