第41話 王城ギスギストライアングル
事が起こる前に、村の人員が増えていて本当に良かった。
俺は仲間たちに見送られながら、カトリナをお姫様抱っこしてフワリと飛び上がった。
「超特急と遊覧飛行、どっちがいい?」
「超特急って速いほう?」
カトリナが少し考え込んだ。
「じゃあ、超特急で! みんな困ってるんでしょ」
むむう、戦争が起こることで困っている、他の人たちのことを考えるなんて。
カトリナは本当に優しいなあ。
好きになってよかった。
ということで、俺はまず、風水圧遮断魔法バーリアー(俺命名)を張る。
その後、フワリしてバビュンで飛んだ。
これで風が来なくなるので、体に来るのは加速の重圧だけになる。
「む、むぎゅう」
カトリナが可愛いうめき声をもらしながら、俺にぴったりしがみついた。
うむ、一般人なら失神してるレベルの加速Gだからな。
だが、さすがはオーガ。
カトリナは意識がちゃんとあるようだ。
ものの十分ほどで、王都に到着。
王城の前に降り立った。
カトリナを下ろすと、ちょっとフラフラしている。
「ふ、ふわあああ……。あっという間についちゃった。私、王都は初めてなんだよね」
「初めての王都がいきなり王城かあ。観光もできなくてすまんね」
「いいのいいの。落ち着いたら、二人でゆっくり回ろ?」
「よし、回ろう!!」
俺は鼻息を荒くした。
そんな俺たちのやり取りをみて、門番がわなわなと震えた。
「ゆ……ゆ……」
「ゆ?」
カトリナが首を傾げる。
門番はすぐさま、
「勇者様がおいでになられたーっ!! 我らを助けに降臨なされたぞーっ!!」
次の瞬間、城中で、うわーっ!! という大歓声が巻き起こった。
城だけではない。
街中から人が溢れてくる。
「勇者様! 勇者様!!」
「どうかお助けを!」
「あのバカ王がやらかしたんです!」
「戦争で負けるのはいやだよー!」
こりゃあ凄い。
大パニックだ。
普通なら、戦争が起こるけど負けないよ! とかプロパガンダをするものである。
だが、そうなっておらず、よくよく見たら街も荒廃してきている。
これは暴動とか略奪が起こっているな?
カトリナと、新婚旅行気分の観光どころではないではないか。
最高級ホテルで最高級ディナーをとりながら、満点の星空を眺め、そのままベッドインしてジュニアを作るなんてできないではないか。
「いかん……いかんぞぉ。戦争はいかあん」
俺は決心した。
必ずやこの戦争を止め、王都の治安を元通りにしてみせる。
「ショート、やる気だね!」
カトリナが微笑む。
うむ、君のためにやる気になったぞ!!
「来たのねショート!」
「ショート! 久しぶりー!」
二つの声が聞こえてきた。
ハッとして振り返る。
片方は、大勢の取り巻きを引き連れた、金髪碧眼の俺が一番苦手な女子、トラッピア姫。
もう一方は、見ていると俺のトラウマがえぐられる、プラチナブロンドに赤茶色の瞳の娘。
僧侶ヒロイナだ。
ぐううーっ!!
パ、パワースの彼女が今更俺になんの用だ……!
おっと、いかんいかん。
落ち着けスローライフ人ショート。
お前も今や、リア充ではないか。
こんな超絶可愛いくて優しい嫁が隣にいるのに、過去など思い出してどうする?
「助けに来たぞ、トラッピア姫。そして久しぶりだなヒロイナ」
「ええ、信じていたわよ! 早速作戦会議に入るわ。ハジメーノ戦争対策本部に来てちょうだい」
「ショート……なんだか大人っぽくなったね。あたしもね、ちょっと大人になったんだ。あのね、どこが変わったか分かる?」
あっー!!
ヒ、ヒロイナが近づいてきてなんだかアピールしてくるーっ!
危険危険!
俺はガクガク震えた。
そして、カトリナは敵の出現に気付いたようだ。
ずん、と前に踏み出して、ヒロイナの前に立つ。
「何か用? ショートの元お仲間さん?」
「あら……。あなたはだあれ?」
ヒロイナの声もなんか怖くなる。
やべえー。
女子こえええー。
「あなたはショートと最近仲良くなったんでしょう? あたしはね、三年も一緒に旅をしたのよ? そりゃあ、一時の感情で間違った選択をしてしまったこともあったかも知れないけど……。あたし、本当に愛するべき人は違うんだってこの間気付いたの」
うわーっ!?
何を言っているんだヒロイナ!!
「ま、まさかパワースと別れたのか?」
俺が震えながら指摘した事に、トラッピアが「なんだそんなことか」と応じた。
「あの男は、王宮で近衛兵として取り立てられたのよ。だけど、そこで勇者ショートの悪い噂を流しまくったわ。お陰で特戦隊は馬鹿な事をして、こうしてあなたを王都に呼ぶために大変な回り道をしなければいけなかった。なので地下牢に放り込んだわ」
パ、パワースーっ!!
やべえ、トラッピア。
父王も容赦なく地下牢にぶちこむし、魔王退治の英雄も地下牢にぶちこむぞ。
「あたし、騙されていたの!! 口先だけの男なんてやっぱりダメね! 男はハートだわ!!」
「今更調子良すぎない?」
ぴしゃりと、カトリナ。
彼女の背中しか見えないが、俺には分かる。
今のカトリナは、目が据わっている。
「だから、あなたは誰なの? ポッと出の女はお呼びじゃないんだけどなー。ほら、あたしとショートには絆があるから……」
ヒロイナが勝ち誇ったように言う。
トラッピアがこれを聞いて、ふんっと鼻で笑った。
だがしかし。
今日のカトリナは強かった。
いや、以前トラッピアと会った時よりも、遥かに強くなっていたのだ……!
「私は、ショートの妻です!!」
カトリナがその言葉を口にした瞬間、トラッピアとヒロイナが凍りついた。
うん、文字通り凍結したな。
微動だにしなくなった。
一言で女子二名を叩きのめしたな。
「ブラボー……!!」
俺はカトリナに向けて拍手した。
よくぞ言ってくれた!
「じゃ、行こうか、対策本部へ。止めなくちゃな、戦争!」
俺が爽やかに告げる。
特戦隊や取り巻きは真っ青。
トラッピアとヒロイナは、死んだ魚みたいな目になっている。
さあ、このドリームチーム()で戦争を止めなくちゃな。
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