第40話 呼びに来た特戦隊

 醸造がほどよく進み、肥料は完成し、芋畑からはもりもりと芋が取れ……。

 トリマルたちも、またさらに一回り大きくなった。


 開拓はばりばりと進み、畑の面積はこりゃあ多分、二倍くらいになったんじゃないか?

 夜間にやって来る獣も増えてきたので、罠をばんばん張って捕らえている。

 お陰で、肉も毛皮もたっぷり取れた。


「なかなか、勇者村も軌道に乗ってきたんじゃないのか?」


「そうだねえー。お芋もたっぷり採れるようになったし……そろそろ、ショートが言ってた麦の栽培、行けるかもね」


 俺とカトリナの関係も、まあ、大変仲良くやっています……!!

 何せ、隣の部屋のフックとミーが大変仲良しだからな。

 俺たちも負けじと仲良くせねばなるまい。


 そうそう、ミーの腹はちょっと大きくなってきた。

 それでも元気に働いているのだが、力仕事は本格的にカトリナが担当するようになっている。

 最近のミーは、洗い物と縫い物がメインだな。


 かくして、俺たちの生活は順調なままどこまで続いていく……。

 というわけではなかった。


 ある時突然、丁字路村に入ってくる商品の品数が減ったのだ。


「どういうことだ?」


 村の取引所で尋ねてみる。

 値段も明らかに上がっているが、王都の相場も同じように上がっている。


「実は……物が入ってこないんですよ勇者様。いよいよ、戦争が始まるっていう噂でねえ……」


 おばちゃんが不安そうに告げる。

 戦争……?

 そう言えば、特戦隊が言ってたな。


 魔王の時代に、ザマァサレ一世があちこちで不義理を働きまくったせいで、各国にハブられてると。

 これはつまり、周りが敵ばかりになっているということでは?


 それを考えると、今までよくぞ物流を保ってたなと言う気になるな!

 で、恐らくここで物資が滞ったってことは、他国が団結してハジメーノ王国に攻めてくるということではあるまいか。


 いかん……。

 それはいかんぞお。


 ようやく、俺の安らかで楽しいスローライフが軌道に乗ってきたばかりなのだ。

 俺は、帰る場所と、師匠と、友と、村人と、ペットと、そして可愛い可愛いハニーを手に入れてだな!

 毎日いちゃいちゃして過ごす予定だったのだ!


 そこに戦争だと……!?

 ええい、ザマァサレ一世、どこまで俺の足を引っ張れば気が済むのだ。


 俺は怒りに燃えた。

 だが、自ら助けに行くのは癪なので、この日は買えるだけの麦の苗を購入して帰った。


 帰ってきた俺を見て、クロロックが何か察したらしい。

 カエルながら、こいつはとても鋭い男だ。

 親友である俺のことをなんでも分かっている。


「ショートさん」


「ああ、分かるか、クロロック。これだけしか買えなかった」


「ええ。肥料の配分は難しいです。麦は少量から作ったほうがいいですね。分かってくれましたか」


 全然分かってねえ!!


「違う違う! あのな、丁字路村に物が無くなってきてるんだ。というか、国中から物が無くなってる」


 すると、クロロックは腕組みをして、クロクローと喉を膨らませた。

 もう分かるぞ、こいつがこの仕草をするのは、色々と誤魔化してる時なんだ。


「つまり、戦争が起こるんだな?」


 ブルストが核心的な発言をした。


「流石ブルストだ。間違いなく、でかい戦争が起きるな。しかもこれは、人間と人間の戦争だ。実にバカバカしい」


「うーむ」


 ブルストが顎を撫でる。


「俺らオーガはな、部族同士の争いなんてのは挨拶みたいなもんだった。何せ簡単にゃ死なねえ頑丈な体だからな。本気で殴り合ってもまあどうにか生きてる。ってことで、カジュアルに戦争をやるんだよ。で、勝った側が略奪する。だからまあ、俺は人間が戦争をするって言ってもな」


「文化の違いだなあ」


 ちなみに、このやり取りを横でフックが聞いて、ほっと胸をなでおろしている。

 この辺境にいる限りは、ミーと腹の中にいる赤ん坊は無事だと思ってるんだろう。

 それは全くもってその通り。


 さらに、今戦争が起きたとしても、俺たちはこの辺境に引きこもってても構わない。

 当座困らないだけの量の布はあるし、芋に丘ヤシがある。


 あちゃー、こんなことなら、野菜をもっと手に入れておくんだった。

 野草でしばらくは過ごすか。


 ハジメーノ王国、あんま強くなさそうだし、他の国が徒党を組んで戦争を仕掛けるなら、サクッと敗戦するだろ。

 それで、こっちまで勝った側の国がちょっかいを出してきたら、殴り返せばいい。


「よし、これだ。これで行こう。俺はもう、歴史の表舞台には立たないと決めたのだ……」


 俺はこっちで楽しく過ごすのだ……。

 だが。


 元勇者とは言え、俺を放っておいてくれるほど世界は甘くなかったらしい。


 その日の夕方に、猛烈な勢いで特戦隊がやって来たのだ。


「勇者殿! 勇者殿ーっ!!」


「聞こえない! 何も聞こえないぞーっ!!」


 耳をふさぐ俺。 

 だが、特戦隊は俺を取り囲んでひざまずき、頭を下げてくるのだ。


「お助け下さい勇者殿ーっ!!」


「トラッピア殿下が外交でどうにか食い止めていましたが……ついに限界が……!!」


「クーデターを起こした殿下がザマァサレ一世陛下を地下牢に幽閉し、政権を奪取したのですが時に既に遅く……!」


「勇者殿に会ってから、トラッピア殿下のモチベーションが復活したようで……」


 ええ……凄いことになってたんだな……!!


「どうか! どうかお願いします!!」


 だが、ここは俺一人で決められることではない……。


 スッとカトリナを見る。

 すると彼女は、眉間にシワを寄せている。


「あの王女はどうでもいいんだけどね。戦争って、私あんまり知らないけど……たくさんの人が困るんでしょ?」


「そうなるな」


「だったら、私、ショートには戦争を止めて欲しい」


「カトリナさん!?」


「ただし!! 私も!! 行くから!!」


「カッ、カトリナさんんんんっっっ!?」


 ということで。

 ハジメーノ王国vs連合国軍の戦争に……。


 この俺、勇者ショートが参戦なのだ……!

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