第42話 昔の仲間の今がダメダメ

 対策本部には、見知った顔があった。

 エンサーツがいる。

 城の偉い連中がいる。


 あと、賢者ブレインがいる。


「あれっ!? 賢者ブレインじゃないか。久しぶりだなあ。今何やってるの」


 俺は賢者ブレインの隣に座った。

 俺のもうかたっぽうの隣には、カトリナが腰を下ろす。


 ブレインの横にはヒロイナが座った。

 すごい目でこっちを見ている。

 いや、カトリナと火花をバチバチ散らしている。


 恐ろしいなあ。

 しかし俺、モテ期かなあ。

 こんなモテ期、来てほしくなかったなあ……。


「やあショートさん。僕はですね、今は国の図書館で働いているんですよ。司書としてですね」


「元勇者パーティにしては地味な再就職先だな」


「僕は世渡りが下手なので、あっという間に権力闘争で負けて、ハニートラップで醜聞を作られたんですよ。お陰で一人暮らしギリギリの給料をもらって、賃貸で暮らしています」


「なんてことだ」


 俺はショックを受けた。

 お前めちゃめちゃ悲惨なことになってるじゃん。

 過去の栄光も何もあったものではない。


「ちなみにこの対策本部会議はお給料出るの?」


「無料ですね」


「うっ」


 俺は悲しくなって、ブレインの肩をばんばん叩いた。


「お前、この戦争が終わったらうちの村に来い」


「なんと! ショート君の村ですか」


「ブレインはさ、俺と活躍場所が被ってて、目立たなかっただろ。だけど何気に現地人では最高レベルの魔法の使い手だってのは、俺は知っているんだ。お前の活躍場所は、勇者村にある……!!」


「なるほど。今の仕事もお給料は安いですが気に入っているんですけど」


「世界を救った英雄が、安い給料でお仕事してていいわけないでしょ……! まあ、勇者村は貨幣っていう価値観自体が無い気がするが」


「ショート君がそこまで誘うなら行ってみましょう。実はハニートラップ仕掛けられてから、女の人が怖くて、仕事でもちょこちょこ困ってたんですよね」


「大問題じゃん……。カトリナ、こいつを連れて帰るけどいいよな」


「うん、もちろん!」


「あたしは? あたしは?」


「ヒロイナは絶対連れていかねえ」


「なんでーっ!!」


 ちなみにヒロイナは、ハジメーノ王国大神殿の特別大司祭とかいう役職についているそうだ。

 名誉職だが、各種イベント事に顔を出して、アイドル的な活動をするだけでガッポリと金がもらえる美味しい仕事だ。


 世界を救った英雄のために、国が作ったポジションだな。


 パワースは体育会系で割と世渡りができたので、騎士団顧問になっていたはずだが、今は地下牢に幽閉されているな。

 あいつの人生は終わったかもしれん。

 だが、奴は裏で俺の有る事無い事、悪い噂ばっかり広めてたみたいだから自業自得と言えよう。


「パワースはね、ショートにずっと嫉妬してたの。ショートってほら、あたしが好きだったでしょ?」


「うわっ、いきなり危険な話題を振るなヒロイナ!!」


 俺は戦慄した。

 真横で、カトリナから何かオーラのようなものが立ち上っているのが分かる。


「パワースは何をどう頑張っても、絶対ショートに勝てなかったもの。だから、昔の騎士仲間とかを抱き込んで、王国でロビー活動をしたりしたんだよね。あたしを口説いたのも、ショートから何かを奪いたかったからじゃない? 付き合ってみたけど、人間がちっちゃいのよね。前のあたしだったらパワースで良かったかもだけど、ショートみたいな得体のしれない凄い男子を知っちゃうと、パワースじゃ物足りなくって……」


 恐ろしいことを言う女だ。

 ちなみに既に会議は始まっており、俺とヒロイナに挟まれているのに、ブレインは平然と会議で発言をしている。

 トラッピアの刺すような視線が、ヒロイナに注がれているな。


 恐ろしい……。

 とんでもない三角関係である。

 俺を取り巻く、女子三人の火花をちらし合う三角関係。


 無論、既にカトリナが勝利確定している。


「ねえショート、今からでもいいわ。あたしと一緒になりましょう? あたし、凄いんだから。三年も一緒のパーティだったじゃない。あたしのこと好きなんでしょ?」


「ヒロイナ、何か勘違いしているようだから言っておくが……。モテない男は、女子としばらく一緒にいるだけで好きになるので、その感情は軽いものなのだ……。あと、俺はカトリナとハッピーに暮らしてるのでそっちにつくのはないです。ダメです」


「な、なんですって」


 カトリナが俺にピタッとくっついた。


「ショート、会議でもちゃんと喋らないと。エンサーツさんこっち見てるよ」


「あいつ、笑いをこらえる顔してやがる……!! あのおっさん、いい性格してるぜ……!」


 しかしまあ、ブレインを間に挟んで良かった。

 真隣にいたら、ヒロイナの誘惑でちょっと揺らいでいた可能性もある。

 俺のそっち方面の抵抗力は、スーパーベビー級なのだ。すぐ誘惑されるぞ。


 それを考えると、ハニートラップで地位が失墜し、慎ましく一人暮らしをしているブレインの気持ちも分かる……。

 いや、お前はあり得た未来の、もう一人の俺だ……!


「ちょっと! あたし、いきなりスルーされる感じになってるんですけど!」


「ええいさっきからぺちゃくちゃと色恋の話ばかりして!! 特戦隊! そこの女をつまみ出しなさい!!」


 トラッピアがキレた!

 特戦隊がわーっとやって来て、ヒロイナをわいわいと担ぎ上げる。


「ちょ、ちょっと!! 特別大司祭ヒロイナ様に何してるのよあんたたち!! うわーっ、やめろー! 外に連れてくのやめろー!」


 わっしょいわっしょいと、運ばれていってしまった。

 これには耐えきれず、この場にいたお歴々が爆笑する。


 くっそ、みんな耳をそばだててやがったな?

 後で聞いた話だが、パワースに同調して俺やブレインの追い出しを図った貴族や騎士が大勢いたようだ。

 そいつらは全員地下牢にぶちこまれている。


 この場は、トラッピア派か、風見鶏派か、勇者派しかいないというわけだ。


「では勇者ショート。連合軍を止める方法について、あなたの意見は?」


「方法も何もないだろ」


 トラッピアに問われて、俺は初めて意見を口にした。


「俺が突っ込んでいって、くだらん戦争は止めるようにオハナシしてくればいいんだ」


 簡単な話である。

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