第13話 おまけをもらってきた

 村人たちと平和的に分かりあった俺。

 ついでに、俺が勇者ショートであるという事を口止めしてきた。


 あまり俺がいることが知れ渡ると、ハジメーノ王国の手の者がやってきて、スローライフの邪魔をするからな。

 やって来た連中の記憶を操作したり、根回しをせんといかん。


 なんで現実世界では永遠の自由人だった俺が、こっちでそんなめんどくさいことをせねばならん。

 いや、今までもやって来たんだがな。

 なのでエンサーツなんかともコネがある。


「どうしたの? ショート、難しい顔してるけど」


「ああ、いや、なんでもない! それよりも、みんなオハナシをしたら分かってくれたぞ。もうあの村で、カトリナとブルストが嫌な思いをすることはない。あとおみやげ」


「ありがとうショート! ……おみやげ?」


 俺はアイテムボクースから、それを取り出した。


「あっ!」


 カトリナの頬がゆるむ。


「卵!」


「そう。たくさんもらった。ホロロッホー鳥の卵だ」


 ホロロッホー鳥とは。

 地球で言う鶏みたいな鳥だな。


 色は緑色をしていて、草むらや茂みに隠れられるようになっている。

 こいつらが緑色の卵を産むのだが、だいたい鶏の卵と同じように料理できる。


「やったね、ショート! じゃあ、今夜は卵料理にしちゃう?」


「いいね……! 卵料理大好き! ああ、幾つか残してもらっていい?」


「どうして?」


「卵を孵して、ホロロッホー鳥を育てる」


 卵をホロロッホー鳥にすれば、今後継続して卵を取れるのではないか。

 それが俺の目論見だった。


 ちなみに!

 俺は、現実世界において、生き物を育てたことは一度しか無い。

 小学生の頃のメダカの飼育委員である。


 3日で全滅させた事がある。


 あれ以来、俺は卒業するまで、デスハンドのショートと呼ばれ続けた。


「……俺が育てて、育つのか……!?」


 登校した時、全てのメダカが腹を見せて浮かんでいた衝撃を今でも忘れていないぞ。

 もし、孵ったホロロッホー鳥が全て腹を見せて浮かんでいたら……。


 いやいやいや。

 魚じゃないんだ。

 水に浮かべる必要はないだろ!


「大丈夫、俺は勇者だ。最強の魔法を無数に使いこなす最強の勇者……ハッ、俺の魔法は破壊することに特化している物が多い……!!」


 回復魔法も、俺の魔法は大雑把なので、掛けた辺りの植物が異常成長したりするのだ。

 一度パワースに魔法を掛けたら、回復しすぎて鼻血を出して倒れたな。


 パワースを一撃で倒す回復魔法……。

 これをホロロッホー鳥にかけたら……。


「どうしたのショート? それに、勇者って?」


「いやいやいや、なんでもない。俺は今から、卵孵し人ショートとして励むことにするのだ」


「お芋の畑もあるし、一人で何もかもやらなくていいんだよ?」


「ハッ」


 後頭部を鈍器で殴られたような衝撃!

 またも俺は、全てを一人で抱え込もうとしていたのか!

 だってパーティの仲間たちあてにならないんだもん……!


「なんだ、ショートは卵を孵すのか! 確か、知り合いのオーガでもホロロッホー鳥を育ててる奴がいたなあ。一個どうにか孵しゃ、後は勝手に親鳥が温めて孵すだろ。一個目が勝負だって聞くぜ」


 やって来たブルストが耳寄りな情報を口にした。

 ほう、なるほど……!

 最初の一個を!

 なるほど……。


 何かを育てる、ということに不向きなオーガでも飼えるそうなのだ。

 これは俺でも行けるのではないか?


「ありがとう、カトリナ、ブルスト。俺の力が及ばない時は二人の手を借りるよ」


「うん! いつでも言って! 布がたっぷりもらえたの、ショートのお陰だもん。それに、村も前よりはちょっと雰囲気良くなるんでしょ?」


「それは約束する」


 俺はサムズアップした。

 ブルストが、がはがは笑いながら俺の背中を叩く。


 うむ、今の俺には、頼れる仲間たちがいるのだ。

 スローライフは一人では成らず。


 仲間とともに成していくものなのだ……!


 それはそうと。


「オムレツできたよー! えへへ、ショートが持ってきてくれた卵、ほとんど使っちゃった」


「やったー! オムレツだー! いただきまあす!」


「イヤッホウ! ごちそうだあー!!」


 ふっくら特大のオムレツを前に、俺とブルストが快哉を上げた。

 村で手に入れたソースを掛けて、ガツガツと食う。

 後はいつものシチューと芋を食う。


「うめえうめえ」


 うーん!

 食生活に鮮やかな黄色の色彩が加わったな。

 卵を安定生産できるようになれば、常にこの豊かな食事が約束されるようになるってわけだ。


「がんばって卵を孵さなきゃな! カトリナ、残った卵あとでくれ」


「はーい。どうぞ」


 カトリナが、卵を一個手渡してきた。


「うん? 他の卵は?」


「ここ!」


 カトリナがオムレツを指差す。


「おほー! この美味しいオムレツになったのかあ! ……えっ」


 俺は我に返る。

 あれ?

 卵一個しか残ってない?


 もしかして失敗は許されない?

 この一個の卵から全てが始まる感じ?


「ぬうおおお……」


 プレッシャーを感じる俺に、カトリナが焦りだした。


「ご、ご、ごめんなさい!! ついつい張り切っちゃってー! その、卵料理なんで本当に久しぶりだったし、ショート頑張ってくれたし、美味しいもの食べて欲しいなーって」


「いや、カトリナは悪くない! 大丈夫、俺を信じてくれ! 一個で十分だ! 俺は……卵孵し人ショートだ……!! 俺が持つ全ての能力を駆使して、この卵を無事に孵し、育ててみせる……!!」


 俺は誓うのだった。


 そして、そんな俺たちの横で、ブルストが実に美味そうにオムレツを平らげていくのだった。



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