第12話 人間も魔王に与して悪事を働いていた記録映像上映会

 取引所から外に出たら、もう俺たちを悪く言うものは誰もいなかった。

(主に俺を)こわごわと見つめるばかりである。


「今日は正当な取引ができてよかったな。俺の知り合いのエンサーツもこっちに来るから、もっと風通しがよくなるぞ」


「ショート、お前一体……。ただの行き倒れじゃねえと思っていたが」


「ふっ、魔法が得意だといろいろな人の縁ができるもんだ」


「なるほどなあ。魔法ってのはすげえな」


 ブルストがあっさり納得した。

 この人の良さは好きだな。


「ありがとう、ショート!」


「うおーっ!?」


 何やら感極まって、カトリナが抱きついてきた。

 なかなか凄いパワーだが、それ以上に大変柔らかくて大変だ。


「うーん、これには俺も昇天」


「あ、ご、ごめんなさいショート!」


「ははは、気にせず続けてくれていいんですよ……」


 俺はすっかり賢者モードになった。

 

「でも、ショートがいてくれてから、今までが嘘みたいにたくさん布が交換できて……。あなたがいてくれてよかった!」


「ああ。オーガだからって不当に扱われるのは間違ってるからな。そもそも、勇者は魔王と戦ったけど魔王に与した個人とは敵対しても、種族全体を敵だと思っちゃいなかった。個人の問題なんだよ、全部。それを単純化するからこの村みたいになるんだ」


 しかし、他の村だと亜人をもっと迫害してるっぽいことをブルストがにおわせていたからな。

 その辺、取り締まらせるために王国に接触しておかないといけないなあ。

 ああ、面倒くさい。


 魔王を倒すまでも大変だったが、魔王を倒した後はもっと大変なんじゃないか。


 こうして俺たちは十分な収穫を手に、帰途についたのだった。




 その夜。

 俺は、村に戻ってきた!


「諸君! 約束通り、ドルモット・タクランデルーが悪魔神官だった証拠映像と、俺がそれと戦った記録をお見せしようじゃないか」


 広場に集まった村人たちが、ごくりと唾を飲む。

 彼らは一様に俺を恐れているが、それと同時に、俺が凄まじい魔法を使うことを理解している。

 そんな俺が、記録をみせると言うので、興味を抑えきれないのだろう。


 この世界には娯楽が少ない。

 なので、俺の記録映像みたいなのは、吟遊詩人の歌みたいな大いなる娯楽にもなるのだ。


 現に、なんか串焼き肉の屋台が出てたり、みんな酒や茶を手にしている。

 ちょっとしたお祭りのようだ。


「では、始まり始まりー」


 おおおおおー、とどよめく村人たち。

 彼らの頭上に、俺が魔法で作り出した巨大なスクリーンが出現した。

 記録魔法ウツシトールは情報を入力する魔法だが、それを出力させるとこんなこともできる。



 画像の中では、王都の取引所が映し出されていた。


『わしを追い詰めたつもりかね、勇者ショート』


 いっけね!

 音声編集するの忘れてた!!

 だが、俺は、ここでいきなり中断するほど無粋ではない。 

 流れで全部行っちゃおう。


『追い詰めたつもりじゃない。ここでお前は死ぬんだ』


『横暴な……。そんな有様では、勇者であろうと許されんぞ』


『王国の法ではお前が裁けないからこそ、俺はお前を俺の法で裁く。観念しろ悪魔神官ドルモット』


 村人たちが、ごくりと唾を飲む。


 ドルモットの顔が、悪意に満ちて歪んだ。


『ぐわはははは! そうか、そうか! わしが魔王マドレノース様にお力を頂戴し、それを使って取引所のシステムを完成させたという証拠を掴んだのだな! これはいかん、いかんなあ! お前を活かして返す訳にはいかなくなったぞ、勇者ショート!!』


「勇者?」


「勇者……」


「勇者……!?」


 村人のどよめきが大きくなってきたぞ。

 後で記憶を操作せねばなるまいな……。


『見よ、これがわしの真の姿! 闇のローブよここに! わしこそが、悪魔神官ドルモット! ハジメーノ王国を影で操っていた魔王軍幹部である!!』


 ドルモットの額にカッと第三の目が輝く。

 村人たちから悲鳴が上がった。


『ああ、話が早くて助かる……! 行くぞ、ドルモット!!』


 こうして、俺とドルモットの戦いが始まった。

 数々の魔法を操るドルモットは、他の魔王軍幹部同様、レベル上限を突破した強さだった。

 俺の仲間たちは戦力外だったので、外で避難誘導をしてもらった。


 ということで今回も俺と魔王軍幹部の一騎打ち。


 俺とドルモットの激戦は、5分間に及んだ。

 一瞬のようだが、見ている側には一時間にも感じられただろう。


 ドルモットは強かった。

 魔王に寝返った人間の中では、最強に近い力を与えられていただろう。

 だから、奴から失言を引き出しまくりながら倒さないように戦うのは苦労した。


『はっ! 人間など力あるものには頭を垂れる存在よ! 魔王様に従わぬわからず屋どもは滅ぼすだけだ!』


『相場システム!? わはははは! あれは魔王様のお知恵によって生まれたものよ! 全ては人の世界の物資を魔王様が把握するためのな!』


『世界中に置かせたわしの肖像画!? ぐわははは! あれは取引所に集まる馬鹿者どもから精気を吸い上げていたのよ! そして魔王様に献上していたのだ!』


 いやあ、喋る喋る。

 あまりにも何もかも洗いざらいぶちまけるので、これを見ていた村人たちは次第に怒りの表情になっていったのだ。


「お、お、俺たちはドルモットに騙されていたんだ……」


「人間があんなにも醜く、魔王に従うのか……!」


「取引所まで魔王の手のひらの上だったなんて……!」


『全てを聞いた以上、お前を生かしておくわけにはいかん、勇者ショート!! 死ぬがいい!』


  嵐のように撃ち込まれるドルモットの魔法を掻い潜り、奴の切り札的な召喚獣を一撃で斬り伏せ、俺は肉薄する。


『ば、馬鹿な、強すぎる! さっきまでとは別人……!!』


『よく囀ってくれた! お前の言葉があれば、偉人ドルモットの洗脳に掛かった連中を正気に戻せるだろう! さらばだ用済みとなったドルモット! エクスラグナロクカリバァァァァァァァァッ!! アルティメットッ斬ッッッッッッ!!』


 ついに俺の聖剣、エクスラグナロクカリバーがドルモットに炸裂。

 奴が多重に張り巡らせた防御障壁を連続でぶち破り、ついに本体を真っ向から両断した。


『ウグワーッ!!』


「やったー!!」


「ドルモットを倒したぞー!!」


 わーっと盛り上がる村人。

 すっかり俺の側に感情移入している。

 抱き合ったり、乾杯したりしている。


 そうそう、人間、基本的には単純なんだ。

 特にこの世界の住民は純朴なので、すぐに染まってしまうんだよな。


 そして映像の全てが終わった後、彼らは憑き物が落ちたようなキラキラした瞳をしていた。


「あたしらは間違ってたよ……!! 亜人が悪いんじゃない。人間だってドルモットみたいに汚い奴がたくさんいるんだ……!!」


「ああ、俺は、カトリナちゃんに謝りたい! エッチな目でいつも胸とか尻とか二の腕とか太ももを見ていて、いや、確かにエッチだが」


「お前は俺が腹パンしてエターナルナイトメアを掛けたけど映像を見せるために目覚めさせた村人!!」


「あんたの腹パンで目が覚めたぜ……」


 俺と村人は握手を交わしあった

 とりあえず村人全員と握手をした。

 俺は爽やかに笑いながら言う。


「人間は誰だって間違える。だがやり直せるんだ。いやあ……村ごと焼き払ってなくてよかった」


 村人たちが真っ青になった。


「勇者ショートは怒らせないようにしよう……」


「ドルモットより怖いよこの人……」



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