第20話「でっかい夢を見て何が悪いという話。」
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皆は、息抜きにゲームをやったりするだろうか。
暇つぶし、休日のストレス発散。今の時代、人間には欠かせない娯楽である。
……これは、谷川が不意に口にした言葉が始まりだった。
『え!? 皆もやってるの!? “M.V.P.s“!?』
M.V.P.s。
今現在、日本どころか全世界で大流行中のVRMMOオンラインゲーム。世界一、ジョブが多いゲームとして注目され、スタミナの消費や、実際肌身に味わる痛みの感覚など……何もかもがリアルだと評判のフルダイブ式オンラインゲーム。
イージスプランターの社員全員、このゲームをやっているというのだ。
というわけで後日の会社休業日。全員で遊ばないかと口約束。その日に至るわけである。
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フルダイブ式。肉体が味わう感覚までもをリアルで感じ取れる。走り続ければ自然と疲れてくるし、ダメージを受けすぎると徐々に痛みを感じていく。そのキャラクター本人になりきれるのが人気の秘訣だ。
vなお、モンスターに負けたら“本体の人間も死ぬ”なんてことはない。安心してほしい。
「しかし、驚いたな。宇納間と上渡川はともかく、槇峰と姫城の奴もやってたとは」
谷川和樹。プレイヤーネーム:ハゲタカ丸。
職業は侍。近距離戦特化の和風ソルジャーだ。専用スキルである“居合”は男のロマンである。
「槇峰は弟がプレイしてるからとやっていたらしい」
大淀奈津菜。プレイヤーネーム:ステラ。
職業はガンマン。中距離で二丁拳銃を撃ちまくるスクランブルファイター。日常生活がプロレス技ばかりだからと言って誤解されやすいが、こっちの世界ではガンマンである。
二人とも、暇な日はこのゲームで遊んでいる。レベルはお互いに75。
「ゲームの世界まで粘着とは、本当一種のストーカーだな、おい……」
「だが、私も姫城がやっているのは驚いたな。ゲーム会社に勤めてはいるが、そんなイメージ微塵も感じない」
姫城レイカはクソ真面目なイメージが強すぎる故に堅物だ。あくまでゲームとの絡みはビジネス上のみであると考えていた為に、こうしてゲームを普通にプレイしていたことにステラも驚いている。
「本当だよな~。アイツの日常生活は自宅で海外映画を見ているか、或いは日々命を狙われている政府の人間を命がけでボディガードしてるかの二択で考えてたからな」
「うちの営業担当の副業重すぎない?」
ハゲタカ丸の妄想には毎度、やりすぎを感じてしまう。
「おっ、いたいた。おーいッ!」
野太い声。
デカい剣を背負ったヒゲの巨漢が二人に寄ってくる。
「おっ、来た来た」
残りの四人の到着待ち。三人目の到着をハゲタカ丸とステラは出迎える。
男性キャラ。該当する人物は誰かと言ったら一人しかいないだろう。
「待ってたぜ、宇納間。こっちでは随分とゴツイキャラなんだな」
「まぁ。ゲームの世界では夢を見たくもなる。その髭、声造りも似合ってるぞ」
宇納間工多であろう。
特に身構えることもなく、二人は巨漢を出迎えた。
「……いや、上渡川っすけど」
「「男キャラかぁああいッーー!!」」
上渡川辺。プレイヤーネーム:歩[アユム]。
職業はオールドソルジャー、すなわち熟練兵。その肉体と歴戦の記憶。豪快に敵を薙ぎ払っていくぞ。
「私達としたことが盲点だったな。男が女性使うの当然だし、その逆も然りだった」
女性キャラを主流で使う男性プレイヤーの方がダントツで多いのではないだろうか。ここ最近のオンラインゲームの傾向を見れば。
「気を付けるか……槇峰がこんな巨漢キャラ使ってる姿は想像したくないけど」
「いや、もしかしたら、弟ソックリなキャラかもしれないぞ。自分自身が弟になることで、会わなくとも愛でることが出来るからな」
「弟の前で堂々と弟ソックリなキャラ使って、なおかつ自分を愛でるって……見た目だけしたら相当キツいな、それ……」
想像するだけでも精神的に追い詰められる。
彼女の弟好きを分かっているからこそ冗談で済まされないのが怖い。もし、本当にそのような姿で来たらどうリアクションしたものかと考えものである。
「宇納間は女性キャラ使ってそうだよな!」
「分かるなー」
ステラと歩。宇納間のキャラクターの予想に以心伝心。
「設定もモリモリ考えてそうだよな。ネカマとかやって、男性キャラから課金アイテムねだってそうっすよね!」
「このゲームの女性キャラの衣装の中には破廉恥なものもあるからな。自分しか入れないマイルームでエッチな格好した自分の画像を取って、悶々としている姿も何となく見えるぞ」
「ビキニアーマーとか来てさ! アッハハハ! 気持ち悪ぃ~!」
___お前達の中で、宇納間工多はどんな人間になってるんだ。
同じ性別。同じ男性として、これほどまでに宇納間の事を気の毒と思ったことがあっただろうか、谷川は。そんな話題で以心伝心している女性コンビを見て。
「まぁ、そこまで行かないにしても、少しは設定を考えてそうだよな」
「えっと、ハゲタカ丸とステラ……いたいた、お待たせしました。宇納間です」
わかりやすく苗字をすぐ口にしたキャラクター。
((おっ、きたきたっ))
向こうでは“少しだけ”プレイしていると口にしていた宇納間。
どのような女性キャラクターを使っているのか。ステラと歩は楽しさ全開で振り向いた。
「お待たせしました」
男性キャラ。
頭にはツノ、巨躯に黒い肌に全身鎧にマント。
宇納間工多。プレイヤーネーム:イブラヒム。
職業・魔王。レベル140。
((少しどころの問題じゃねぇえええ!!))
魔王。もしかしなくても、魔法使い職トップクラスのジョブである。魔物に対して魂を売り払い、ついには人類から魔王と恐れられるようになったという設定の魔法使い。レベルから見ても、嗜んでいる程度ではないことが伺えた。
「おいおい何だよ、ビキニアーマーじゃねぇのかよ」
「は? こんな巨漢のビキニとか誰得だよ。変態かよ」
喋り方からして、もう一人の巨漢の正体が上渡川であることを悟ったようだ。一気に言葉遣いが汚くなる。
「お前好きそうだからさ。凌辱モノを普段描いてるし」
「お前は殺人犯役をやった俳優に人を殺すのが好きかどうかを聞くのか。ええ?」
とんだ言いがかりにイブラヒムは態度を悪くしている。
「確かにこのゲームにビキニアーマーはあるにはあるが……アレ、素早さと回避率が上がっても、防御力が紙すぎるし使いづらいって聞くぞ? 上級ステージになると、敵の耐久も高いし攻撃力も高い。いつか攻撃が当たるから、回避率上げるよりは防御と耐久に振った方がいい。性能面でも評価されてないんだよ。産廃だぜ?」
上級ステージ。このゲームの奥地を知っている。
間違いない。この男、やりこんでいる。
それどころか、本来着るはずのない他の装備の事もかなり頭に入っているようだ。
……ちなみに産廃とは産業廃棄物の略。すなわち、ゴミという意味だ。
「それに見た目が、さ……幾ら体がゲーム世界の別物だとしても、変に注目を集めるだろ。あんなきわどいの。あんなモノを着て、人の多いこの場所を歩くのなんて無理。視線も気になるし、使っているプレイヤーの趣味も問われるしでマジでない。使ってる人の気が知れない」
「「「……ッ!!!」」」
途端。
性能面、及び見た目の問題などで語り続けているイブラヒムを前に、三人の顔が青ざめていく。
あまりにこのゲームを知り尽くしている。超上級プレイヤーであると知って態度を改めようとしているのか……だが、その割には“違うものに恐怖を浮かべている”ような気がしなくもない。
「ん、どうしたんですか? 俺、何か変なこと言いました……?」
三人の視線の先、それが自身へ向けられていないことにイブラヒムが気付く。
その後ろだ。イブラヒムも三人に釣られ、そっと後ろを振り向いている。
「……っ」
姫城レイカ。プレイヤーネーム・レイカ。
職業・ドラゴンスレイヤー。ドラゴンなどやワイバーンなど、飛竜を相手に特攻効果を持ち、素早さに防御貫通と力押しで通す職業。
装備品、竜殺しの槍。
それと“ビキニアーマー”。
「ああぁああ……ッ!!!」
イブラヒム。魔王の顔が徐々に青ざめていく。魔王よりも恐ろしい先輩を前に、その表情から宇納間らしさが現れていく。
「そ、そうか……使ってる人間の気が知れない。か……ははっ、そうかっ、そうかっ」
顔を真っ赤。涙目で震えるレイカ。怒りの対象は当然理不尽にも宇納間に向けられている。
「あー! そうだそうだ! 雑魚を薙ぎ払うには凄い使いますからね! 機動力高いし! アーマー凄く似合ってますよ! やっぱ、綺麗な人が装備すると違うなーッ!!」
(((フォローになってねぇよ、それ)))
三人とも、軽い処刑が決定してしまった宇納間に対して手を合わせることしか出来なかった。哀れ、宇納間工多、常しえに眠れ。
「あっ! ごめんなさーい、遅れましたー!」
槇峰穣。プレイヤーネーム・リンリン。
職業、普通の魔法使い。弟が最近プレイしていないのが原因か、最終ログインは数年前でレベルも中途半端に止まったまま。
とんだ修羅場に雪崩れ込んできた穣を最後に、地獄の休日を過ごす羽目となった一同だった。
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