第11話「攻略に重要なのは好感度だ。詰めろ。詰めておけ。そういう話。(前編)」


「……ん~」


 工多はデスクトップのパソコンと業務用スマートフォン両方の画面を見ながら、あるものをチェックしている。


 俗にいう、エゴサに近いものだ。


 簡単に言えば、学園のメサイアをプレイした感想やバグ報告。悪かった点などの情報などをツイッターや評価掲示板などを通じて確認している。バグ報告は発売されてすぐに報告された一件以来は確認されず、プレイした感想も軒並み“よかった”の一点張りである。


 悪かった点の感想といえば、“趣味が悪い”“気持ち悪くなる”“作者の頭がおかしい”など、明らかにああいったゲームが好きではない人間の趣味の押し付けであった。そういうのが嫌いなら買わなきゃいいのにと、唾でも吐いてやろうかと思っていた。


「工多君、お疲れ様~」

 後ろから声をかけてくるのは先輩の槇峰。

「おっ、凄く肩がこってるねぇ~。頑張るのは良いことだけど、休憩も大事だよ~?」

「……ッ!?」

 声をかけるや否や、肩を揉んでくる槇峰。実際、座り仕事がココのとこ続いた故に肩がこってしまったのは事実。妙に重苦しいと感じていたところである。


「お客さん。特別に揉んであげよっか?」

「い、いえ、大丈夫っす……」


 一言断りを入れると、槇峰はちょっと残念そうな表情で席に腰掛ける。



(……やっぱり、優しすぎる気がするんだよなぁ)


 少しでもいいから、距離を詰めてみる。谷川からのアドバイス。

 実際、会社の面々は変わり者こそ多いが悪い人はいない。槇峰はあの中でも一番喋りやすい感じではある。


 だが、彼がしようとしている質問は、うっかりしてよいものなのかどうかが不安だった。



「……槇峰さん」

「何かな?」

 隣の席の槇峰さんが目を輝かせて、彼を見る。



「なんというか……距離が近いというか……どうして、そこまで僕の面倒を見てくれるんですか?」


 正直に、正直に告げるのだ。


「自分で言うのもなんですけど、僕って付き合いづらいというか、よく言われるもんで……上渡川みたいにからかってるとかなさそうだし、何というか……」

 

 日々、微かに感じている不安。


「なんか、ちょっと、面倒見が良すぎるような気がして。僕に結構付き合ってくれるし、色々と叱ってくれるし。距離が近すぎる気がして……僕に対して、何かあります?」


 聞きづらかった点は一つ。

 “自意識過剰”なのではと言い返されるのが非常に怖かったからだ。


 こんな質問でもして、女性陣から変な目で見られてみよう。男子なら確実に死ぬ。その相手が美人であったなら百パーセント息の根を止められる。槇峰に至ってそんなことはないと思うが、万が一のことを考えると言いづらい質問ではあった。




 返答を待つ。





「……えぇっ!? 私、そんなに距離近かった!?」

 顔を真っ赤にし、目をグルグルさせながら槇峰は慌て始める。

「無自覚!? 槇峰さん!?」

 “そんなつもりはなかった”と言わんばかりのリアクション。もし、それが本当であるのなら無防備にもほどがある。


「いや、その、割と距離感を調整しているつもりだったんだけど……」


「先輩さっき僕のどこを触りました? 距離感どころかゼロ距離でしたよね。思いっきりセクシャルハラスメントしてましたよね」


「セクハラぁっ!?」


 絵面を想像してほしいものである。もしもあれが、男性の上司と新人女性社員だったとしよう。完全にセクハラの決定的瞬間である。


「ごめん……割と、気にしてた?」

「いや、ご厚意はとても嬉しく存じ上げるのですよ」


 別に肩を触られるくらいはどうでもいいし、何なら普段の甘ったるい対応も嬉しくないわけではない。ちょっと天然味のある可憐なお姉さんに可愛がられるのは、心地が良いのも事実である。


「ただ、その。裏があるのかなあって思って」


 一つ不安があるとすれば、何か企んでいるのではと感じる事。

 実はあの対応はすべて演技で、裏ではとんでもない計画が実行されている。工多を一生この会社から出さないための計略なのではないかと。


 実は槇峰穣という女は結構な悪女で、裏では唾を吐きながら後輩の愚痴を吐きながら煙草を吸っているのでは……そんな映像を何度か想像したのである。



「そんなことないよ! 私は工多君のこと本当に可愛いと思ってるし、タバコを吸いながら悪口を言ったりもしないよ!」

「なんで俺の頭の中の映像よめたんですか。エスパーですか」


 口にしてないことを言いやがった。ニュー〇イプか。


「俺に対して、何かしてほしい事とか、思っていることがあったら、正直に言ってほしいなぁって」

「うー、うん……」


 この様子、やはりあの距離感のあまりの近さには理由があったようだ。

 一体何が目的なのだろうか。それとも、工多に何か特別なものを感じているのだろうか。それとも想像通り、手のひらで踊らせていただけなのか。


 その不安、その答えが今、明かされようとしている。



「……実はね、私には弟がいるんだ」

「弟?」


 工多が首をかしげると、槇峰は携帯電話を取り出し、待ち受けを見せる。



 そこに映っているのは、工多より年下のイケメン少年。見た感じでは大学生。髪も金に染めてチャラチャラしている。若気の至り絶好調の男の子がピースサインをしている画像を見せてくる。


「カッコイイっすね」





「でしょうーーーーーッ!?」




 ……その瞬間だった。

 “超絶危険な地雷原”にダイブした。工多がそう感じたのは___

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