第6話 宝石箱
幾つもの出会いがあって、たくさんの別れがあった。
あの日からどれくらいの月日が流れたのだろう。
私は今も考えないようにしている。
それでも、私の姉の娘は今年大学をを卒業する。
私の心根とは関係なしに、時間だけが通り過ぎていく証拠だ。
記録として残る時間の記憶は、時に無慈悲である事を知った。
今年もまたあの日が近付いている。
今でも思う。
『夏なんてなくなってしまえば良いのに』
と。
それは記憶が呼び起こされてしまう苦痛に私自身が耐えられないからで、自発的健忘症は完全な病ではないのだ。
しかし、時間の流れは私に新たな生きる術を与えてもくれた。
『記憶は想い出として塗り替えられる』
それはあのふくよかな女性が教えてくれた事だ。
手狭な庭が山吹色に染まりはじめている。
冷たい麦茶を私は飲み干して立ち上がった。
今年の4月に植えた鳳仙花に水をやらなくてはならないからだ。
もうすぐ花を咲かせてくれるだろう。
妻と娘と私の想い出。
家族で買った風鈴が、風に揺らされて優しい音色を響かせていた。
山吹 みつお真 @ikuraikura
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