第6話 セシリア
3時間も練習すると、4mくらいまでは、どこに枝を置いてもミリ単位の正確さで燃やせるようになった。生活魔法の火は4~5cmくらいの大きさで、5秒間ほど燃えている。枯れ枝なら、すぐに燃えだすほどで炎の温度はけっこう高そうだ。集中して疲れたので、背筋を伸ばす。あたりを見回し、ゴブリンなどの魔物がいないか確かめる。
セシリアが目を覚ましたようだ。
「あっ、起こしてしまった? 交代するにはまだ早いし、もう少し寝てて良いよ」
眠そうな顔のセシリアに向かってそう言うと、
「いえ、大丈夫です」、と言いながらこちらに近づいてきた。
また、隣にぴったりとくっついてくる、正直うれしい。
「聞いてください」、というのでうなずくとセシリアは話し始めた。
「私の両親は、プエルモント教国にあるエルフの里といわれるクラカウティンの森の出身です。冒険者に憧れていた両親は、教国の魔法師隊をやめ冒険者になりました。そして、冒険者が多く、冒険者ギルド発祥の地である、ここメルカーディア王国にやってきました。
父は魔法剣士として、母は支援魔法師として、4人のメルカーディア人とパーティーを組み冒険者としてレベルを上げていきました。
母が私を身ごもり冒険者を引退することになって、父も一線を退きオルガ村で生活していました」
「セシリアの両親って冒険者だったんだ、それでセシリアも冒険者に?」
「そうです。私も両親のようになりたくて冒険者になりました。父と同じような魔法剣士になりたいです」
「で、それからは?」
「私が14才になったときに冒険者になりたいというと、『しかたないなあ』という顔をして賛成してくれました。きっと冒険者になりたがると思っていたんでしょうね。
冒険者の心得やら、武器や魔法の使い方やら、野営の仕方なんかを1年間みっちり教え込まれました」
「それから15才になって冒険者になった?」
「はい、15才の誕生日に冒険者登録しました。目標のギルドレベルDになったらパーティーを組もうと思って、低レベルの討伐依頼を受けて、順調にレベル上げしてギルドレベルがDになったので、パーティーを組むときのアドバイスを両親からもらおうとオルガ村に帰ったんです」
「そのときに何かあった?」
「私が村に着いたとき、家には誰もいませんでした」
「冒険者になってどれくらい?」
「3か月です」
「それで12やDって早いんだよね。って同じ年だったんだ」
「はい、早いほうだと思います」、年はスルーか。
「で、どうしたの」
「村長さんのところに行って事情を伺いました。2か月前にプエルモント教国から使者が来て、教皇からの命令を伝えたそうです。『軍事力強化のために帰還するように』という命令を。
森で生まれ、森を出たエルフ全員への帰還命令だったそうです」
「森で生まれていないので、セシリアには来なかったんだ」
「そうです、私はメルカーディア生まれですから。
プエルモント教国が軍事強化する理由は、メルカーディア王国との対立のためだと考えられています。それで、父は、昔の仲間がメルカーディア王国の宮廷魔術師や軍人になっていることや、私のこともあって命令を拒否したそうです。
それを聞いた教国は、両親を捕らえ、教国に連行していったそうです」
「強引だな、むりやり連れて行っても働かないだろうに」
「私もそう思いました。
村長さんの所から家に帰るとすぐに、1組の男女が現れたんです。知らない人でした。
その人たちも、教国からこちらに移住した人だそうで、人族なので帰還しなくてよかったそうです。それで、情報がいろいろ入っているから話をしようと言われました」
「怪しげだな」
「今考えるとそうなのですが、そのときは頭が真っ白で何も考えられなくて・・・、男の人は怖そうな感じでしたが、女の人は優しかったので怪しいとは思いませんでした。
両親は連行され、取り調べを受け、王国に寝返ったとして死刑になること。その助命のためには娘である私が人質になるのが条件であること。隷属の首輪を付けて教国に差し出せば両親は自由になること。を告げられました」
「信じたんだね」
「信じる信じないではなく、それしかないと思いました。隷属の首輪は納得した上で本人自身が付けないと効果を発揮しません。強引に誰かに付けられても意味がないんです。
それで、私は差し出された隷属の首輪を付けてしまったのです。付けた後に、今までの話は嘘であることを告げられました。
付けてしまうと力が出せませんので、もう逆らうことはできません。あとは奴隷商人に売るためにコモドラドの町に連れて行かれることになりました。処女のほうが高く売れるために乱暴されなかったのが幸運でした。その途中にあるケンプ村に泊まったときにゴブリンの襲撃にあったんです。反撃したため憎い2人はゴブリンに殺され、抵抗できない私は捕まりました。そして、ゴブリンの巣に連行される途中でご主人様に出会ったのです」
納得したうえで首輪を本人が付ける。それだけ規制が必要な恐ろしい首輪なわけだ。他人からは付けられないという制限は必要だけど、自分で付ける覚悟することの残酷さも並大抵のことではないだろう。それを測れる魔法や魔法具にも驚かされる、侮れないな。
「では死刑になるってことも本当とは限らないんだね」
「可能性はありますが、利用しようとするはずです。それで私が狙われるのは当然だと考えます」
「では、セシリアのご両親を助けることを目標としよう。そのためには、相当実力を付けないといけないし、僕は攻撃魔法を使えないので仲間を集める必要もあるだろうな、何年かかるか分からないけど」
「無理だと思います。でも、ありがとうございます、そう思っていただけるだけでもありがたいです」、とセシリアは涙ぐむ。
こらえていたものを一気に吹き出したようだ、しばらく胸を貸したままにしておいた。
「すみません、取り乱してしまいまして、どうかお休みください。見張りを変わります」
「辛くなったら、いつでも起こしていいから、じゃあ、おやすみ」
といってセシリアが寝ていた場所で同じように短槍を抱えて眠りにつく、いろいろと考えて眠れないかと思ったが、すぐに眠ったようだ。
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