第5話 第1夜

 焚き火の周りで4人は黙々とウサギの肉とポフリの実(形はカボチャで味は柿)を食べている。ポフリの殻がコップ代わりになっている。こっち側は、セシリアと僕の2人に1つだ、間接キス確定した。


 僕は、黒のTシャツ、線の入った黒いジャージの上下、下着は黒のボクサーパンツ、黒が好きなんだよね。それに対し、1人だけに上着を貸すわけにもいかず、他の3人は裸のままだ。意識しすぎて、肉しか見れない、もちろんウサギの肉しか・・・。


 娘たちのささやき声が聞こえる。

「ねえ、なんでしゃべらないの?」

「静かにしなさい、あの方がしゃべらないのに私たちがしゃべったらいけないでしょ」

「うん」

げっ、それって何の設定なの、僕に場を仕切れって言うの、いじめかよ。


 このままじゃ気まずいし、とりあえず自己紹介かな。

「えっと、僕はサトシっていいます。趣味はゲームってわからないか、・・・、で、君たちは?」

「助けてくださって、ありがとうございます。私の名前はアルト、この森の入り口にあるケンプ村に住んでいました」

「あたしはカーラ、アルト姉ちゃんの妹です、村がゴブリンに襲われて、うっく・・・」

「私たちの村は、ゴブリンに襲われて全滅しました。生き残ったのは2人、ゴブリンの子供を生ませるためにここまで連れてこられんだと思います。村は焼き払われ、もう行くところもありません。一生かかってもご恩をお返しいたしますのでお仕えさせてください」

「あたしは15になったら冒険者になるから、それまで養ってください。冒険者になったら、そちらのエルフさんのように奴隷でもいいから使ってください。どうせこのままどっかに行っても身寄りはないし、誰かに捕まって奴隷として売られるんだろうし、お姉ちゃんは戦えないけど料理が得意だから一緒にね」


 えっ、エルフが奴隷? なんか話が理解できない。

「ど、ど、奴隷って、誰が?」

「私です、ご主人様。私はセシリア、ご主人様の奴隷です。冒険者でレベル12、ギルドランクはDです。木と水に属性があって、ヒールも使えます」

「2つも属性があるんですか、すごーい、あたしも2つあったらいいな」、とカーラが割り込む、アルトがたしなめるような顔をしている。


 へー、2つ属性があるって凄いことなんだ、僕は無だし、無って全属性とかだよな、きっと。セシリアは治療魔法が使えるのか、左手首のすり傷を治してもらいたいな。すり傷のところを触って、ちょっとアピールしとくか、あっ、治ってる、セシリアの顔を見るとにっこり笑って返してくれた。


 そんなことより、何で奴隷なんだ。あー、首輪をしているからか、そんなのは誤解だ、すぐに外してもらおう。

「セシリア、なんでまだ首輪してるの?」

「ご主人様が命令されないと外せないんです」

「ご主人様って、だれ?」

「えっ、サトシ様です。まさか、このまま棄てるんですか。さっきの戦いだけで用済みですか?」

「ちょっとまって、奴隷にした覚えはないんだけど。力を取り戻すために血がいるっていってたよね」


 それにしても、会話に違和感がある。きっと翻訳で直して耳に聞こえてるから、言葉と口の動きが違うんだよね、こっちの言っていることも同じなんだろうなあ。なれるよね、そのうち。アルトとカーラは関わりたくないという感じで、乾いたボロ布を少しでも体を隠すように着はじめた。


 セシリアは、まだ全裸のままだ。それで僕の左腕をとり、必殺の上目使いで見上げている。胸が腕にあたってます、気持ちいいです、薄暗くて、座ってるからばれないかもしれないけどヤバイ状態に・・・。

 

「この首輪は、隷属の首輪です」

「力を抑える首輪って言ってなかった?」

「隷属の首輪は付けると、誰かの奴隷になるまで力が封じられます。解放してくれた方の奴隷となり、その方のために力が使えるように元に戻ります。それが血の契約です。一度ご主人様が決まって、棄てられると全ての力を失い、生きていくことができません。見捨てないで下さい、何でもします、サトシ様」


 そういえば、首輪に血をつけたときにも「ご主人様」って言ってたよね、僕でよかったんだろうか。分かったけど、全て理解できたわけじゃない、納得できるものでもない。でも、それで仕方ないなら、この設定、超うれしいんですけど。異世界に来て、いきなり超美人のエルフの奴隷ゲット、恵まれすぎです。


 いやいや、奴隷を持つほどの力も財力もないし、可哀想だし、この世界の考え方もまだ分からないし。

「首輪は外せるの?」

「はい、ご主人様の命令があれば外せます」

「じゃあ外していいよ。これで奴隷じゃなくなるんだよね」

セシリアは動こうとしない、首輪にも手をかけない。

「どうしたの?」

「命令でないと外せないんです。強い命令でないと。ご主人様から命令を受けた奴隷本人でないと外せません」

「わかった、命令って、したことないんだよね。ごめん、言うよ。命令だ、首輪を外せ」

「ありがとうございます。ご主人様」

といってセシリアは首輪に手をかけた、首輪は簡単にはずれて消滅した。


「外れたね、これで奴隷じゃなくなったよね」

「いいえ、首輪の役目が終わっただけです。首輪の戒めはもう体に焼き付いています。でも外れたので見た目だけで奴隷とは分からなくなりました」

「見た目で分からなければ、いいじゃん、奴隷じゃないって言えば」

「いえ、ご主人様が念じると首輪のあとが痣になって現れます。それに、冒険者カードやステータスには表示されます。ご主人様のカードやステータスにも表示されているはずです」


「カード持ってないし、じゃあステータスを見てみよう。ステータス」

といってステータス表を見る。

セシリアがびっくりした目で僕を見ている。

ステータスって見れないものなのか?

ステータスの最後に、「所有奴隷 セシリア」と明記されている。

きっとセシリアのステータスにも奴隷という身分が記されていることだろう。


「ご主人様、ステータスが見えるんですか?」

「うん見えるよ」、ちょっと自慢。

「えーっ、100人に1人くらい見えるらしいけど、ステータスが見えると攻撃魔法も支援魔法も取得できないはずです」

「げっ、そうなんだ。使えるのは生活魔法だけ?」

「戦いに使えそうな魔法は無理と聞いています」

あー立ち直れない、冒険者は無理かな、といって生産者か何かで生きていけるんだろうか、奴隷も抱えちゃったし。


「かわいそう、サトシ様ってステータスが見えるんだって」というカーラのささやきに、「しっ、黙りなさい。失礼ですよ」とアルトは応える。どうやら、可哀想キャラ決定か。


「でも、ステータスって見えたら便利じゃないのか?」

「冒険者ギルドか教会の水晶で見られますから、そんなにちょくちょく見るものではないし・・・、大丈夫です、私が冒険者として稼ぎます」

とセシリア、カーラもうなずく。可哀想キャラ決定、おまけに「ヒモ」決定!


「魔法が使えなくても戦えるよね?」と思いあまって聞いてみる。

「まあ、戦えますけど。剣か何か得意なんですか?」

「弓に興味があるんで、教えてくれないかな」

「支援魔法が使えないんじゃ、弓でもつらいでしょうね。さっき戦ってたみたいに大ハンマーで叩くぐらいならできるでしょうけど、下級モンスター以外は無理でしょうね、大丈夫ですよご主人様、私が働きます」


「立ち直れそうにない」、このせりふ何度目だろう。


「で、ご主人様って、言わなきゃだめなの」

「はい、できれば、お嫌ですか、サトシ様って言いにくいんですが」

「それならいいけど、で、どうして冒険者なのに首輪つけられたの」

「それは・・・」とアルトたちのほうを見て口ごもる。


「まあいいや、今じゃなくても。さあ、疲れたろ、もう寝よ、最初は僕が見張りをやるから」

セシリアが力をこめて、「私が見張りをやります。策敵の魔法も使えますから」

「いいよ、疲れてるだろ。僕もちょっとやりたいこともあるし」

「じゃあ、夜中に起こしてください。見張りを交代します」

「わかった、おやすみ」

「「「おやすみなさい」」」

アルトとカーラは抱き合って、セシリアは服を着てというより引っ掛けて鉄の短槍を抱えるようにして寝た。


「やること」というのは、3人の寝乱れた姿を覗き見することではない。断じて、それではない! いや、ちょっとぐらいなら・・・。そうではなくて、魔法の練習だ。遠距離操作の練習、これでチートにならなきゃ冒険者になれない。ゴブリンロードとの戦いの使い方もあるし、極めれば結構使えるはずだ、特殊能力・ユニークなんだから。


 まずは、思ったところに火や水を出すこと、これが全てだ。8mまでいけるわけだから、まずは3mくらいのところに枯れ枝を1本立てる。MPは18あるから、5回で10、8くらいは残しておかないとゴブリンが怖い。5回練習して10分休む、この繰り返しでいこう、夜は長い。

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