第4話 救出
15、6人の集団かと思ったが、どうやら魔物の集団らしい。先頭は、でっかいゴブリン、3mはありそうだ。鑑定すると、ゴブリンロードと出た。そのうえ金属の鎧まで着けている。その周りには、ゴブリンが12匹、いろんな武器を持っている。あとは、人間、3人いる。
3人とも若い女の人だ。それも、めちゃくちゃに破れた服はかろうじて着ているものの、ほとんど裸で、手と腰を縛られている。ゴブリンたちがべたべたと触りながら歩いている。
別に助ける理由もないので、そのまま様子を見る。集団は、だんだんと近づいてくる、女の子は、銀髪が1人、茶髪が2人だ。銀髪の子には首輪が付いてる。おっ、みんな可愛い、助ける理由が少し出てきた。
銀髪の子の耳がとがっている。エルフだ! これで、僕が助けなければならないことが確定した。
ここで死んだら、何事もなく元の世界に戻れると仮定すれば、なにも怖くない。そのはずだ、そうだよな、たぶん、そうであって欲しい、お願いします。
迷っているうちに先頭のゴブリンロードが近づいてきた。必殺のハンマーの射程距離まで、あと3m。2m、1m、届かない、こっちに寄せないと。どうやって。
「ファイアー」って、もちろん声には出さず念じる。無詠唱だ! かっこいいだろう、生活魔法だけど・・・。狙いは、ゴブリンロードの顔の向こう側、頬が火傷するくらいの位置に火を出す。ゴブリンロードは、すぐに反応し、こちらにジャンプした。あたりを見回し向こう側を警戒している。うまくいきそうだ。他のゴブリンたちもゴブリンロードの動きを見て騒ぎ出した。
これでハンマーが届く。殺気を消すことは難しいので、もう一度脅かしてやる。火を目の前に出してやる。ゴブリンロードが1歩後退し、崖にぴたりと体をつける。その瞬間に、大上段に構えたハンマーを思いっきり叩きつける。
「ゴン」という音がして、ゴブリンロードの体が沈んでいく。手がしびれてハンマーを崖の下に落としてしまった。レベルアップの音がしないということは、まだ死んでいない。そう判断して、槍をつかみ薮に突っ込み崖を跳び降りる。槍を持った左腕が薮をかき分け、左手から手首のあたりかけて、すり傷だらけとなる。
痛い、痛いがそんなことを言っている場合ではない。気絶しているゴブリンロードの首をめがけて槍を突き刺す。「ピロン♪」「ピロン♪」と音がして2つレベルアップ、レベルは8になった。
ゴブリンたちは、ゴブリンロードが倒されたのを警戒して、さっと逃げ出す。このまま逃げてくれれば楽なのに、20mくらい行ったところで、こちらを見ている。
僕を見て、娘たちを見て、また僕を見て、娘たちを見る。まだまだ、娘たちに未練があるようだ。集団で襲われたら、ちょっと辛い。1発殴られたら動けなくなって、ボコ殴りされる。そのまま殺されてしまう、おそらくそうなるだろう。
「私の首輪に、血を1滴付けてください」
振り向くと、上目づかいの美しい顔。
「あっ、はい」
返事はしたけど動けない、固まってしまった。
「セシリアっていいます。これでも冒険者です」
かわいい、セシリアか良い名前だ。異世界だから、女の子の名前がゴンザエモンとかだってあり得たのに、それに発音できない名前の可能性だってあったし。
縛られたままなので、とりあえず、ナイフでロープを切って解放する。
「早く、このままでは力が封じられています。血をいただけたら力を取り戻せます。 『力よ戻れ』って言って首輪に血を付けてください」
血なら左手のすり傷から出ているので右手の人差し指で1滴すくう。「力よ戻れ」といって首輪に血を付ける。
白い首輪が真っ赤に光り、そして茶色の普通の皮に変化する。セシリアは、
「ありがとうございます。ご主人様」
と言って、ゴブリンロードの首に刺さったままの槍を掴んで走り出した。
ゴブリンたちも、一斉に反撃に出てきた。僕もハンマーを掴んで走り出した。さすが冒険者、セシリアの槍さばきは凄かった。アーマードゴブリンやゴブリンメイジも反撃するまもなく屠られていく。僕だってアーマードゴブリンを1匹倒して、もう1匹を殴りつける。思いっきり叩きつけたら、バックステップで避けられた。地面を叩いたハンマーの石が棒から外れ、バウンドして避けたゴブリンに命中、倒した。
ゴブリンたちは、武器をなくした僕に一斉に襲いかかって来た。そのとき50cmくらいある水の塊が勢いよく飛んできた。ウォーターボールだ、セシリアの魔法だ、ゴブリン2匹が飛んでいった。僕も「ウォーター」と叫んで、コップ1杯の水をゴブリンに落とす。
何の威力もない、恥ずかしい。
気を取り直して、石のないハンマーじゃなくて棒で思いっきりゴブリンを突く。それなりの威力だが戦える。セシリアが残りの3匹をやっつける間、1匹のゴブリンを何とか倒した。非力だ。
戦いは終わった。勝利だ。ここにいたらゴブリンの死体を目当てに魔物が来るかもしれないので、2人の縄を解き、河原に移動することにする。3人の娘たちは、若く、美しく、半裸状態で・・・。目のやり場がない、しっかりチェックはしてますが・・・、C、D、F・・・。
河原が見えたところで、「あそこで休もう」と言うと、セシリアが、「食料を取ってきます」と槍を持って駆けだしていった。
残された僕と2人の半裸の娘。着ている服からはゴブリンの嫌な匂いがしている。
「・・・」
「・・・」
人見知りモード全開だ。
とりあえず何かしないと落ち着かないので火を起こすことにする。枯れ枝を集め、積み上げていく。2人は、水で体を拭いたり着ていたぼろ切れを洗ったりしていた。タオル代わりにはなるようだ。離れているとしっかり見れる、絶景だ。
枯れ枝を集めた中から何本か太い枝を取りだして土台を作り、細い枝を組み合わせて小さな山を作る。「ファイアー」で火を付け、たき火の出来上がりだ。体を川でざっと拭き、かくしておいた槍を側におき、魔物対策とする。
セシリアが、うさぎを1匹と木の実を数個、枝で作ったカゴに入れて戻ってきた。結局ここまで、一言も2人の娘たちとは話していない、自己嫌悪にさいなまれる。
セシリアが体を拭きに川に入る。娘の1人、F?、Gかも、のほうが上手にうさぎを捌き、肉を枝に刺して火であぶる。上手そうな匂いが立ちこめる。
あたりはだんだんと薄暗くなってくる。体内時計はあてにならないが、夕飯時だろう。
たき火を囲んで僕が座り、正面に娘2人が座る。娘たちは、全裸でぼろ切れというか無いよりましな服を火で乾かしていた。川から上がったセシリアも同じように全裸で絞った服を手に持っていた。何を思ったか、僕の横にぴったりとくっついて座った。セシリアの右手と、僕の左手がくっついている。
セシリアのほうを見たいが首が動かない、のどはカラカラ、声も出ない。きっと僕の顔は真っ赤だろう、僕は完全に固まった。
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