第3話 ゴブリン

 耳を澄ますとかすかにペタペタと足音が聞こえてくる。手作りハンマーを持って、木陰に隠れて様子を見ると、1mくらいの緑色の小人がいた。「ゴブリンだ」。それも2人も、いや2匹かな。1匹は棍棒を、もう1匹は槍を持っている。短槍だ、欲しい。いや、べつに使えるわけではないけど、昔読んだ小説の女主人公みたいでかっこいい。


 ゴブリンは火を起こそうとした残骸を見て、なにやら話している。おっ、会話ができるのか凄い。会話より、ゴブリンで驚けって。そこはゲーム世代、ゴブリンごときじゃ驚かない、いきなりドラゴンならビックリしたかもしれないが、想定内だ。


 そっと近づき、ハンマーで槍を持っているゴブリンを思いっきりたたく。グギッと変な音がしてゴブリンの頭がつぶれる。もう1匹が戦闘態勢に入る。思いっきりハンマーを振り回す。ゴブリンの体に当たって勝利。死因は肋骨骨折、内臓破裂かな。このハンマーは絶大な威力だ、「短槍使い」にも憧れるけど。


 ほっとしたところで「ピロン♪」「ピロン♪」と2回音がする。「えっ、なに」と思っていると、左から火の塊が飛んできた。杖を持った一回り大きいゴブリンが立っていた。「火だ、あいつをやっつけるまで消えるなよ」と思いながら最初の攻撃をかわすと火はあっさりと消えた。「焼き魚が・・・」って、そんな場合じゃない。


 ゴブリンは何やらぶつぶつ言っている。呪文か、完成する前に攻撃だ、と石を拾って投げる。石は避けられたが呪文は途切れた。ハンマーより軽い短槍を掴んで走って近づき、ゴブリンめがけて思いっきり突き刺す。「ピロン♪、ピロン♪」と再び2回音がする。


 異世界冒険定番のレベルアップだな、でもどうやって確かめるのだろう。これも定番の「ステータス」とつぶやく、おっ、見えた。透明のパネルと赤いボタン型のカーソル。「これでチート確定だな、大魔導師の誕生だ」と言いながら詳しく見てみる。もちろん、怖いので場所を移動して木陰に隠れて操作する。


 サトシ・ヒライ

 人族 男 15才

 レベル  4(経験値 10)

 職業   無

 属性   無

 HP   54/54

 MP   14/14

 力    11

 敏捷性  12

 持久力  11

 知力   14

 魔法   無

 特殊能力 無

 ポイント 8P

 

 取得可能魔法

   生活魔法1(ファイアー、ウォーター)/1P

   生活魔法2(フリーズ、クリーン)/6P

 取得可能特殊能力

   特殊能力<レア>

    鑑定 /3P

    翻訳1(大陸共通語)/2P

    翻訳2(1言語ごとに)/2P

   特殊能力<ユニーク>

    遠距離操作/5P

 以上


 やはりゲームの世界に紛れ込んだって考えていいのかなと思いながら、もう一度よく確かめてみる。えっ、15才、3才若返っている。ということは実年齢の18才になったら帰れるって設定かな、そうじゃなければ若返る意味がわからない。カーソルを合わせると説明が出てくる。これはラッキーだ。ゲームに慣れた僕には説明無しでも何とかなると思うけど。


 それにしても遠隔操作ではなくて遠距離操作って何だろう。カーソルを合わせてみる。『生活魔法の発生場所をレベル×1mの距離まで操作することができる能力。』『生活魔法は手元で起こすことができる魔法』と書いてある。


 腹も減ったし、火は必要なので、とりあえず生活魔法1を選択。それと鑑定が無いと食べられるのか毒なのか分からないのでこれも当然選択。あと4ポイントは保留。


 とりあえず川に戻り魚をゲット、苦労したが堰き止めていた池に入って手づかみで取ることができた。川縁の大きな石をひっくり返すとエビ・カニがいた。それも取る。めんどくさいのでハンマーで石や岩を叩くと小魚なんかも浮いてきたりする。ハンマーの石も1回割れたけど、さっきより少し大きい石を結びつけバージョンアップ。力も少し増しているように感じられる。


 取れたものを枝に刺して焼く、火はもちろん魔法で「ファイアー」。火の大きさはライター程度で期待はずれだったけど、これで火を起こすことはできる。「ウォーター」でコップ1杯の水は確保できる。消費MPはともに1だ。もちろん魚などは鑑定で食べられることを確認済みだ。これもMP1。回復も1分くらいで1回復するし、燃費いいな。


 木の実を探そうと川沿いをさかのぼっていく。ゴブリンメイジの杖と短槍は河原に隠して、ハンマーとゴブリンの落とした錆びたナイフを持って行く。ゴブリンを倒しながら進んでいく。鎧を着ていた奴もいたけど、ゴブリンも2匹までならハンマーの餌食だ。調子よく倒していく。レベルも1つ上がり5に、ポイントは再び6ポイントに。


 おっ、木の実だ。低いところに1個。鑑定すると、アプルの実、食用(果物)と出た。食べてみるとリンゴだ。高いところには何個かあるが手が届かない。ハンマー使っても届きそうにない。そうだ遠距離操作で取ろう。


 遠距離操作を5ポイントで取得し、アプルの実に落ちろと念じる。落ちない。そうか魔法の発生場所の遠距離操作だったな。レベルは5だから5mまでは可能なはずだ。木の実までは4m。


 しっかり狙って「ファイアー」。実は落ちることなく少し焦げてしまった。予想どおりMPの消費は2。でも狙いはそんなに外れていないと思う。


 今度は、実ではなく、実を付けた細い枝を狙って「ファイアー」。枝の上の所に火が現れて消えた。惜しい、ちょっと上にずれたか。狙いを少し下にしてもう一度「ファイアー」。今度は少し下にずれた。これは少し練習が必要だな。繰り返しているとMP切れになった。ユニークスキルなのに相当練習が必要だなんて辛い。


 とりあえずMP回復で15分休憩だ。周りにゴブリンがいないことを確かめて座り込む。5分くらい経ったところで、またゴブリンが来た。アーマードゴブリンともう1匹、ゴブリンメイジだ。ゴブリンの正面に立ち、びっくりさせて、ゴブリンの後ろに向かって「ウォーター」と小声でささやく。ゴブリンの頭の後ろに現れた水が落ち、地面にはじける。


 後ろを振り向いたゴブリンたちに駆け寄り、ハンマーで横殴り、ゴブリンメイジを粉砕。

アーマードゴブリンにもダメージを与え、さらに1発ハンマーパンチ。使える。後ろで音がすればそっちを向くのは自然なことだ。「ピロン♪」と音がしてレベルアップ。レベルは6になった。


 これでMPはまた一つ上がって16になった。翻訳があるくらいだから人がいて、デフォルトでは言葉は通じないのだろう。翻訳1を取得した。とりあえずこれで普通の生活には困らないはずだ。コミュニケーションスキルは0だけど。


 ステータスを見てみる。


 サトシ・ヒライ

 人族 男 15才

 レベル  6(経験値 39)

 職業   無

 属性   無

 HP   56/56

 MP   8/16

 力    13

 敏捷性  14

 持久力  13

 知力   16

 魔法   生活魔法1

 特殊能力 鑑定、翻訳1(大陸共通語のみ)、遠距離操作

 ポイント 1P

 

 取得可能魔法

   生活魔法2(フリーズ、クリーン)/6P

 取得可能特殊能力

   特殊能力<レア>

    翻訳2(1言語ごとに)/2P

 以上


 あれ、とれる魔法が増えていない。大魔導師の夢が消えていく。


「まあ、そのうち増えるかも」と気を取り直してあたりを見ると、そろそろ日が暮れそうだ。夜行性の魔物もいそうだし、安全に寝るところを探さないといけないな。それに、アプルの実も何個か欲しい、魔法の練習にもなるし。ゴブリンの落とした武器も売れるかもしれないから、高そうなのを何個か確保しとかないと。赤い宝石みたいなのが付いた『火の杖』が1本とアーマードゴブリンが持っていた『鉄の短槍』を回収しておく。


 とりあえず河原を拠点にしよう。火を使っても火事にはならないだろうから。それに、上に行くほどゴブリンが増えたし、木の実は無いけど下っていくのが正解だろう。


 上ってきた道を再び下り始める。けもの道をぐるっと回れば、川の方に行く坂道に出るところで、左手に薮で覆われた段差がある。高さは2m程だ。ここをショートカットすれば10分くらい早く着く。「別に急ぐわけじゃないし、薮に引っかかれるよりは遠回りしたほうがいいかな」と得意の独り言で、いい訳をしつつ崖下を見ると、不穏な集団が現れた。

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