第27話 シオン村に屋敷を建てる

「で、アイザック。検定の時に使った【雷鳴剣】てのは何なんだ?」


 ダンとロイドの家族にそれぞれ新しい一員が加わった感動的な場面の傍らでお父さんからツッコミが入った。


 そうだよね。

 そりゃ気になるよね。


「ああ、あれね。実はこっそり練習してたスキルなんだ。【纏雷】と【形成】を組み合わせたスキルで、【形成】で作った剣をそのまま【纏雷】で覆った感じかな。切れ味がスゴイから何でもスパーンって切れちゃうんだよね。まだ練習中のスキルだから本当は秘密にしときたかったんだけど、あの時はミルカの悲鳴が聞こえたから少しでも速く木を倒すために使っちゃったんだ」


「そうか、二つのスキルを組み合わせたのか。何にしてもすごい威力だったな」


「【形成】で作る剣の長さは調整できるから、ながーい剣を【形成】して【纏雷】したんだ。で、一気にズバッといったわけ」

「それであんなに一気に木を切ることが出来たのか。とんでもない威力だったからな。さすがにビックリしたぞ」


 ただ、あの時は頭が焼かれるような痛みが走ったんだけど……それは黙っておこう。


「そういや検定は皆何点くらいだったの? 結局【戦力】【技能】【知識】のうち【戦力】の検定だけで終わっちゃったんでしょ?」

「ああ、皆1000点数は超えてたぞ。白金等級の点数は余裕で上回ったからな。それに【技能】と【知識】の検定は結構時間がかかるって言うからパスした」


「そっか。まぁ100人近く村に来ることになったから仕方ないよね。……皆はどうやって木を倒したの?」

「ああそれな。最初はどうやって木を切り倒そうか悩んだんだが、ユーリが【強化】を使っておもむろに木を抱きかかえたかと思ったら、メキメキメキってすごい音を立てながら引っこ抜いちまったんだよ」


「え、すごい! あの森の木って結構太かったけど……抜けちゃったんだ!」


 日々の訓練の成果もあって、村の皆は【強化】を自力で発動できるようになっている。

 最初はコツをつかむのが難しく、魔力の消耗が激しいのもあり、短い時間しか発動できなかったんだけど、今では随分長く発動できるようになっている。


 ちなみに、ニイナは回復力が特に高い(僕を除く)。そのためか(ヨハン司祭を除き)唯一回復魔法の【治癒】を使えるようになっている。


 今までは必要がなかったから僕は【治癒】は覚えていないんだけど、リュークとミルカの件で僕も【治癒】を覚えておかないといけないなと思ったので今度ニイナに掛けてもらうつもりでいる。


「だな。俺もビックリしたよ。でも「それでイケるんだ」って気づいてからは早かったな。皆ユーリの真似をして一人あたり10本以上は抜いてたから、レックスは度肝抜かれてたけどな」


「ははは。そっか、じゃあ聖銀等級ミスリルもイケそうだね」

「そうだな。特別検定は検定の内容も違うから実際にどうなるかは分からんが、受かる可能性は高いと思うぞ。ただ昇給しても今の街の状態じゃ金は稼げそうにないのが残念なところだけどな」

「そっか……」

「……で? アイザック。さっきからずっと浮かない顔してるのは何でだ?」


「え? 僕そんな顔してる?」

「ああ、してるな。元気がないのがバレバレだ」


 そんなに元気のない顔してたのか。

 自分じゃ全然わかんなかったな。


 まぁ、思い当たることは一つしかない。

 思ったよりも引き摺ってたってことか。


「じゃあ、……きっとそれは……マロウの腕を切り落としたことが原因だと思う」

「やっぱりそうか……なんとなくそんな気はしてたよ。あれはワザとじゃなくて事故だったのか?」


「うん。あの時は殴ってくると思って前を守ったんだけど、まさか横からはたいて来るとは思わなくって……」

「まぁ、マロウは悪ぶってるだけで中身はいい奴だからな。拳で子供を殴るのは気が引けたんだろうな。平手で手加減してたんだと思うぞ」


「うん。今は僕もそう思う。でも……あの時は僕も怒ってて、痛い目を見るのも自業自得だって思ってたんだけど、やっぱり悪いことしちゃったなと思って……」

 

「そうか……いや、それでいいんだ。アイザック、それでいいんだよ」


 僕の肩に手を置きながらお父さんはそう言ってくれた。

 ふと落としていた視線を上げると、お父さんの眼差しがとても優しくて、温かかった。


「え? 何がいいの? 悪いことしたのに?」


「うん······そうだな。何て言ったらいいか……、そう、教皇様が病気を治してくれてから、アイザックはどんどん強くなっただろ?」

「うん。教皇様のお陰だね」


「勿論それもあるが、アイザック自身が努力し続けた結果でもあると思うぞ。毎日寝ずに研究と訓練をしつづけて、みるみる強くなって……正直に言うと、まともに戦えば俺もアイザックに勝てる気がしない」


「え? そんなことないよ。お父さんは世界で一番強いよ」

「ははは、まぁ、そう言ってくれるのはありがたいけどな。でも、もしアイザックが俺の言うことが気にいらなくて、力で自分の思いを通そうとしたら……通せるだろうな」

「えええ? そんなことないよ!」


「でも、マロウや、街のチンピラ相手には通せただろ?」

「う……うん。まぁ……」


「だから、俺はアイザックが人の痛みを感じ取れる子で心の底から良かったと思ってる。アイザックが今感じてる暗い気持ちは、殆どマロウの自業自得とは言え、自分の力の使い方を間違って思った以上に人を傷つけたからだ。その気持ちをいつまでも忘れないでくれ。そうすれば暴力を振りかざすような大人になることはないだろう」


 そっか。

 今のこの気持ちを忘れちゃいけないんだ。今後、同じ間違いを犯さないために。


 自分の思うがままに力を振るったら、あのバルボッサっていうチンピラと変わらないもんね。


「うん、わかった」


「完璧な人間なんていないからな。間違いは誰にでもある。大事なのはそこから何を学ぶかだ。だから、しっかり反省して次の一歩を踏み出せばいい。そして力を間違って振るわないように今後も心と体と技を鍛え続けるんだぞ」

「うん!」


「ただ、どんな状況でも人を傷つけたらダメだと言ってる訳じゃないからな。よく状況を見極めることと、必要以上に傷つけない技量を身に付けることが大切だからな」

「うん、これから頑張るよ」


「よし、それでいい。それでこそ父さんの子だ」

「へへへっ」


 何か、落ち込んでたのに今は心が軽くなった。

 間違って人を傷つけないようにこれからもっと頑張ろう。





 一息ついた後、僕らは巨木の近くに来た。

 正確には巨木の周辺にある畑の東側だ。


 ちなみに巨木を中心とする畑の西側にはシオン川が流れている。

 東側にやってきたのはここに移住する人の家を建設する予定だからだ。


「ってことでだな。これから100人分の寝床を確保しなきゃならんのだが、アイザック行けるか?」

「うん、大丈夫だよ。ばっちり型取りしたからね」


 ダンが確認してきた。


 想定外に一気に100人も受け入れることになったわけだから住む場所を心配するのは当然だ。

 冬が目前に迫っているため普通なら移住は春まで待つところだけど、レイムの街は食料不足が深刻なため春を待たずに準備が整い次第移住する予定になっている。


 移住に関しては食と住の確保が優先課題になるけど、食は日々食物が収穫できるから全く問題はない。

 そして住に関してはこれから一気に建てていく予定だ。


 現在畑の周りにはポツポツと倉庫が建っているのだが、これは僕がスキルで建てたものだ。


 それで単に移住者用の住居を建てるだけじゃなくて自分たちが住む家もこっちに建てようと思っている。

 畑は巨木を中心に作ったため、村から結構距離がある。

 移動も訓練の一つと言えるが、移動時間が勿体無いということで村を移そうという話が元々出ていたのだ。


 普通なら家を建てるのは簡単じゃないけど、サラから「アイザックならスキルで家が建てられるんじゃないの?」というアイディアが出た。

 サラはとしては「【大地堅壁】のスキルで壁を建てるのは簡単でしょ?」と思ったらしい。屋根は自分たちで取り付ければいいと思っていたようだ。

 発想がサラっぽいなと思ったけど試す価値はあると皆思った。

 

 で、やってみたところこれが出来てしまったわけだ。


 【大地堅壁】の応用スキルである【大地操作】を使えば大雑把な造りではあるものの倉庫を造ることができた。四方を壁で囲って屋根を取り付けただけで窓は無い。入口のところだけぽっかり開いており、ドアは後付けする必要があるが、倉庫としては十分使えるものを建てることが出来た。


 土を【石化】で石に変えれば頑丈になるし、土臭さも無くなった。ただ、細かい操作はまだ苦手で屋根を作るのはそこそこ手間がかかったし、壁の表面は結構荒くなってしまった。誤って壁にぶつかれば簡単に傷が出来るくらいに危ない。


 でもいい点もある。今住んでる家は素人が手造りで木を組み立てて造っているため隙間も所々あり冬は寒くて凍える。雨が降れば雨漏りもある。でもスキルで建てた家は隙間がなくて雨漏りもしない。そういう利点があった。


 出来ると分かると欲が出るもので、拠点を移す話し合いはトントン拍子に進んだ。折角なら家は今よりも快適にしたいし、水場などの環境も整えたい。皆がより良い住まいを獲得するためにいろいろとアイディアを出し合って試行錯誤していったのだ。


 そして何度か試行錯誤を繰り返してくうちに僕の建築技術も磨かれていった。【形成】で屋根や壁の型を作ってそこに土を流し込む。という工法を編み出すに至った。型があることで壁の表面を格段にきれいに整えることが出来るし、屋根を造るのも簡単になった。


 加えて、表面部分を泥で覆うと壁の表面ををさらに滑らかにすることができることに気づいた。ちなみに水分を多く含む泥も【大地操作】で苦も無く操ることが出来たし、泥を【石化】すると水分が抜けて形が変わる……といったこともなく、滑らかな表面を維持できた。

 ちなみに泥が操作できたので、できるかなぁと試したことがある。土を操るように水に術式を展開してみたところ、水だけでも操ることが出来て驚いた。土よりも思い通り操作するのは難しかったけど、しばらく練習すれば慣れた。水を操作するスキルは別に名前を付けて【水操作】と呼ぶことにした。


 それなりにいいものを建てられるようになると、「どうせなら貴族様が住んでるような素敵な家に住みたい」という要望が出てきた。もちろんサラからね。まだ倉庫しか作ったことないのに……。


 でも型さえ出来ればそこに土を流し込むだけなのでそう難しくは無いように思えたし、皆もサラと同じ意見だったので、素敵な家を建てる方向で意見は一致した。


 ただ、問題が一つあった。貴族様の家ともなるとトイレが家の中にあるらしい。場合によってはお風呂というものもあるのだとか。


 残念ながら素人の集まりである僕らにはどういう構造にすればトイレやお風呂を機能させることが出来るのか分からなかった。トイレで言うと排泄したものをどうするのかとか、お風呂の水はどこから汲むのかとか、どうやってお湯を沸かすのだとかその辺のことを踏まえてどう家を造ればいいのかが分からなかったのだ。


 村であれば、用を足したり体を洗うのは基本的に自然の中だ。一応家の外にトイレはあるが、あまりそこは使わない。臭いからね。冬に外で用を足すのがつらくなったら使う感じだ。

 自然に還すのが一番いいのだ。逆に人の多い街は(レイムの街もそうだけど)自然に還元するのが難しいため汚物の処理に困ってとても臭い。

 まぁ農村も臭いんだけど、空気がきれいなのは間違いなく農村の方だ。


 まぁ、それはいいとして、無理に身の丈を超えるような家を造る必要な無いんだけど、街に行く予定もあったし、「それなら街の立派な家を参考にすればいいんじゃないか」と言う話になった。


 それで、レイムの街に行ったときにそういう立派な家を型取りしてきたわけだ。代官の屋敷、宿屋、ギルドハウス、金持ちの家、などなどね。


 ちなみに、型を取るのは簡単だ。家に魔力を注ぐとその構造が手に取るように分かる。そして家の内外の表面をなぞるように【形成】すると型が出来る。あとはその形を僕が覚えるだけだ。


 幸い、教皇様の魔法のお陰で物覚えは良くなった。頭も賢くしてもらえたのかもしれないけど、見たり聞いたりしたことは大抵1回で覚えることが出来るようになった。当然自分が【形成】した形も一度で覚えることが出来る。

 

 そして、壁や屋根だけじゃなくて、ベッドや棚、椅子、テーブル、食器、壺などの型も取ろうと思えばとることが出来る。家具もばっちり型取った。石にすると重いから型取りした家具を全部石で作るつもりはないけど一応一通りの家具を型取っておいた。


 という経緯があり、今に至る。


「【大地操作】」

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 目の前の地面が大きくうねり、どんどん地面が下がっていく。周囲には押し出された土がどんどん盛られていく。あたかも大きな圧力が加わって目の前の地面が大きく押し下げられたような感じになっている。


「【形成:代官の屋敷】」


――ヴォン

 と大きな家の型が飛び出てきた。


――おおおおおおおおおおおおおおお!


 皆から歓声が上がる。

 空中には代官の屋敷を型取った透明な建物が浮かんでいる。


 代官の屋敷はお風呂やトイレもある。地下室とかもある。

 その地下室部分を押し下げられた地面に据える。


「【大地操作】」

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 地下室部分を埋める。


 そして地下水と土を混かき混ぜる。

 そしてどろどろになった泥を家の型に押し流していく。 


 泥を型の隅々まで行き渡らせる。

 泥には魔力が通っているのでしっかり行き渡っているかどうかは魔力で確認できる。


「【石化】」 


――パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ……



――おおおおおおおおおおおおおおお!

 

 再び歓声が上がる。


 屋敷は泥の色から白に近い灰色に変わっていった。


 先程まで漂っていた泥臭さも消えている。

 目の前には石でできた見事な屋敷がそびえ建っていた。 




 ちなみに……、街にある色んな建物を型取りをしてもトイレやお風呂などの水周りをどうすればいいのかは結局分からなかった。もしかしたら使用人が全部手作業でいろいろやっていたのかもしれなし、何か便利な魔道具を使っていたのかもしれない。


 でも……分からないなりにある程度の参考にはなる。

 何もないところから色々考えるよりもはるかにアイディアを出しやすくなる。


 なにも代官の屋敷でやっていたようなことと同じことをしなくてもいいのだ。

 何と言っても僕は色んなスキルを使えるのだから……。 

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