第14話 異常気象
「アイザック、これはお前が肌身離さず持っていろ」
お父さんはそう言ってネックレスをくれた。
ネックレスといっても、紐で作ったもので、先には袋がついている。
その袋の中には魔石が入っていた。
「これは猪の?」
「ああ、そうだ。結構大きな魔石が取れたからな」
動物や魔獣、魔物は体内に魔石がある。体内というか、大体は脳にある。
魔石は肌身離さず持っているとその人が無意識に発している魔力を吸収する性質があって、沢山魔力を吸収した魔石は用途が高く結構いいお金で売る事も出来る。
例えばその魔石を持って教会に行けば、魔石の魔力を使って回復魔法をかけてもらうことができる。お金がない場合はその魔石を差し出すことでただで治療を受けられる。(魔石に十分な魔力が残っていない場合はお金を請求されることもある)
そのため生まれた時から魔石を肌身離さず持たせるのが普通だ。
僕も以前は持っていたんだけど、今は持っていなかった。
僕を除いた村の子供たちが皆病気になって、街に行って教会で回復魔法をかけてもらったんだけど、街への行き返りと、回復魔法の費用で村中の魔石を全部使い果たしてしまったからだ。
悲しいことに、回復魔法の甲斐なく皆命を落としてしまったんだけど……。
そんなわけで今まで魔石は持っていなかった。
魔力が空になった魔石は結構安く売っている。でも開拓村で手に入れようと思ったら狩りをするしかない。
そして子供よりも大人の方が魔力を発しているらしく、魔石は優先的に大人たちが身に着けていた。
ちなみに、魔石は沢山持ちすぎると魔力の吸収効率が落ちるので、一人2~3個くらい持つのが効率的とされている。
回復魔法に次いで代表的な魔石の使われ方は鍛冶だ。
魔石を触媒にして作られた武器や防具は性能が段違いによくなるらしい。
そうして造られた武具は霊具と言われ、他と区別される。
平民は大抵回復魔法に魔石を費やしてしまうんだけど、貴族様やお金持ちの商人たちはそこをお金で解決する。そして自分の魔石は鍛冶に使って、自分用の霊具を造らせるんだとか。
ユピィは魔石が気になるようで、袋をよくつついてきた。
そのユピィはと言うと、食欲旺盛で本当によく食べた。
何度も何度もご飯をねだってくるんだけど、それが何とも可愛いいんだよね。
お肉は沢山あるから、小さく噛み千切ったものをどんどんユピィに与えてしまった。
結果、1日で体が少し大きくなった気がする。
明らかにふわふわ度は増している。
それで僕はと言うと、眠れない夜の時間を使って魔力を操作する練習をしていた。
もっと色んなことが出来ないかと試した結果、······正確には家の中に明かりが欲しくて色々試した結果、【強化】を同時に複数発動させることに成功した。
【強化】で村を覆ったから夜も明るくなったんだけど、光っているのはあくまでも空気を強化した壁の部分で、外は明るいけど家の中は暗かったんだよね。だから家の中に明かりが欲しかった。
それで、複数発動することが出来るようになったので、次は光の壁を使ってもっと色々出来ないかなぁと試行錯誤してる。
僕自身、【強化】というスキルについてまだまだ分かっていないことがあるから、これからもっと研究していかないと……と思っている。
そして10日経った。
森で魔境化が進行しているせいか村にも少しその影響が出てきた。
これまでの常識が全然通用しなくなっているって、お父さん達が話していた。
一つは畑の麦が大きくなっている。
森の木々の成長に比べたら大したことないけど、確実に普通の麦よりも大きい。
これで収穫量が増えてくれたらなと皆期待している。
あとは家畜たちも大きくなっている。
巨大化とまでは言わないまでも、二回りくらいはサイズが大きくなって逞しくなっている。でも、なぜか食べる量はそんなに変わっていない。
開拓村には3頭の牛がいる。
オヤブンとアンナ、そしてハンナだ。
ハンナは、アンナの子供で、お父さんはもちろんオヤブン。
お父さんたちは開拓村に越すことになって、3家族でオヤブンとアンナを購入した。
そしてハンナは開拓村で生まれた。
なので牛は村全体の所有物となっている。
牛は貴重な労働力でもある。
それは村の皆が壁越えを果たした今も変わっていない。
だからオヤブンが逞しくなったのはとてもありがたいことだ。
力強くなって、更に開拓がはかどるようになった。
魔境化の影響は何も悪いものだけじゃないんだって分かって嬉しかった。
ちなみにアンナは現在妊娠中。
この10日間でユピィは更に成長した。
もこもこふわふわしてとっても可愛らしい。そして食べる量も日を追って増えている。
ユピィが魔境化の影響を受けているのかどうかは分からないけど、どんどん大きくなってほしいと思う。
実はあの猪狩り以降、僕らは狩りに出ていない。
理由は二つある。
一つは訓練のため。魔獣が出る可能性があるから、魔力操作が出来るようになってからの方が安全だ。ということで皆訓練に明け暮れている。
もう一つは雨だ。
猪狩り以降、ずっと雨が続いている。
雨が降ったら狩りが出来ないという訳じゃない。でも、雨が降ると僕の耳や鼻は大して役に立たなくなる。その分リスクが上がるので、食料の心配がない今は狩りに出ていないという訳だ。
この時期に雨が降るのは珍しい。
雨はきれいな飲み水として有用だし、作物を育てるために必要なものでもある。
「また今日も雨か……まずいな……」
お父さんがボツリと呟いた。
僕はよく知らなかったんだけど、恵みの雨とは言え、この時期に雨が降り続けるのは良くないらしい。
お父さんが言うには、この時期に雨が沢山降ると小麦が上手く育たなくなってしまうんだとか。
それはもっと早く教えてほしかった。
「じゃあ、村には雨が降らないようにするね」
その数秒後雨が止んだ。
「おいおい、ウソだろ? アイザックがやったのか?」
「うん、そうだよ。結構【強化】の応用が出来るようになったからね。雨を通さないようにしたんだ」
「そ、そうか……凄いな、アイザック!」
「もし雨水が必要なら言ってね。また雨を通すようにするから」
「ああ……わかった。助かるよ」
「へへへ……」
お父さんに褒められて嬉しかった。
ずっと【強化】スキルを試行錯誤してきたおかげで、光の壁についてはある程度応用を効かせることが出来るようになっていた。
その一つは形状の変化。
光の壁の形をイメージに沿って変えることが出来るようになった。
このイメージ通りに変形させるスキルを僕は【形成】と名付けた。
ちなみに【形成】したものは空中に浮かせることもできるし、僕の意思で動かす事も出来る。
あとは、魔力量を調節することで光を抑えたり、強く光らせたり、と光の強弱をつけることも出来るようになった。猪は赤い光だったのに、何故か僕のは白い光だから明りとして使うのに都合がいい。
あとは、魔力の調節で壁の強度を変える事も出来た。
最初は固い・脆いの調節しか出来なかったけど、次第に柔らかいものを作る事が出来るようになった。
あとは、何を通して、何を遮るかコントロールできるようになった。
目で見て判断する場合はほぼ完璧にコントロールすることが出来る。
でも、目で見てない場合は細かいコントロールをすることは出来ず、どの程度の攻撃を防ぐかといったコントロールしかできない。
村を覆う光の壁をずっと目視し続けるわけにもいかないので、今回は雨粒程度の攻撃を防ぐというコントロールをしたわけだ。
雨水は貴重な飲み水でもあるので、【形成】で大きな入れ物を作り、そこに溜めこむようにしている。もし水が溜まりすぎて邪魔になってきたら……地下にでも埋めようかな?
夜、明るいことも生活に変化をもたらした。
今までは暗くなると何もできなくなるため寝るしかなかった。
薪は冬に備えて無駄遣いするわけにはいかないし、ランプの燃料となる油や蝋燭は簡単に補充できない。買うにしてもお金がかかる上、近くの街まで買いに行くにも時間がかかる。
夏が近くなり昼の時間が長くなってきているとは言え、夜に作業ができるようになったことはとても画期的なことだったのだ。
魔力操作の訓練を兼ねて開墾作業を行うことで、皆強くなり、村は広がっていった。ちなみに新しく開墾した土地には豆を植える予定。
そして更に20日経った。
相変わらず雨が続いている。
途中、雨が止む日が1日あり、その日は久しぶりに狩りに行った。
そこで死熊よりも大きい鹿を狩って皆ホクホクだった。
王鹿って言うらしいんだけど、本来はもっと北の方に住んでる鹿らしい。
死熊もだけど、王鹿が何故こんな村の近くにいたのかは分からない。
分からないけど、多分魔境化が影響してるんだと思う。
「天気が異常すぎる。このままだと、メイロード伯爵領は凶作になるらしい」
街から帰ってきたダンがそう教えてくれた。
どんどん農地が広がったためダンとロイドは近くの街まで豆の種を買いに行った。街までは本来片道3日かかるのだが、驚くべきことに二人は日帰りで帰ってきた。さすが壁越えしてるだけあるね。
そこで二人が仕入れた情報によると、周辺の土地でも雨は降り続いていて、「領内は凶作になるだろう」と噂されていたらしい。既に川が氾濫して水害に見舞われた土地もあるとのことだ。
「うちの村はまだ運がいいのかもしれないな」
ダンにそう言われて僕は苦笑いするしかなかった。
実は、うちの開拓村も3回くらい近くの川が氾濫してるんだよね。
でも、光の壁でこっそり水を防いだから村に被害は出ていない。
皆を不安にさせないように、水害の件は誰にも伝えていない。
もしこの件で誰か称賛されるべき人がいるとしたら、それはやっぱり教皇様だと思う。教皇様の魔法がなければ今の僕はいないし、何の力も得てなかったのだから。
豆は猪の牙や毛皮を売ったお金で購入した。
結構な値段で売れたらしく、二人は豆を大量に購入してきた。
豆は鳥に狙われやすいんだけど、光の壁で囲まれてるからその心配はない。安心して種をまくことが出来た。
そして種をまき終わり、芽が出るころになると、村に司祭様がやってきた。
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