第13話 スキルの検証

「ピィィィィィィィ」

「お、これは雪梟の雛だな」

「雪梟? 全然雪っぽくないけど……」


「雛の時はこんな感じで灰がかった色をしているが、大人になると雪のように真っ白になるんだ」

 そう、お父さんが教えてくれた。


「巣に返してあげなさい。大分高いところにあるけど行けそうか?」

「うん大丈夫。肩借りるね」


 そんな訳で、巣に戻そうとしたのだが、巣に戻すと……

「ピィィィィィィィ」

 と巣から飛び出て僕のところに戻ってきてしまった。


 そして、そんなやり取りが3回くらい続いた。


 あれ? これはもしかして……

「君、もしかして僕と一緒にいたいの?」

「ピィ!」


 また、タイミング良く鳴くもんだ。

 僕の言ってることは分からないと思うんだけど……


「もしかして僕の言ってること分かる?」

「ピィ!」


 え? 本当に?

「本当に分かる?」

「ピィ!」


 偶然……だよね?


「やっぱり置いていこうかな……」

「ピィピィ!」

 雛は首を横に振った。


 すっげぇ! この子すっげぇ!

 本当に言葉通じてるよ!


「君すごいね。僕の言ってること分かるんだ」

「ピィ!」


「じゃあ、一緒に行こうか?」

「ピィ!」


 そんなわけで、お父さんたちに事情を説明してこの子を連れていくことにした。


「じゃあ、名前をつけないとな。アイザックが決めなさい」

「え、僕がつけていいの?」


「そのかわり、しっかり面倒を見るんだぞ。お前がこの子のお兄ちゃんになるんだ」

「うん、任せて。お兄ちゃんとしてしっかりお世話するから!」


 ってことで名前はどうしようかなぁ?

 ユキフクロウでピィピィ鳴いてるからユピィにしよう。


「決めた、名前はユピィにする」

「ピィ!」


「お、気に入ったみたいだな」


 そんなこんなで僕はユピィのお兄ちゃんになった。


「でも、ユピィって何食べるんだろう?」

「フクロウは肉食だからな。肉を小さく噛みちぎってそれをあげればいいと思うぞ」

「良かった。お肉ならいっぱいあるから大丈夫だね」


 ユピィを僕の肩に乗せる。

 雛でありながらユピィはしっかりとバランスをとってる。

 これなら落ちる心配をしなくても大丈夫そうだ。



「ピィピィィィ」


 村に帰る途中、ユピィが鳴いた。

 この鳴き声の意味が何故か僕には何となくわかった。


「あ、お腹すいたのかな? ちょっと待っててね」


 間食用に持ってきておいた狼肉の干し肉を少し噛み千切りよく噛んでからをれをユピィにあげた。

 ユピィはそれをゴクンと丸飲みにして、また鳴く。

 満足するまで何度かそれを繰り返す。


 どんどんお腹が膨らんでいくのが分かって面白い。

 そして満腹になったからか今は僕の掌の上で幸せそうに寝ている。


 ちなみに、猪の解体は子供の方だけにして、それをダン、ニイナ、ユーリで手分けして持っている。

 親の方は大きすぎて、解体するとまとめきれないので血抜きだけして、解体は村で行うことにした。親の猪はお父さんが肩に担いで運んでいる。

 ただ、猪がデカすぎて、猪が浮いているようにしか見えない。



 もう少しで村に着くというところまで来ていたのだが、突然それは起きた。


「ぐおおぉぉぉぉおおおおおおお」


 突然お父さんが、叫んだかと思ったら猪に潰されてしまった。


「ガイル、大丈夫か?」

 隣にいたダンが声を掛ける。


「だ、大丈夫だ……。いや、やっぱりあんまり大丈夫じゃないな。急に力が入らなくなった。ちょっと助けてくれ」


 さっきまで軽々持ち上げていたというのに、急に力が抜けて潰されてしまったということらしい。

 皆に助けてもらって何とか猪の下から這い出たお父さんは特に怪我もしておらず大丈夫だったのだが、少々困ったことになってしまった。


「どうしたガイル、魔力が尽きたのか?」

「いや、魔力が尽きたって感じではないと思うんだが……魔力の流れがわからなくなってしまった。多分、スキルの効果が無くなったんだと思う」


「もう一回スキルは使えそうか?」

「いや、それがさっぱりだな。どう使っていいか自分でも分からないんだよ」


「ふんふん。そうか……」

 ダンは少し考え込む。


「もしかして……あの怪力はガイルのスキルじゃなくて、アイザックのスキルの効果だったんじゃないか?」

 

「あ……、そうかもしれんな」

「それなら、ガイルがスキルを発動できないことにも説明がつく。さっき、光に包まれたのはガイルだけだった。あの光に包まれると力が溢れてくるのかも知れない。アイザックはさっきのスキル使えそうか?」


「うん、使えるよ」

「じゃあ、ここにいる全員を光で包むことって出来そうか?」


「まぁ、試してみないと分からないけど、多分出来るかも。ちょっとやってみるね」


 心の中でスキルを使うと念じる。

 すると、半球の光の壁が僕を中心に発生してあっという間に広がり、皆を包んでいった。


「猪は弾かれたのに、俺たちは弾かれないんだな。それと……」

 確かにダンの言うとおりだ。

 どうしてだろう? 僕が味方と思っている人は弾かれないのかな?


 それと、皆の魔力がすごく漲ってる。


「これはすごいな」

 そう言ってダンが親猪の体を軽々と持ち上げた。

 良かった。一先ずこれで問題は解決だね。


「やっぱり、この怪力はアイザックのスキルで間違いないな。……でもこれってどんなスキルなんだ?」


 どんなと言われても自分でもよく分かっていない。

「猪が使ってたやつと同じだと思うよ」


「どういう効果があるか分かるか?」

「うーん。ハッキリとは良く分からないけど、攻撃を防ぐ壁を作るのと、あとは皆の力を上げることかな? まぁ、皆も分かってることしか僕も分かってないんだけど」

 

「俺も詳しくは知らないんだが、スキルってのは長い修練の先に会得できるものだって聞いたことがある。まぁ、最初にスキルが発動するのは感情に起因するともいわれているが、簡単に会得できるもんじゃないんだよ。ましてや複数の効果があるスキル何て聞いたことないしな」

 

「何だろう。あんまり難しいことをやってるイメージはないんだよね。壁を作るのも、皆を強くするのも同じことをしてる気がする」


「初めてスキルを使ったときは何を考えてた?」

「うーんと、何となく猪と同じことが出来そうだなって思っただけなんだよね。あとはお父さんが危ないって思ったらいつの間にか発動してた……」


「猪と同じか……つっても、猪の気持ちなんて分かんないしな……」

「ダン、何言ってるの。それくらい分かるでしょ。子供を守りたかったのよ」

 ニイナがすかさずツッコミを入れる。


「いやいや、それがきっかけだったかなんて分からないだろ?」


「いや、多分そうなんじゃないかな?」

 お母さんの意見もニイナと同じみたいだ。


「ダン、俺もニイナとユーリに賛成だ。猪のスキルは自分の体を覆う程度のものだったが、それは力が足りなかっただけで本当は子供を守るためのスキルだったんじゃないか? 母親の愛が生んだスキルだと思うぞ」


「そうか……そう言われたらかもな」

 ガイルの言葉にダンが納得する。


 あの猪の怒りを目にすればどれだけ子供を愛していたのかが分かる。

 あの凄まじい感情の爆発がスキルを生んだのかも知れない。


「母の愛か。何かあの死熊を思い出すわね」

「ええ」

 お母さんとニイナがちょっとしんみりしていた。

 

「なぁアイザック、分かったら教えてほしいんだが、あの壁はどうやって作ってるんだ?」

「うーん。なんだろう……空気をすっごく強くしてる感じかな」


「そうか、なるほどな。そういうことか。何となく分かったぞ。多分だが、アイザックのスキルは強化することなんだと思う」

「強化か。確かに……ダン、すごいな。良く分かったな」

 お父さんはダンの出した答えに納得する。


 強化……うん。言われてみたらそうかも。

 僕のイメージともしっくり合う感じがする。


「光の壁は魔力で空気を強化してるから、味方は弾かず、敵を弾くことも自在なんだろう。それと光に包まれた味方の身体能力を強化するってのは……まぁ、そのまま強化してるんだろうな」

「確かにそれなら同じことをしてるわね」

 ニイナもダンに同意する。


「あのさ、ちょっといいかな?」

 お母さんが皆に尋ねた。


「今、目を凝らしたら私にも魔力が見えるようになったんだけど、これって練習したら私も魔力が扱えるようになるのかな?」


 お母さんの言葉で皆はっとした。


「俺も……見える」

「私も……」


 どうやらダンもニイナも魔力が見えたらしい。


「でも……魔力ってどうやれば動かせるんだ? アイザック分かるか?」

「んと、動かそうと思ったら何か動くけど……ダンは動かせないの?」

 動かしたいと思ったら自然と動くけど……皆は違うのかな?


「いや、何かうまく動かんぞ」


「あ、私は動くよ。結構簡単ね」

「そうね。普通に動かせるわね」

「俺は……何とか動かせるといった感じだな」


 どうやらダン以外は動かせるらしい。


――ボキィィィィィィィィィィィィィィ――


「うわぉ!」

「すごいじゃん、ユーリ! 何かのスキルみたい!」


 急に大きな音がして何事かと思ったら、お母さんが大木に突きを入れていた。

 そしてその木はボッキリと折れていた。


「ちょっと試しに拳に魔力を集めてみて殴ってみたんだけど……これすごいわね! 凄い威力だけあって何か一気に疲れちゃったけど、これなら魔物とでも戦える気がするわ!」


 え、魔力を集めるとあんなにすごい威力が出ちゃうんだ。すごいなぁ。


 一方、お父さんとダンの顔からは精気が失われていた。


「魔力って凄いわね! 今度はガイルで試してみようかしら?」

「あ、いいわね、私もダンで試してみよっと。ダンは防御力高いし、手加減しなくても大丈夫よね?」


 お母さん達、顔は笑ってるけど、目が笑ってない。


「「勘弁してください!」」

 お父さんとダンは全力で頭を下げる。


 もちろん、お母さん達は本気で言ってるわけじゃないけど、お父さんたちは魔力がうまく扱えないみたいだから立場が弱い。


 何にせよ、すごいことが分かっちゃったな。貴族様や騎士様じゃなくても魔力って扱えるものなんだ。

 そして、魔力が扱えるなら皆もスキルが発動できるようになるかもしれない。



「ダン、俺たちも練習すればきっと魔力を扱えるようになるさ」

「そうだな。そして、嫁さんを見返そう」


「ああ」

 お父さんとガイルは互いの右手をガシッと握り合い、固い決意をしたのだった。


 お父さんの力が戻ったので、ひとまず村に戻って全員で僕のスキルと魔力について検証することにした。


 ロイドとサラに僕のスキルのことを話したらすごく驚いていた。まぁ、当然だよね。


 ちなみに、僕のスキルの名前は皆で考えて【強化】と呼ぶことにした。何の捻りもなくそのまんまだけど。

 もしかしたら他にちゃんとした名前があるのかもしれないけど、誰も知らないから勝手に名前を付けることにした。


 僕としても名前がある方がスキルを使うときに格好がつくから何かしら名前があった方がいいと思ってたんだよね。


 それで検証してみたところ分かったことがいくつかあった。

 ・魔力は女性陣の方が扱うのが上手かった。(ダンも練習を重ねて少しずつ扱えるようになっている)

 ・今のところ皆【強化】なしには魔力が見えたり魔力を操ったりすることが出来ない。(僕を除く)

 ・魔力を集めて攻撃すると疲労度と魔力の消費が大きくなり、【強化】が解けるのが早くなる。

 ・【強化】の継続時間は僕の込める魔力にもよるけど、最大で半刻くらいもつ。

 ※半刻は約1時間

 ・【強化】による身体能力の向上はすさまじく、僕以外の大人は皆親猪を軽々と持ち上げた。それ以上に重いものがないため今のところ上限は不明。僕に関しては男性陣3人を持ち上げるのが精一杯だった。

 ・【強化】されると防御力も著しく高くなる。

 ・【強化】の有効範囲に上限はない。



 意外だったのは【強化】の有効範囲に上限がなかったことだった。


 魔力というものは使えば消耗する。そして消耗した魔力は時間の経過とともに少しずつ回復していく。

 そいったことも魔力が見えるようになって分かった。

 

 【強化】の発動には魔力を消耗するから、当然有効範囲が存在するはず。というのがダンの予想だったんだけど、これが見事に外れた。


 僕の場合、教皇様の魔法のせいかよく分からないけど、どれだけ魔力を使ってもすぐ回復してしまっていた。これは教皇様の魔法と言うよりも地脈が関係しているのかも知れないけど、その辺のことは僕たちは何も知識がない。だから、一先ず教皇様の魔法のお陰ということになっている。


 とにかく魔力が無くならないので、どんどん【強化】の範囲を広げることが可能で、村全体を覆うことも可能だった。


 それならばと、今後村をずっと【強化】で覆うことにした。

 僕に特に大きな負担がなかったからというのが大きいけど、そうすれば動物や魔獣、魔物、あとは盗賊とかに襲われる心配もないし、畑も守られる。


 それに、皆も魔力を扱う練習を好きなだけできるしね。

 ちなみに、【強化】の内側は明るくて、夜も安心して過ごすことが出来るようになった。僕にはそれが一番嬉しいことだった。



 

 こうして、開拓村の面々はどんどんと、そして着実に常識から外れた道を歩んでいくのだった。

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