第234話 どうかこれからも私をご贔屓に
「こんな時間までお邪魔してしまって、本当にすみません」
部屋の入り口でコリンさんが申し訳なさそうな顔を浮かべながら頭を下げる。
それを慌てて両手で制止しながら、私も同じように頭を下げた。
ついバイトの癖で腰をしっかりと曲げてしまう。
「いえっ、元はといえばこっちが無理に引き留めたようなものですし」
そう言う私の視線に映る廊下は、等間隔に設置された明かりでうっすらと赤く色づいて、夜特有の静けさを漂わせていた。
そもそも、お昼のランチタイムでお酒を飲んだのがいけなかったのです。
最初は和気藹々と進んでいた餃子パーティだったけど、日本酒を飲んでも顔色ひとつ変えないコリンさんにリークさんが「どれだけ酒が強いのか気になるぜ!」と言い出したのが始まりだった。
そこからはも~~~う大変!
仕事に戻ろうとするコリンさんを引き留めて、誰が一番お酒に強いか大会を始めちゃうんだから!
日本酒、ビール、チューハイ、ウイスキー。
ぽいぽい出てくるアルコールは犬堂さんが自分のアイテムボックスに入れておきたいからって理由で精算した商品なんだけど、こんなにレジに通してたなんて知らなかったっていうか……次から次へと色々な商品を通していたから気付かなかった。
少しレベルが上がったのか、体の負担はそれほど感じないんだけど。
うう、スキャンした商品は値段確認必須!
そしてレシートはすぐに捨ててしまわないで、ちゃんと値段が間違っていないか確認してから捨てましょう!
『オレと犬堂とウィル。そしてコリン。誰が一番酒に強いか競争だ!!』
『はぁ……構いませんが。損得勘定は有りで?無しで?』
『無しに決まってるだろ』
『いいね~鉄の肝臓と言われた僕の真の力を見せてあげるよ』
こういう場面で一番諭してくれる筈の犬堂さんが、今日ばかりはテンションが高くて全然ストッパーの役目をなしてくれない。
あれよあれよ、という間に次々お酒が開けられていっちゃって。
最初にウィルの酔いが回って、自分の意志でリタイア。
次に犬堂さんが、プツッと糸が切れるみたいに寝ちゃってリタイア。
残りはリークさんとコリンさんの一騎打ち。
『いや……ウソだろ』
『お酒の席は慣れていますので』
『慣れるってレベルじゃ…な、い……って……』
カツンッと綺麗な音を立てながらコリンさんのショットグラスがテーブルに戻されると、ばたんと突っ伏すようにしてリークさんがリタイア。
最初の方は昼間っからお酒を飲んじゃうみんなに反発していたんですが……。
途中から白熱しちゃって、最後の方はスポーツ観戦でもするみたいに、「がんばれー!」って応援していたから、強くは言えないんですけど、ごにょごにょ。
そんなこんなでコリンさんに片づけを手伝ってもらって、やっとお見送りです。
空っぽになった大量の瓶を見ていると、お酒を飲んでいない私まで頭がガンガンしてきそう。
それにしても、コリンさん。
アレだけ呑んだのに顔色ひとつ変わってなくて、本当に人間なのか疑うレベル。
リークさんも強かったけど、コリンさんは全く酔っている感じがしない。
「私の顔に何か?」
「えっ!あ、いやぁ……コリンさんお酒強いんだなぁって。片づけを手伝ってくれている時も全然ふらついてなかったし。今だって、普通に帰ろうとしてるじゃないですか」
ジッと見ていたのがあっさりバレて、私は素直に白状する。
するとコリンさんが少しだけくすぐったそうに笑った。
「元々酒好きなんですよ私。もてなす側が多いので普段はセーブをしていますが、今日は異世界のお酒ということで、ついハメを外してしまってしまいました。流石の私も顔が少し熱いですね」
「え~~本当ですかっ」
廊下が薄暗いのもあって、私には普段と変わらないコリンさんが立っているようにしか見えない。
「本当ですよ」
だから、何気なく伸びてきた手が私の顎をそっと掴んで上を向かせるまで、そのちょっぴり赤くなった顔に気づけなかった。
ちゅっ、と羽でも触れたみたいに唇へ落とされた口付け。
目をまん丸にする私を見下ろしながら、コリンさんが目を細めた。
「酔っぱらってでもないと、こんな事できませんから」
ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたかのような感触。
それがドキドキと脈打つよりも先に、コリンさんは私から離れていく。
そして、肩越しに一度だけ振り返って微笑んだ。
「冒険者連盟のマクスベルン本部は大陸で一番優秀です。遠隔で会話が出来る力をお嬢さんは持っていると聞きましたし、どうかこれからも私をご贔屓に。絶対に損はさせませんよ、シーナさん」
心臓のドキドキを私に植え付けながら夜はふけていく。
ううう、大人の男の人はずるいですっ!!ずるすぎるのですーー!!
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